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ケニー佐川が勝手に決める「2015モーターサイクル トップ10」

佐川健太郎モーターサイクルジャーナリスト
2015モーターサイクル トップ10

今年もいろいろなトピックスがあったバイク業界ですが、いよいよ残すところあと1日となりました。ということで、2015年を締めくくる意味で本年度に発売されたニューモデルについて、Webikeニュース編集長のケニー佐川が独断で勝手にランキングしてみました。話題性や注目度、社会に与えたインパクトやユーザビリティなどを総合的に評価したものですが、あくまでも感覚的なものですので、楽しみながらご参考にしていただければ幸いです。

■第1位 「KAWASAKI Ninja H2/H2R」

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300馬力の未体験ゾーンへ

「これまでに誰も体験したことがない加速感」をコンセプトに生まれた超メガスポーツ。1000ccクラスの車体サイズでこれを実現するための切り札が、川崎重工が得意とするガスタービン技術を応用した二輪初のスーパーチャージドエンジンだった。

300馬力という規格外の出力を得たサーキット専用仕様のH2Rは、当初の目標どおりMotoGPマシンを凌駕する動力性能を世界中のサーキットで見せつけてくれた。独特のウイングを装備した車体デザインもさることながら、航空宇宙部門やガスタービン部門など川崎重工の総力を結集した作品であることを示す「川重」伝統のリバーマークが奢られるなど、通常のカワサキとは次元の異なる圧倒的な存在感が人々の羨望をかき立てた。

公道バージョンであるH2は200psのタガをはめられているが、そこに投入されているテクノロジーは紛れもなく最先端。4輪で言えば超が付くようなスーパーカーが、一般ライダーでも頑張れば手に届く300万円を切るプライスで世に出たことも評価したい。間違いなく2015年度最大のトピックと言えよう。

■第2位 「HONDA RC213V-S」

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街乗りできるGPマシンの価値

MotoGPマシンの公道バージョン。ニューマチックバルブやシームレスミッションなど最高機密となっている一部の機構を除き、ほぼそのまんま”街乗りできるGPマシン”をホンダは作ってしまった。例えるなら、FIマシンに保安部品を付けて公道を走らせているようなもの、と言ったらその凄さが想像してもらえるだろうか。しかも昨年度のチャンピオンマシンがベースである。その点で、よく引き合いに出されるかつてのプレミアムモデル「NR」とは異なる。

現在の2輪テクノロジーの最高峰であるとともに「最も速いマシンは最も乗りやすいマシンであるべき」というホンダの哲学を最もストレートな形で表現した作品とも言える。1台数億円ともいわれるMotoGPマシンの正真正銘リアルレプリカであることを考えれば、家一軒分に相当する価格にも納得できるというもの。一般庶民の金銭感覚からは遥かにかけ離れた存在ではあるが、その価値は十分に理解できる。

■第3位 「YAMAHA YZF-R1/R1M」

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国産スーパースポーツ復権の星

RC213V-SがMotoGPマシンそのものとすれば、R1はGPマシンの遺伝子を埋め込まれた新時代のスーパースポーツと言える。6軸センサーによる姿勢制御や電子制御スロットルと連動したライディングモードやトラコン、ユニファイドABS、セミアクティブサス、データロガーなどMotoGPなどの最高峰のレースシーンで培われたテクノロジーが余すところなく盛り込まれているのが特徴。

最近、開発が止まっている感が強かった国産スーパースポーツだが、ヤマハは新型R1によって一気にアドバンテージを広げたと言える。発表会で聞いた「ノー・エクスキューズ(言い訳なし)」という開発陣の意気込みには鬼気迫るものを感じた。そのパフォーマンスの高さは、今年の全日本ロードレース選手権や鈴鹿8耐での圧倒的な勝利によって既に証明されている。2016年からはファクトリー体制でいよいよスーパーバイク世界選手権にも打って出ることが発表され、期待値もうなぎ上りだ。

■第4位 「DUCATI SCRAMBLER」

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ハートに訴えた緩いドゥカティ

今年のドゥカティの大躍進を支えた立役者がスクランブラーだ。国内でも当初の販売目標を大きく上回るペースで売れまくり、原宿にはイメージショップがオープンするなど、スクランブラ―旋風が吹き荒れた。スクランブラーは従来のドゥカティらしくない異色の存在である。ドゥカティと言えば高性能やプレミアム感、レースなどの”極み”のイメージを強く打ち出してきたブランドだが、その真逆とも思える”緩い”イメージを打ち出し成功した。

コンセプトの「ポスト・ヘリテージ」は過去の遺産をリスペクトしつつも伝統に囚われない新しい形を創造するという意味。自由であることの価値観をアピールすることで、今までの尖がったドゥカティとは縁のなかった幅広いライダーや、自分らしいライフスタイルを好むファッション感度の高い人々の共感を生んだ。空冷Vツインというシンプルさ、ベースモデルで100万円を切るお手頃価格も若者層のハートを捉えた。ドゥカティの新境地を開拓した功績は大きい。

■第5位 「SUZUKI GSX-S1000/F ABS」

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野獣に垣間見たスズキの良心

獲物に襲いかかる野獣を表現したという精悍なフォルムが特徴の「GSX-S1000 ABS」とそのフルカウルバージョン「GSX-S1000F ABS」。2008年型GSX-R1000のロングストロークエンジンが生み出す豊富な低中速トルクと伸びやかな高回転パワー、軽量コンパクトな車体を生かした俊敏なハンドリングが持ち味の新世代ファイターである。電子制御テクノロジーも積極的に投入され、ABSだけでなく3モードのトラコンも標準装備し、クラス最高レベルの145psの大パワーを効率的かつ安全に路面に伝える。純粋に走りを楽しめるモデルだ。

やんちゃなネイキッド仕様に対し、フルカウル仕様の「F」は高速ツアラー的にも使えるなど、キャラの作り分けも見事。100万円ちょっとで買える店頭価格にもスズキらしい良心が感じられる。スズキのリッターネイキッドとしては久々のブランニューモデルというだけでも注目だが、欧州仕様と同じフルパワーがしかもこのプライスで手に入るとなると当然ポイントは高くなる。

■第6位 「BMW S1000XR」

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“足長スーパースポーツ”という英断

スーパースポーツS 1000 RRの革新的テクノロジーとR1200GSシリーズで培ったツーリング性能を融合することで、これまでにない「アドベンチャースポーツ」という新たなジャンルを目指したモデル。

特徴は長いストローク量を確保した前後サスペンション。路面とのクリアランスを広く取ることで、ワインディングや高速クルーズでの快適性や荒れた路面などでの優れた走破性を発揮。デザイン的にもGS譲りの先鋭的なフロントエンドに防風性に優れるスクリーンを装備、S 1000 RRからはアップタイプのテール形状や2灯ヘッドライトを受け継ぐなど、両方のコンセプトが融合したものとなっている。

エンジンはロードスターS 1000 Rと共通の999cc並列4気筒で、最高出力118kW(160ps)と強力だ。元々が高性能なスーパースポーツがあり、そこからカウルを剥ぎ取ることで生まれたストリートファイターの使い勝手の良さに、さらに”足長”という要素を加えることで行動範囲を広げたモデルとして注目される。

■第7位 「MT-25/03」

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プラットフォーム設計の勝利

コンセプトは<大都会のチーター>。「MT-09」「MT-07」など”MTシリーズ”共通のシャープで躍動感ある独創的なスタイリングが特徴のモデルとなっている。

プラットフォームには先行発売された「YZF-R3/R25」を使用し、それぞれ「MT-03」は320cc、「MT-25」は250ccのエンジンを搭載。基本的には「YZF-R3/R25」と共通のエンジンと車体を持つネイキッドモデルとして開発された。

水冷直列2気筒DOHC4バルブエンジンは、高精度で作動する直押し式の吸排気バルブ、強度に優れた浸炭コンロッド、低振動に貢献するアルミ製鍛造ピストンを投入。マスの集中化を図るショートマフラーや駆動力が効率よく後輪に伝わるロング設定左右非対称のリアアームを装備するなどスペック的にも抜かりはない。元々は4輪で導入されている「プラットフォームの共有化」を2輪でも本格的に進めることで、優れたモデルを低コストで短期間に展開する手法を確立したのがこのシリーズと言える。その意味でも革新的だ。

■第8位 「KTM RC250」

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日本向けスペシャルの心意気

輸入車には珍しく小排気量クラスが充実したKTM。400cc以下のいわゆる”スモールDUKE”シリーズに続き、昨年秋からスーパースポーツタイプの「RC125」と「RC390」などの”スモールRC”シリーズが国内デビュー。次はいよいよ200ccかと思いきや、まさに日本向けスペシャルとでも言うべきニーゴーを一足飛びに投入してくれたKTMの心意気に感謝したい。

RC250は小排気量レンジにおいてもスポーツ志向のライダーの要求に応える本格的な作りとパフォーマンスを、若年層でも購入しやすいプライスで実現したモデルである。ゆとりのフルサイズボディや俊敏かつ安定性に優れるハンドリングはKTMのMoto3レーサー『RC250R』譲り。250ccは高速道路にも乗れて車検がないなど制度上のメリットも多く、こと日本においては昔からエントリーユーザーに人気のクラス。また、近年はアジア諸国でもMoto3を頂点とする「250スポーツ」の人気は凄まじく、その意味でもMoto3常勝のKTMがやってくれた意義は大きい。

■第9位 「HARLEY-DAVIDSON STREET750」

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ハーレーの新たなる挑戦

「ストリート750」は若年層とアーバンライダーをターゲットに開発された、全く新しいハーレーだ。次世代となる若年層に対しハーレーをより身近に感じてもらうこと、彼らのライフスタイルにマッチしたモデルを目指し、新しい世代のオーナーの趣向を強く意識したモデルに仕上がっているのが特徴だ。

“レボリューションX”と名付けられた新型SOHC4バルブVツインエンジンは排気量750ccとハーレーのラインナップ中では最小サイズとなる上、水冷方式としている点にも注目。都会のライディングのために特別にデザインされたエンジンで、高い気温や渋滞時でも最高の性能を維持するように設計されている。トランスミッションも現代的な6速が与えられた。

ハーレーは重厚長大なオジさんの乗り物といった既成概念を覆し、シンプルで若々しく軽快なストリートモデルへと華麗なる変貌を遂げたストリート750は、ハーレーの長い歴史におけるひとつの転換点になるかも。85万円という価格にも驚かされた。

■第10位 「YAMAHA E-Vino」

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本格的EV時代の到来を予感

ヤマハからついに本格的な電動バイク「E-Vino(イービーノ)」が登場した。ターゲットは都市部に住む、駅までの移動や買い物など半径5km圏内を移動する女性層とアダルト層である。

バッテリーには50Vのリチウムイオンバッテリーを搭載し、満充電での走行距離は29km(30km/h定地)を確保。バッテリーは着脱式で家庭用100V電源から充電可能、充電時間は従来型の半分となる約3時間まで短縮された。シート下には約10リットルの収納スペースを設け、専用オプションパーツにより予備バッテリーも収納できる仕組みだ。

また、車両重量は 68kg と「Vino」から12kg軽量化することで優れた取り回し性を実現。走行条件に応じてモーターの駆動力を「標準」か「パワー」に設定できるモード切り替え機能の他、一時的により登坂性を高める場合などに役立つ「ブースト」機能を装備するなど実用性も高い。「E-Vino」の登場によって、国産EVもようやく本格的な量産市販車の段階に入ったといっていいだろう。その第一歩として注目していきたい。

出典:Webikeバイクニュース

モーターサイクルジャーナリスト

63年東京生まれ。早稲田大学教育学部卒業後、RECRUITグループ、販促コンサルタント会社を経て独立。趣味が高じてモータージャーナルの世界へ。編集者を経て現在はジャーナリストとして2輪専門誌やWEBメディアで活躍する傍ら、「ライディングアカデミー東京」校長を務めるなど、セーフティライディングの普及にも注力。㈱モト・マニアックス代表。「Webikeバイクニュース」編集長。日本交通心理学会員 交通心理士。MFJ認定インストラクター。

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