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「パトカーでバイクごと跳ね飛ばす」ロンドン警察のあまりにショッキングな作戦とは

佐川健太郎モーターサイクルジャーナリスト
写真はイメージです。

まるでマッドマックスの世界観

先日、気になったネット動画があった。バイクで逃げる犯人をパトカーで追い回して、そのまま体当たりで跳ね飛ばして捕まえるという、衝撃的な映像に思わず息を呑んだ。警察がついにキレたかと恐れおののいた人、まずは安心してほしい。英国での話だ。

出典元の英国紙「ガーディアン」によると、ロンドン警察ではモペットやスクーターを使った犯罪の増加に伴い、強硬策で対抗しているという。その作戦にはパトカーによる体当たりの他、特殊スプレーで容疑者にマーキングしたり、遠隔操作のスパイクでタイヤを破裂させたりといった内容も含まれている。これが奏功して昨年比でモペットやスクーターを使った盗難などが36%も減少したという。

パトカーに搭載されたカメラの映像には、けっこうなスピードで追突されてバイクごと跳ね飛ばされるライダーが映し出されている。まさか警察が本気でパトカーを当ててくるとは思わなかったのだろう。容疑者たちは一様にショックを受けている様子だ。これを公開しているロンドン警察の心意気にも脱帽だが、犯罪抑止のためなら過激な手段もいとわない警察の姿勢は、まるで映画「マッドマックス」の世界のようで空恐ろしさも感じる。

Guardian News | Met police knock suspects off mopeds in new tactic

特殊チームによる「戦術的接触」

犯人たちはヘルメットをしていなければ追跡されない(危険が増大するため)と信じているようだが、その考えは甘いようだ。逮捕された一人は歩道に乗り上げて逃げたが、警察官は逆に公衆が危険にさらされるリスクを重視して「タクティカル・コンタクト(戦術的接触)」作戦を実行したという。

実行部隊は「スコーピオン」と呼ばれる戦術的な訓練を受けた特別チームによるもので、当たるときも可能な限り低い速度でスクーターの動きを止めることに注力。犯人自身や一般市民の危険を最小限に抑えることが目的だという。

また、法律も新たに策定して警察官が起訴されないようにするなど根回しも万全だ。記事によると、今年に入ってから「ノーヘル」ライダーも含めてモペットやスクーターを63回もノックダウンしたと誇らしげである。

当然、警察官の中には重大なアクシデントに発展する可能性のある作戦に懐疑的な意見もあるようだが、当局は積極的に進めていく方針のようだ。チームの司令官によると、「ロンドン市民は日々の安全を守るために警察が介入することを期待しているし、警察も高度に訓練されたドライバーによってどんな状況でも最適な戦術で対応している」としている。

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背後に組織犯罪の影あり

こうした犯罪が増加している背景としては、スクーターやモペットの所有台数が増える一方で盗難対策が不十分であること。また、犯罪に関わる多くの若者はいい稼ぎになるスマホ狙いのひったくりが目的で、持ち物を奪うために高速で接近する危険なケースが多いという。

その背後には高度に組織化された犯罪集団が存在することが問題になっているようだ。そう聞くと犯罪の根は深く、エスカレートする暴力に対抗するため過激な作戦に打って出た警察との攻防は今後も続きそうだ。

EU離脱で揺れる英国では所得格差が増大する傾向があり、都市部でも最近再び犯罪発生率が増えていると聞く。こうした背景から若者たちが犯罪に手を染め、バイクをその道具として利用するという悲しいストーリーが見えてくる。

日本においてはバイク絡みの犯罪は幸いにしてそこまで重大な問題にはなっていないが、いろいろと考えさせられる海外からのニュースだった。犯罪抑止のためとは言え、暴力には暴力で対抗するという図式は大概にして悪い方向へと進んでいくことが多い。実に難しい問題だ。

出典:Webikeバイクニュース

モーターサイクルジャーナリスト

63年東京生まれ。早稲田大学教育学部卒業後、RECRUITグループ、販促コンサルタント会社を経て独立。趣味が高じてモータージャーナルの世界へ。編集者を経て現在はジャーナリストとして2輪専門誌やWEBメディアで活躍する傍ら、「ライディングアカデミー東京」校長を務めるなど、セーフティライディングの普及にも注力。㈱モト・マニアックス代表。「Webikeバイクニュース」編集長。日本交通心理学会員 交通心理士。MFJ認定インストラクター。

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