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ホンダ新型「CBR1000RR」試乗レポート 歴代最強192馬力が電脳化でより扱いやすく

佐川健太郎モーターサイクルジャーナリスト
HONDA CBR1000RR SP

初代から変わらぬ「トータルコントロール」を進化

新型CBR1000RR/SPの開発コンセプトは「ネクストステージ“トータルコントロール”操る楽しみの進化」である。

1992年発売の初代「CBR900RR」から継承されてきた「トータルコントロール」(操る楽しみの最大化)をさらに推し進めるべく、クラス最軽量の車重とマスの集中化、出力特性の向上に加え、電子制御テクノロジーをふんだんに盛り込んだ最新スペックが与えられている。

▲SPに与えられた電子制御サスペンション「Smart EC」
▲SPに与えられた電子制御サスペンション「Smart EC」

スタンダードモデルとなるCBR1000RRに対し上級グレードのSPは、走行状況に応じて最適な減衰特性をコントロールする、オーリンズ製Smart ECシステムを採用した電子制御サスペンションや、ブレンボ製フロントブレーキキャリパーを装備。

また、リチウムイオンバッテリーやチタン製フューエルタンクを採用するなど、スタンダードモデルに比べ、より一層の軽量化とマスの集中化が図られているのが特徴だ。

車体の基本構成は従来モデルを踏襲

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新型CBRの車体に関してはフレームの基本構成は従来型を踏襲しつつ、メインフレームの捻じれ剛性を若干落とす一方で、スイングアームの剛性バランスを見直すなど最適化が図られている。基本ディメンションについても従来モデルから変えていないとのこと。

大幅なフレーム設計の見直しを行わなかった理由としては、当初から「公道でいかに楽しめるか」を大前提としたモデルであり、その部分では従来型から変える必要がないと判断したためだ。

歴代最強192馬力を達成しつつ扱いやすさも向上

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エンジンは動弁系と圧縮比などの最適化に加え、スロットルボアの拡大とマフラー構造の最適化などの吸排気系セッティングを組み合わせることで、低回転トルクと高回転パワーそれぞれの向上を達成。その結果、最高出力は従来比17馬力アップの192馬力を実現している。

また、今回から「スロットル・バイ・ワイヤシステム」が導入されたことで、スロットル開け始めからのコントロール性も向上。合わせて新設計の「アシストスリッパークラッチ」を導入するなど、全般的なドライバビリティの向上が図られている。

RC213V-Sの電子制御技術をフル投入

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電子制御の進化にも目を見張るものがある。

新型CBRにはRC213V-Sの開発で得られた知見をフィードバックし、扱いやすさを飛躍的に向上。IMU(慣性測位装置)により、車体の姿勢変化を瞬時に割り出してトータル的に制御していく仕組みが搭載されている。

いわゆるトラコンである「HSTC」(ホンダ・セレクタブルトルクコントロール)と、コーナリング中でも有効な「スーパースポーツ専用ABS」を新たに導入した他、ライダーの好みやシチュエーションに応じて5段階から出力特性を選べる「パワーセレクター」やエンジンブレーキの強さを3段階で制御する「セレクタブルエンジンブレーキ」を搭載。

さらにSPには走行状況に応じてリアルタイムで減衰力を最適にコントロールする「オーリンズ製スマートEC」やシフトアップ&ダウンの両方でクラッチ操作を不要とする「クイックシフター」なども装備された。

極め付けは、出力特性とトラコン、エンジンブレーキ、サスペンションの各制御レベルの組み合わせから走行状況やライダーの好みに合わせて5種類の走行フィーリングを選択することが可能な「ライディングモード」を設定していること。

さながら“電子制御のデパート”とも言うべき充実ぶりであり、これでようやく先行するライバルに追いつき、一気に形勢逆転に持ち込みたいホンダの意図がくみ取れる。

【CBR1000RR SP】試乗インプレッション

今回の試乗会は公道で行われた。「CBRが何故に?」と思われるだろうが、ホンダの意図としてはメインユーザーである、一般ライダーの使い方を想定してのことだとか。

街乗りや高速道路、ワインディングでその真価を体感して欲しいというのだ。

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公道を重視しつつサーキット性能のレンジも広げた

そして今回、試乗が許されたのは上級グレードのSPである。

長年親しんだ温厚なCBRとはやや異なる“マシン”としての顔、前後を切り詰めたスリムかつコンパクトな車体、より戦闘的になったスタイリングからはホンダの本気が伝わってくる。

「サーキットを前提とするが公道で楽しめることが重要」とする歴代CBRの伝統は継承しつつも、真の狙いとしてはサーキット性能のレンジを広げたことは明らかである。

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スーパースポーツという従来にはなかったジャンルを四半世紀前に開拓しながらも、ここ最近は長らく進化が止まっていたCBRがいよいよ本腰を入れて巻き返しに来た、というのが最初の印象である。いやが上にも期待感は高まる。

取りまわすだけで感じる軽さの恩恵

サイドスタンドを払って車体を起こした瞬間、おやっという軽さ。600cc並みとまでは言えないが、クラス最軽量と豪語するだけのことはあり、駐車場で取りまわすだけでも軽さの恩恵を感じる。

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跨ってみた雰囲気だが、従来型と比べてハンドル位置がやや低く絞られ、前傾している感じか。足着きはこのジャンルとしては標準的。

電子制御サスペンションの中には電源オフ状態でオイルロックするタイプもあるが、CBRに関しては通常どおりストロークするので、乗り降りも自然にできるところがいい。

左右幅を絞り込んだスリムなカウルや低いスクリーンにも最新のトレンドを感じる。

交差点を曲がるだけで感じる素性の良さ

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エンジンを始動し、軽い操作感のクラッチをつなぐとスルスルと走り出す。

電制満載にフルパワーと聞くとつい身構えてしまうが、あっけないほど普通に走る。交差点を曲がる何気ない日常のシーンの中でも、素直なハンドリングや扱いやすいエンジンといった素性の良さが光る。

軽く爪先を当てるだけで勝手にギアチェンジしてくれるクイックシフトが作動することで、これは新型なんだと実感する次第。やはりCBRはそれ以外の何物でもない。もちろん良い意味で。

ちなみに排気音は静かすぎずけっこうワイルドだ。

SSを別次元に引き上げるライディングモード

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CBRのメインステージになるであろう近くのワインディングでも走らせてみた。

路肩には雪が残り、溶けた水が所々で路面を横切っているというあまり嬉しくないコンディションだったが、電脳マシンの実力を試すには良い機会と思いテストを開始。

ここで是非試してみたかったのが、「ライディングモード」である。

モードは全部で5種類あり、そのうちMODE1(サーキット用)、MODE2(ワインディング用)、MODE3(街乗り/レイン)の3つが、シチュエーションに合わせて出力特性・トラコン・エンブレ・サスペンションが最適値にプリセットされた自動モードになっている。

残りの2つは自分ですべてを任意に調整できるユーザーモードという設定だ。

つまり、左手のボタンを押すだけで、走行中でもその場に最適なモードに切り替えられるわけだ。かつてはSSだから乗りづらくて当然とか、サスセッティングに専用工具を持ち歩くというのが常識だったが、そうした我慢や手間や知識までもが必要ない世界なのだ。

これは別の意味でも“スーパースポーツ”と言えるかも。

路面が悪いほど「安心」のありがたみを実感

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さて実際の印象だが、フルパワーかつレスポンスの最も鋭いMODE1は弾ける加速とキビキビした車体の動きが気持ちよく、パワーが最も穏やかで前後サスの減衰力も弱まるMODE3はさらに扱いやすくなる。MODE2はその中間といった感じだ。

ただし、誰でも明確にその違いが分かるかと問われれば、「YES」と断言はできない。高度に統合的なコントロールであるがゆえに、どのファクターが作用しているのか判断が難しいのだ。サーキットのような一定条件であれば、もっと分かりやすいとは思うが……。

そして感心したのはスロットルレスポンスの穏やかさ。

どのモードであってもスロットル開け始めのツキがマイルドで、アクセル開度に応じてスムーズにパワーが出てくれるため、どこでも安心してスロットルを開けられる。特に路面状態が怪しいときなどはなおさらだ。

試乗したワインディングがタイトで路面も荒れていたこともあり、ほとんどMODE3で走ったが、水溜まりでズルッときてもトラコンの介入タイミングも早く、下りコーナーでもエンブレが適度に利くので安心して楽しむことできた。

試してはいないがコーナリングABSという「お守り」があることも精神的には大きい。公道でこそ実感できる電子制御のありがたさだろう。

一方で、MODE3であっても路面の凹凸を拾ってサスペンションの動きに硬さが目立った場面もあった。スマートECもプリロードだけはマニュアル調整式なので、公道メインで乗るとしたらその辺りを調整したほうがより快適になるかもしれない。

日常でも味わえるトータルコントロールの神髄

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ハンドリングに関しては極めてニュートラルで分かりやすく、歴代CBRが培ってきたトータルコントロールの神髄を見せつけてくれた。

従来の先鋭的なスーパースポーツにありがちだった、「鋭すぎて疲れる」とか「パワーが唐突で怖い」などといったネガな要素はほとんど感じられず、平易な表現になってしまうが“扱いやすさ”が際立つ形となった。

また、撮影時に幾度となくUターンもしてみたが、極低回転域でもトルクが安定しているしハンドルも切れるので思いのほか小さく曲がれたのも驚きだった。元々CBRはスーパースポーツの中では格段に小回りしやすいモデルだったが、新型でもこうした日常での使い勝手が犠牲になっていないことは嬉しい。

ひとつ心残りは、公道テストということでCBRの持てる性能を半分も引き出せなかったこと。ぜひ次回はサーキットでテストしてみたいと思った。

CBRであることをブレることなく正常進化

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繰り返しになるが、CBRはやはりCBR以外の何物でもなく、別物になったわけでもない。ひと口に表現するならば「正常進化」という形でそのポテンシャルを大幅に引き上げてきた。電脳化されても「扱いやすさ」や「操る楽しさ」といった生まれ持った素性にブレはなかったと思う。

「人を選ぶバイクではなく、人に選ばれるバイクでありたい」と語った、ホンダの開発者の言葉が印象に残った試乗会であった。

出典:Webikeバイクニュース

モーターサイクルジャーナリスト

63年東京生まれ。早稲田大学教育学部卒業後、RECRUITグループ、販促コンサルタント会社を経て独立。趣味が高じてモータージャーナルの世界へ。編集者を経て現在はジャーナリストとして2輪専門誌やWEBメディアで活躍する傍ら、「ライディングアカデミー東京」校長を務めるなど、セーフティライディングの普及にも注力。㈱モト・マニアックス代表。「Webikeバイクニュース」編集長。日本交通心理学会員 交通心理士。MFJ認定インストラクター。

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