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「波状運転」からの追突事故 渋滞末尾での危険をどう防ぐか!?

佐川健太郎モーターサイクルジャーナリスト
(ペイレスイメージズ/アフロ)

連休中に起きたバイク死亡事故

大型連休序盤の4月29日の午後2時40分頃、神奈川県綾瀬市の東名高速上り線で複数の車とバイクが関係する事故が発生し、バイクに乗っていた男性1名が死亡した。

新聞報道などによると、上り線の追い越し車線で最初に車2台の追突事故が発生。前方の事故に気付いて止まったワゴン車にバイクが追突して転倒。それを助けようとした同じグループの仲間数台がバイクを止めたところに後続の乗用車がさらに突っ込んだ。亡くなったのは救助に入っていた男性ライダー1名。他にも男性2人が病院に搬送されたという。

善意が裏目に、後味の悪い結末

仲間を助けようとする善意の行動が裏目に出てしまった今回の事故。やるせない気持ちになったのはそれだけではない。この一連の事故で最後に追突した車を運転していた男性(40代)が自動車運転死傷処罰法違反(過失運転致死傷)の疑いで現行犯逮捕されたということだが、これにも後味の悪さが残る。

今回のケースは最初に追突を起こした車2台、そして減速したワゴン車に追突したバイクなどを含む多重事故であるのに、最後に追突して相手を死亡させてしまったドライバーだけが責任を負わされているようにも見える。もちろん、前方不注意もあったかもしれないし現行法では仕方ないのかもしれないが、たまたまそこに居合わせてしまった不運としか言いようがない。

「波状運転」は事故の予兆

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交通渋滞を引き起こす原因として「波状運転」という現象がある。道路が混んできて一定区間を走行する車の密度が高くなると、どこかで減速が始まり、後続の車もやや遅れてブレーキを踏むことになるが、そこにタイムラグが生じて“ずれ”が拡大しながら波のように後続車に伝わっていく。無意識に速度が落ちる上り坂やトンネル入口付近、渋滞情報などの表示付近でも起きやすく、それが最終的に渋滞へとつながっていく。東名高速下りの大和トンネル手前での慢性的な渋滞などは有名だし、今回の事故が発生した東名高速上りの厚木IC~横浜町田IC区間も渋滞のメッカである。

「波状運転」が怖いのは、その波が拡大することだ。皆さんも経験があることだろう。渋滞が始まると、ついつい割り込まれまいと車間距離を詰めて運転しがちだ。すると、急加速と急ブレーキを繰り返すパターンに陥り、その振幅は後続にいくほど大きくなっていく。つまり、停止している車と加速中の車の速度差がどんどん大きくなっていくのだ。「アレ? 事故でも何でもないのに何故こんなに渋滞していたの?」と思うことが多々あるが、こうしたことが原因であることも多い。

事故当時、現場付近は渋滞によるノロノロ走行だったらしい。今回の事故も最初は軽微な追突だったかもしれないが、最終的には渋滞末尾での典型的な大事故へと発展してしまった。

渋滞末尾の事故を防ぐためには

大型連休など毎回繰り返されるこうした悲惨な事故をどうしたら防げるのだろうか。いずれ将来的には、AIを搭載した自動運転車の登場によって渋滞や事故も解決される時代がやってくるかもしれないが、それまでは自己防衛するしかないだろう。そのためのポイントを下に挙げてみた。

■予測して備える

いつも渋滞が起きる場所や時間帯はだいたい決まっている。そろそろ始まるころだな、と予測して速度を落としたり、車間距離を多めにとるなど気持ちと運転行動の備えをすることが大事だろう。そのためには交通状況を知らせる道路表示やラジオ、カーナビなどで渋滞情報に対してアンテナを高くしておく必要がある。

■視界を遠く広く

直前にトラックやワゴン車など背の高い車両がいると、どうしても前方視界が悪くなる。高速道路は速度が高く、何かあって急ブレーキをかけても制動距離は長くなる。

たとえば危険に気づいてからブレーキを踏んで完全に止まるまでの停止距離は、時速100キロの場合で100m以上必要と言われている。いち早く危険の兆候を見抜くためには、数台前の車の動きや遠く先を走る車のブレーキランプを注視する必要がある。また、数台先の車が急に車線を変えるなどした場合は、事故や渋滞が発生している可能性が高い。基本ではあるが視界は広く先々に向けるよう意識したい。

■2次災害を防ぐ

今回のようにグループで走行していて仲間が事故に遭ったとしても、慌ててその場ですぐに停止しては絶対にダメだ。特に高速道路では後続車は止まれないと思ったほうがいい。

まずやるべきことは、落ち着いて路側帯など安全な場所に停止してから2次災害の防止に努めることだ。発炎筒を焚く、三角表示板を立てるなどがベストだが、たとえ一刻を争う場合であっても車線上に留まっていてはいけない。

とにかく冷静に周囲の状況をよく観察しながら、後続車に危険を知らせつつ、混乱が落ち着くのを見計らって救助できる場合は速やかに救助すべきだろう。

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普段からシミュレーションを

そして、今までも何回かコラムに書いてきたことだが、バイクで高速道路を走行中には渋滞末尾になるべく付かないことだ。特に夜間や視界が悪い場所などでは重要で、ただでさえバイクは小さくて目立たない存在であるのに加え、高速道路で車に追突されたら助かりようがない。

自分だったら、渋滞末尾が近づいてきたら、早い段階でハザードランプやポンピングブレーキなどで後続車に危険を知らせつつ自分の存在をアピールする。徐々に安全な速度まで減速しながら、渋滞している車線と車線の間にとりあえず入って、50mぐらい進んでから「スミマセン!」と頭を下げて再び列に入れてもらう。

これは命を守るための緊急避難であって、速く進みたいために無理やりすり抜けするのとは訳が違う。自分はそう思って実践していることだ。とにかく冷静に。そして、普段から万が一のアクシデントに対してどう行動するかをシミュレーションしておくことが大事だと思う。

出典:Webikeバイクニュース

モーターサイクルジャーナリスト

63年東京生まれ。早稲田大学教育学部卒業後、RECRUITグループ、販促コンサルタント会社を経て独立。趣味が高じてモータージャーナルの世界へ。編集者を経て現在はジャーナリストとして2輪専門誌やWEBメディアで活躍する傍ら、「ライディングアカデミー東京」校長を務めるなど、セーフティライディングの普及にも注力。㈱モト・マニアックス代表。「Webikeバイクニュース」編集長。日本交通心理学会員 交通心理士。MFJ認定インストラクター。

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