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プロレス王者事故からの警鐘 首都高都心環状線に潜むワナとは!?

佐川健太郎モーターサイクルジャーナリスト
事故現場近くの首都高。トンネル出口は急カーブになっている。写真:筆者撮影。

今月3日の午後10時半頃、プロレスラーの青木篤志さん(41)が首都高速都心環状線外回りをバイクで走行中、トンネル出口手前の左の側壁に衝突する事故により亡くなった。

警察によると現場は千代田区北の丸公園1の右カーブで、青木さんは何らかの原因で曲がり切れなかったとみられている。単独事故で現場にはブレーキ痕が残っていたという。青木さんは250ccのバイクで仕事に向かう途中だったようだ。

鍛え上げたアスリートでも……

以上がニュース報道などから分かり得る情報である。著名タレントやスポーツ選手のバイクによる事故は今までにもあったが、青木さんはまだ若い現役のプロレス王者であり、将来を有望視されていたヒーローだっただけにその衝撃は大きい。

と同時にどんなに鍛え上げたアスリートでも簡単にその命を奪われてしまう、交通事故の恐ろしさをあらためて思い知らされることとなった。

可能性はいろいろ考えられる

詳しい事故原因は分からない。「何らかの原因でカーブを曲がり切れなかった」と伝えられているが、普通に考えれば速度を出し過ぎて曲がれなかったということになってしまうだろう。

ブレーキ痕が残っていたということから、パニックブレーキで前後輪がロックして転倒したとも考えられるが、他の可能性もある。もしかしたら他車の車線変更や割り込みなど2次的な要因があったかもしれないし、走行中に急な脳や心疾患に襲われた可能性もゼロではない。

しかしながら分かっているのは、右カーブを曲がれずに側壁に衝突・転倒したという事実だけだ。

都心環状に潜む鬼門

首都高は自分も毎日のように利用しているし、事故現場もよく通る。何故今回の事故が起きてしまったのかを自分なりに理解したいため現場を訪れてみた。

首都高都心環状線は皇居をぐるりと一周するように走るまさに都心の大動脈で、交通量は常に多い。事故現場は千鳥ヶ淵を右に臨みながら、春ならば満開の桜が見られる美しい場所だ。外回りなので、三宅坂JCTから竹橋JCTへと向かうルートだが、そこには2つの鬼門がある。千代田トンネルとその出口にある急カーブだ。

直線の後にくる急カーブが危ない

千代田トンネルは都心環状には珍しく数百メートルの直線があり、クルマも100km/h近い速度で流れていることもある。そして、その出口にある急カーブで事故は起こった。実はこのカーブ、トンネル出口のちょっと手前から曲がり始めているクセ者。そのため、手前からは出口がやや見えづらく、バイクで走るときは自分もいつも緊張する。

ただ、急カーブといっても「高速道路としては」であって、設計の古い首都高ではその程度の曲率のカーブはいくらでもあるし、急カーブを知らせる赤白のペイントがこれでもかというほど側壁には塗られ、ドライバーへの注意喚起もしている。

そういうものだと割り切って、速度を抑えながら慎重にアプローチすれば普通に曲がれるはずだが、慣れていない人はドキッとするかもしれない。

クルマと異なるバイクの運転特性

特にクルマならなんてことはないカーブと思うはずだが、そこで考慮すべきはクルマとバイクでは運転特性に違いがあるということ。

クルマは曲がれないと思ってもブレーキを踏んでハンドルを切れば大抵は無難に曲がっていく。

一方、バイクは車体を傾けて曲がる特性上、コーナリング中には基本的に強いブレーキをかけられず、途中から曲げ直してラインを修正することも容易ではない。

また、クルマであればよそ見をしながらでもハンドルを切れば曲がれるが、バイクは見た方に吸い寄せられる。曲がれない、ぶつかると思って側壁を凝視すればそちらに一直線に進んでいく、そういう乗り物である。

暗く速度感覚が鈍りやすいトンネルに加えて、夜で出口付近も闇に紛れていたかもしれない。どうしてもペースが速くなりがちな首都高でも珍しい長い直線の後の急カーブ、そして多くのライダーが苦手意識を持つ右カーブだった。不運が重なったとも言えるアクシデント。

悲しい事故を繰り返さないためにも自戒の念を持ってハンドルを握りたい。

出典:Webikeバイクニュース

モーターサイクルジャーナリスト

63年東京生まれ。早稲田大学教育学部卒業後、RECRUITグループ、販促コンサルタント会社を経て独立。趣味が高じてモータージャーナルの世界へ。編集者を経て現在はジャーナリストとして2輪専門誌やWEBメディアで活躍する傍ら、「ライディングアカデミー東京」校長を務めるなど、セーフティライディングの普及にも注力。㈱モト・マニアックス代表。「Webikeバイクニュース」編集長。日本交通心理学会員 交通心理士。MFJ認定インストラクター。

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