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あおり運転は何故起こるのか!? 「ロード・レイジ」のメカニズムとは…

佐川健太郎モーターサイクルジャーナリスト

あおりあおられ痛み分けという不幸

あおり運転に絡む事故が絶えない。

つい先日も、東名高速で「あおり運転」などを行って他の車を妨害、急停止させたことで自分を含む計5台が絡む事故を起こした大学生(19)が暴行容疑で逮捕された。

会社員男性(50)の車に追い越されたことに怒り、約4kmにわたってパッシングや蛇行運転などを行った上、路線バス用の減速車線を使って一気に加速し、男性の前方に出て減速したという。

また、バイクが関連するあおり運転による事故も起きている。昨年10月には静岡県の県道で自動車修理販売業の男性(53)が乗る軽乗用車が急ブレーキをかけて後続のバイクを転倒させる事故が発生。転倒した会社員男性(48)は右足骨折の重傷を負ったが、その後、バイクも軽乗用車を後ろから220mにわたって煽るなど危険な運転をしていたとして、安全運転義務違反の疑いで書類送検されている。

あおり運転の末、他人を巻き込んでの多重クラッシュ。あおりあおられ双方が逮捕と大ケガという、危険極まりない上になんとも大人げない事の顛末である。

「ロード・レイジ」は些細なことから起きる

何故こんなことが起きるのか。

最近、よく耳にするようになった「あおり運転」だが、この現象は今に始まったわけではない。欧米でも「ロード・レイジ」(路上の激怒)として半世紀も前から問題視されている。ロード・レイジが発生する一因として挙げられているのが、コミュニケーション不足である。

交通心理学では道路での意思疎通を「カーコミュニケーション」と呼んでいるが、クルマ同士では相手が見えにくく、言葉で意思を伝えることが難しい。こうした環境が原因でボタンのかけ違いが起こり、些細なことからロード・レイジへとエスカレートしていくことが多い。

クラクションの長さにも意味がある

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たとえばトリガーとなるのは、パッシング(ヘッドライトの点滅)やクラクションだったりする。自分は追い越しの意思を表しているだけなのに、相手にはあおられたと取られることも多い。

研究によるとクラクションの長さにも3種類の意味があり、0.1秒は感謝、0.3秒は安全確保、0.5秒は感情表現と言われる。これが数秒以上続くようであれば怒り心頭というわけだ。

バイクの場合はもしかしたらアクセルの“空ぶかし”もこれに当たるかもしれない。問題はその尺度に個人差があるということだ。人によってパッシングやクラクションの長さは異なるし、それを受ける側の感じ方も千差万別だ。何気ない意思表示が攻撃へのきっかけにもなるものなのだ。

普段は大人しい人が何故突然キレるのか

普段はまじめで人当たりもいいのに、ハンドルを握ると何故別人のようになってしまうのか。人はクルマを運転中、往々にして気が大きくなるものだ。それも大きなクルマ、高級なクルマほどその傾向が強くなると言われる。

逆に言えば、原付バイクに乗っているライダーがキレまくるという話はあまり聞かない。誰しもクルマ相手にロード・レイジに巻き込まれたらひとたまりもないないことを分かっているからだ。自分から見て「格下」と思う相手に攻撃をしかけることが一般的には多いようだ。

ただ、機動力に優れるバイクの場合、攻撃を加えてすぐにその場から立ち去るというヒット・アンド・アウェイが可能なため気が大きくなりやすい。

相手が見えないほど攻撃性が出やすい

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道路環境は公共空間であり、互いに知らない者同士ということ(あと腐れがない)、相手が見えにくい(車内やヘルメットなど)ことで心理的な距離が大きくなる。その典型はネット空間に溢れる誹謗中傷などだが、交通の世界においてもそれは同じで、相手のドライバーが見えないほど攻撃行動を引き起こしやすいという研究結果もあるようだ。

その意味ではスモークガラスやスモークシールドは疑心暗鬼になりがちで危険だ。最近ではドライブレコーダーや街角の監視カメラが普及したおかげで、こうした匿名性も無くなりつつある。前述のあおり運転事故の例でも、監視カメラが決定的な証拠となっている。

イラッときたら6秒ルールでやり過ごす

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安全運転を成就させるための大事な技能とは何か。それは運転テクニックや反射神経ではない。ましてや他人を蹴散らす一人よがりな運転ではない。究極の目的、つまり自分の人生におけるクルマやバイクに乗る意味を考えることではないか。

そこにブレがなければ、自分の感情や行動をコントロールすることもできよう。無理な割り込みにイラッときても、「よほどの急用なのだろう」と鷹揚に構える。逆に自分がしてしまった場合は、手を挙げたりチラッと振り返って謝意を伝える。

ちなみに怒りの感情と上手に付き合うための心理トレーニングとして最近注目されている「アンガーマネジメント」によれば、人の怒りのピークは6秒間らしい。そこをぐっと堪えれば、ロード・レイジは回避できるかもしれない。その瞬間、家族や恋人、ペットのことを考えれるのも有効と思う。

人間は感情の動物であるからして、それは容易なことではない。でも、それをやらない先には不幸しか待っていない。好きなクルマやバイクが人生最大の過ちにならないよう肝に銘じたい。

出典:Webikeバイクニュース

モーターサイクルジャーナリスト

63年東京生まれ。早稲田大学教育学部卒業後、RECRUITグループ、販促コンサルタント会社を経て独立。趣味が高じてモータージャーナルの世界へ。編集者を経て現在はジャーナリストとして2輪専門誌やWEBメディアで活躍する傍ら、「ライディングアカデミー東京」校長を務めるなど、セーフティライディングの普及にも注力。㈱モト・マニアックス代表。「Webikeバイクニュース」編集長。日本交通心理学会員 交通心理士。MFJ認定インストラクター。

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