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一歩先にある素晴らしき世界 ”ゆるオフ”体験のすすめ!

佐川健太郎モーターサイクルジャーナリスト
写真出典:Webikeバイクニュース

最初は誰でも初心者

先週末、Webikeみんなのスクール初の「アドベンチャー・ツアーセッション」を開催しました。「初めてのダートで“ゆるオフ”体験!」をテーマに、対象をオフロード初心者に限定したのが特徴です。オフロードバイクに乗っているが、ダートを走ったことがない。憧れはあるけれど自信がない。そうした方々にオフの楽しさを安全に体験していただき、初めの一歩を踏み出していただこう、というのが狙いです。集まった方々のほとんどが林道すら未経験で、その意味では主旨を正しく理解いただけたと思っています。

当日は座学から始まり、オフロードでのフォームや走り方をレクチャーした後、ツーリングを兼ねて移動しつつ比較的フラットな初心者向けの林道を体験していただきました。結果的に林道区間での転倒者はゼロ(トレーニング中の立ちゴケ1件のみ)。皆さん、自分にもできたという達成感からか大変満足げな表情を浮かべていました。

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自分でハードルを上げていないか

前回コラムでもお伝えしたとおり、最近はアドベンチャーツアラーが人気を集めていますが、大排気量マシンでオフロードを走ることはライディングスキル的にもメンタル的にも相当ハードルが高いと言えます。そこで、ひとまわり軽量コンパクトなミドルクラスの冒険マシンが出てきているわけですが、それでもいざ林道に踏み出そうとするとなかなか勇気がいることです。

今回の参加してくれた皆さんも、最初はとにかく緊張気味でひたすら「怖い」を連発していました。でも何故そうなってしまうのか……。

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もちろん未知への不安はあるでしょう。人間、まだ起こっていない未来に最悪のことを想像しがちです。また、何人かと会話を通じて分かってきたこととして、自分でハードルを上げてしまっている気がしました。急勾配の山を登ったり下ったり、ド派手なスライドやジャンプシーンなどを想像して、「自分にはあんな走り方はできない」と勝手に思い込んでいるようなフシがうかがえました。

もちろん、スクールではそんなことさせませんし、私にもできません(笑)。YouTubeなどの影響も大きいと思いますが、エクストリームな映像が誰でも簡単に見られてしまう昨今、良い意味、悪い意味でも妄想が広がってしまうのかもしれませんね。

スポーツでも格闘技でも何でもそうですが、プロとアマ、それを仕事としている人と愛好家とでは大きな差があります。プロは綿密な準備とトレーニングに膨大な時間とお金と人生をかけて、リスクを承知で競技に出場したり撮影に臨んだりしています。それが仕事だからです。でも趣味でバイクを楽しんでいるユーザーの皆さんは、そんなリスクを負う必要は微塵もないはずです。そして誰もそんなことを期待していないのです。

リスクを避けることが最重要

話を戻して、“ゆるオフ”体験のすすめですが、林道を走るにしてもコースに出るにしても、「ムリをしない、リスクを冒さない」ことが最優先です。そのためには、「どこをどう走れば安全か」という見極めが大事。たとえば、大きなギャップや泥濘や水溜まりを見つけたら避けて通ればいいのです。難しいことに挑むのではなく、リスクを下げるにはどうすべきかをシンプルに考えることです。

特に公道でもある林道ではそれが大事。対向車や動物がブラインドの先から出てくることもあり得ます。加えて、公道ですから速度を抑えることはもちろん、過度にアクセルを煽って路面を荒らしたりするのもNG。大人としてのモラルを持っていただかないと最悪は通行禁止になってしまうケースも。ワインディングをレーサーまがいに暴走する輩と同じになってしまいます。

一歩一歩しっかりと進む大人のハイキング

もちろん、ダートを走る際には最低限のスキルも必要です。特に目線の送り方やラインの選び方が大事ですし、体全体を使って路面からの衝撃を吸収しつつ、バランスをとりながら凸凹道を走破するためのスタンディングの技術も必須。また、オンロードと違ってグリップが不安定なダートでは、車体をペタッと寝かせてコーナリングすることはできません。タイヤやサスペンションの性能にもよりますが、なるべく車体を起こした状態で曲がるためのコツが必要になるわけです。

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細かい技術的なことは、また別の機会にお伝えしたいと思いますが、ともかくベーシックなスキルと走りの組み立てが大事。とりわけ公道でもある林道では、それがすべてと言っても過言ではないでしょう。速く走ったり、土を蹴散らすのが目的ではありません。安全を確保した上でしっかりとした足取りで一歩一歩進んでいく、大人のハイキングのようなイメージでしょうか。

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ビッグアドベンチャーでも不可能ではない

最後にバイク選びについて。最初は250ccクラスのトレールバイクが扱いやすくて安心ですが、基本さえ確実にマスターしていればビッグアドベンチャーでも林道を走ることは可能です。それを証明するために、と言っては大げさですが、自分は現行のアドベンチャーモデルの中でも最もパワフルで巨大サイズと思われるKTMの最高峰モデル「1290スーパーアドベンチャーR」でトライしてみました。

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もちろん、大きくて重いし足着きも良いとは言えませんが、不整地での安定感と走破性は抜群ですし、特にギャップがあるコーナーでの動的バランスの素晴らしさには感心することしきり。さすがはオフロードを知り尽くしたKTMかと。コーナリングABSやトラコン、ライドモードなど最新の電子制御がサポートしてくれるおかげもあり、これだけの巨体でありながら全行程を不安なく走破することができました。ちなみに足着きは「場所」を工夫することである程度はカバーできます。

“ゆるオフ”体験の目的は見栄や競争ではなく自分が納得して楽しむこと。そして安全に帰ってくること。皆さんもぜひ一歩先にある素晴らしき世界を覗いてみてください!

出典:Webikeバイクニュース

モーターサイクルジャーナリスト

63年東京生まれ。早稲田大学教育学部卒業後、RECRUITグループ、販促コンサルタント会社を経て独立。趣味が高じてモータージャーナルの世界へ。編集者を経て現在はジャーナリストとして2輪専門誌やWEBメディアで活躍する傍ら、「ライディングアカデミー東京」校長を務めるなど、セーフティライディングの普及にも注力。㈱モト・マニアックス代表。「Webikeバイクニュース」編集長。日本交通心理学会員 交通心理士。MFJ認定インストラクター。

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