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SBKマシンがMotoGPマシンを逆転!? 合同テストから見た最新マシンの戦闘力とは…

佐川健太郎モーターサイクルジャーナリスト
カワサキ・Ninja ZX-10RRを駆るSBKライダー ジョナサン・レイ

11月22日から24日までの3日間、MotoGPとSBK(スーパーバイク世界選手権)による合同テストがスペイン・へレスサーキットで実施された。

その中でひと際注目を集めたのがカワサキのSBKライダー、ジョナサン・レイだ。3日目の最終日にはなんとMotoGP勢を抑えてファステストラップを記録。

1分37秒986のタイムは全日程を通じてもMotoGPクラスのトップ3に迫るほどのタイムだったのだ。2番手にスズキのアンドレア・イアンノーネ、3番手にはKTMのポル・エスパルガロ、4番手にはスズキのアレックス・リンスが続き、5番手にカワサキのSBKライダー、トム・サイクスが入った。

ここまでがコンマ3秒ほどの中にひしめく接戦ではあったが、事実としてトップ5の中にカワサキのSBK勢が2台割り込む形になった。

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37秒台でMotoGPマシンに肉薄

ちなみに合同テストの3日間を通じてのトップ3はというと、1位がドゥカティのアンドレア・ドビジオーゾの1分37秒663で、2位がホンダのカル・クラッチローの1分37秒818。3位がホルヘ・ロレンソの1分37秒921となり、それだけ聞くと「やっぱりMotoGPマシンのほうが速いじゃん」となりそうだが、全行程を通じて37秒台に入れたのは4番手となったジョナサン・レイを含めてこの4名だけだ。

今回の合同テストには「レプソル・ホンダ」や「モビスター・ヤマハMotoGP」などの大本命チームは参加していないこともあり、相対的にSBK勢の活躍が目立った感は否めない。

また、SBKで3年連続チャンピオンを獲得するなど圧倒的な強さを誇るジョナサン・レイの乗り手としてのパフォーマンスが突出していることも考えられる。が、それにしてもSBKの実力がMotoGPマシンに肉薄していることは明らかだろう。

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MotoGPは「F1」、SBKは「GTカー」

MotoGPとSBK、何がどう違うのか。もう少し掘り下げてみよう。

そもそもMotoGPとSBKではマシンがどう違うのか。細かいことを上げるとキリがないので簡単に説明しておくと、MotoGPマシンは競技専用に開発されたプロトタイプである。つまり、勝つためには手段を選ばず最先端技術を投入して作られた究極のマシンだ。たとえばシームレスミッションやニューマチックバルブなどはその最たるもので、開発コストは一台開発するのに数十億円とも言われる。現在の最高峰クラスのMotoGPマシンは4スト4気筒1000cc以下に規定されている。

一方、SBKは市販車をベースにレース用に改造したマシンで争われる。基本的にエンジンやシャーシ、外観に関しても「見た目」は市販車を踏襲することになっているが、実際はエンジンの中身やフレーム構成、特に近年重要性を増している電子制御システムなども市販車とはだいぶ異なると言っていい。こちらも主流は4スト4気筒1000cc以下、あるいは2気筒1200cc以下となっている。分かりやすく4輪に例えるならMotoGPは「F1」、SBKは「GTカー」といったところだろう。

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▲SBK 車両

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▲MotoGP 車両

ベースとなる市販車の性能が高まっている

では何故最近はMotoGPとSBKの速さが拮抗してきているのだろう。

ひとつ理由として挙げられるのは技術革新だ。かつてはGPマシンのテクノロジーは10年遅れで市販車にフィードバックされると言われたが、最近は技術革新によりマシン開発のサイクルも早くなり、数年で投入されるようになってきた。今や市販スーパースポーツモデルでは常識となったトラコンやパワーモード、エンジンブレーキ制御なども元々はMotoGP由来のデバイスだ。つまり、ベースとなる市販モデルの性能が飛躍的に高まってきたのだ。

MotoGP育ちのライダーがSBKを加速させる

もうひとつはライダーの変化。かつてWGP(MotoGP以前のロードレース世界選手権)は2ストロークエンジンの500ccマシンだったため、そのピーキーな特性から操るには職人芸が必要とされ、当時から4ストだったSBK乗りとは一線を画していた。

それが最近では双方とも4スト4気筒1000ccとなり、ライダーは掛け持ちしやすくなってきた。元MotoGPライダーがその後SBKに移籍して活躍する例も増えたことでそのテクニックとマシン開発能力が注がれ、SBKレース自体がレベルアップしていることも考えられる。ちなみにレイはMotoGP未経験なのでその限りではないが。

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MotoGPは性能を抑えられている

逆もあって、MotoGPは2016年からオープンクラスが廃止され、ECUはハードとソフトともに共通化され、最低重量も157kgに引き上げられるなど条件が厳しくなっている。また、タイヤサイズも16.5インチから17インチに変更されるなど、年々速くなるマシンに歯止めをかけるための規制が何年かに一度は課せられてきた。

昨年はタイヤの公式サプライヤーがBSからミシュランに変更されたこともあり、データ不足も響いたのか実は昨年の合同テストでもMotoGPとSBKの逆転現象が起きている。

タイヤの性能差も考えられる

こうした諸事情が重なり、MotoGPとSBKのタイム差が縮まっているのだと考えられる。

MotoGP事情に詳しい情報筋からも興味深い話が聞けた。

「レイが速い件はよく分からないけど、ひとつ考えられるのはタイヤメーカーの違い。SBK(ピレリ)はタイム出しに予選用スペシャルのようなタイヤでアタックした可能性もある。対するMotoGP(ミシュラン)は今、本戦用タイヤしかないからね。あと、ヘレスというコースレイアウト(直線が短い)によってMotoGPマシンの強みである加速性能で十分なアドバンテージを築けなかったのかも。マルケス(ホンダ)やヤマハのファクトリー勢が参加していたら結果は違っていたかも?と思うところもあるが、MotoGPマシンにはやはり2~3秒の差をつけて欲しかったね(笑)」

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裏を知れば知るほど面白くなってくる、MotoGPやSBKなどのモータースポーツの世界。願わくは、両者がガチに相まみえる真剣勝負のレースイベントを見てみたい気もするが、皆さんはいかがだろうか。

出典:Webikeバイクニュース

モーターサイクルジャーナリスト

63年東京生まれ。早稲田大学教育学部卒業後、RECRUITグループ、販促コンサルタント会社を経て独立。趣味が高じてモータージャーナルの世界へ。編集者を経て現在はジャーナリストとして2輪専門誌やWEBメディアで活躍する傍ら、「ライディングアカデミー東京」校長を務めるなど、セーフティライディングの普及にも注力。㈱モト・マニアックス代表。「Webikeバイクニュース」編集長。日本交通心理学会員 交通心理士。MFJ認定インストラクター。

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