「剛性感」とは何なのか!? エンジニアと対話して分かったこと
オンシーズンということで、今月は各メーカーのニューモデル試乗会が毎週のように開催されています。試乗会では開発者の方々と直接触れ合える機会も多く、エンジニアリングについて貴重な話をうかがうことができるのは我々ジャーナリストの役得と言っていいでしょう。
その中で今回はたまたま連続してホンダの試乗会があり、タイプの異なる幾つかのモデルに乗る機会に恵まれました。そこで出た「剛性感」についての話が興味深かったのでお伝えしたいと思います。
剛性が高ければいいわけではない
メディアの試乗記などには「剛性感」という言葉がよく出てきます。かくゆう私もよく使う言葉ですが、いまひとつ漠然としているというか、分かっているようで曖昧な感じがします。
私もエンジニアではないので、迂闊なことは言えないのですがホンダの開発者と話をしていて剛性と剛性感は異なるのだということは、あらためて理解できました。
剛性とは「弾性変形に対する抵抗の度合い」のこと。フレームで言えば変形のしにくさを表しています。剛性を上げると「硬さ」や「しっかり感」としてライダーに伝わってきますが、度が過ぎるとガチガチになって曲がりにくかったり重く感じたり、さらに言うとマシンの挙動が伝わりにくくライダーは不安に感じるようです。
剛性は全体のバランスが大事
たとえばよくある例として、「フレーム剛性を〇%向上させた」という表現があります。モデルチェンジの度にそんなに毎回剛性をアップさせたら、ガチガチのマシンになってしまう気がしますが、要は剛性バランスの問題なのだとか。
いろいろなエンジニアの方から話を聞いていると、最近のモデルではフレームの縦剛性を上げて、逆に横剛性や捩じり剛性を弱める傾向が多いようです。フレームの縦剛性を上げることで、ブレーキングでの安定感や接地感を高めることができ、横剛性や捩じり剛性を適度に抜くことで、倒し込みでの軽やかさや安心感、外乱吸収性を高めるなどの効果があるようです。私は理系ではないので、間違っていたらゴメンナサイ!
フレームだけではない剛性感の作り方
ただし、ライダーが感じる剛性感とは、フレーム剛性だけではなくスイングアームの剛性やエンジンのマウント方式によっても変わってくるのだとか。
たとえば新型「ゴールドウイング」ではその巨体を支えつつブレーキングやコーナリング時の安定性を高めるために、フロントフォークには新たに4輪のようなダブルウィッシュボーン方式を採用しています。構造的に非常に剛性が高く従来のテレスコピックのような“たわみ”がないため応力による摺動抵抗の影響も受けず、衝撃吸収性にも優れているし、軽快でシュアなハンドリングを実現できたわけです。
▲ゴールドウイングのダブルウィッシュボーン式サスペンション
▲ゴールドウイング ツアー
また、CB1000Rでは軽量スリム化するためにメインフレームはモノバックボーンタイプを採用していますが、角断面構造として剛性を確保しつつエンジンを剛性メンバーとして活用することで必要な剛性を確保。加えてスイングアームピボット周辺の剛性を落として、横方向にしならせることで旋回性を高めています。
▲CB1000R
一方、新型PCXではスクーターでは一般的だった従来のアンダーボーンタイプからダブルクレードル方式にフレーム構造を大改修して捻じれ剛性を最適化し、モーターサイクルのような安定感のあるハンドリングを実現しています。
▲PCX旧型(アンダーボーンフレーム)
▲PCX新型(ダブルクレードルフレーム)
この他にもサスペンションの味付けや、タイヤのケース剛性によってもライダーが感じる剛性感は変わってきます。つまり、我々の感じている剛性感とは、実に感覚的であり曖昧なものということです。
最終的には人間の感性で決まる
いずれにしても、剛性を考えるときは全体のバランスが大事で、最近では「剛性バランスの最適化」という言葉が良く使われています。コンピュータを使った解析技術が進んだおかげで、昔のようにフレームを切った貼ったしてその都度テストライダーが確認することは減ったようですが、最終的には人間の感性を大事にしている点は今も変わらないのだとか。
そう考えると、人間の曖昧な感覚というのも捨てがたいものですね。そして、それこそがモーターサイクルの醍醐味であり、テクノロジーは進んでも人間臭い乗り物であり続ける良さなのだと、あらためて思いました。