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【なぜ直線で】大型バイク正面衝突事故についての考察

佐川健太郎モーターサイクルジャーナリスト
写真はイメージです。

夏休みにレジャーにバイクシーズン真っ盛りですが、外出の機会が増えることで交通事故などに巻き込まれるリスクも高まるため注意が必要です。

先月末のこと、悲しいバイク事故のニュースが伝えられました。6月28日朝、群馬県桐生市の国道で大型バイク同士が正面衝突し、双方のバイクを運転していた61歳の男性と52歳の男性が死亡しました。現場は、カーブとカーブの間にある追い越し禁止の直線道路で、警察では、どちらかのバイクが対向車線にはみ出したため正面衝突したとみて調べているとのことです。

写真やニュース映像を見ると、事故を起こしたバイクは2台とも高性能な大型スポーツモデルで、フロント部分を中心に跡形もないほど激しく損壊しており、相当なスピードで真正面から激突したように思われます。緩いカーブを前後に挟んだ比較的見通しの良い、しかも直線であるにも関わらず、何故そのような悲惨な結果になってしまったのでしょうか。

現地に知り合いのライダーがいるので事故現場について聞いてみましたが、そこは片側1車線の国道で、休日早朝の現地付近では走り屋が集まり、かなりのペースで飛ばしているとのこと。以前からかなり危険な状態だったようです。最近「中高年ライダーの高性能バイクによる暴走行為」が問題視されていますが、今回の事故もそうした危険運転が招いた結果なのでしょうか。

現場の映像を確認した限りでは、正面衝突が起こりそうな場所ではありません。ただ、不可解なのは目立ったブレーキ痕が見当たらないことです。通常、事故現場には黒々とブレーキ痕が残ることが多く、双方ともまるで減速せずに衝突することは普通考えにくいケースです。

とはいえ、相当な速度であれば、ブレーキをかける間もなかった可能性はあります。事故現場は「直線」とありますが、その前後は緩いカーブになっています。“緩い”ということは速度が出やすいということ。先が見えにくいブラインドコーナーでしかもその直線区間には、対向車双方が左コーナーを立ち上がって進入してくる構造になっています。一般的にコーナーの出口付近では速度が高いと走行ラインが膨らみやすく、特にそれが左コーナーの場合はセンターラインに近づくことになります。つまり事故現場となった道路の場合、対向車同士が速度超過などによって互いにセンターラインに近づくリスクが考えられるわけです。走り屋のメッカなどと呼ばれるワインディングでは、よく見かける危険な光景です。詳しい情報はないのではっきりしたことは分かりませんが、こうした要因が絡んでいるかもしれません。

もしかすると、何らかの病気が原因になっている可能性も捨てきれません。新聞記事などによると、人身事故のうち運転中の「発作」や「急病」などが原因と思われる事故が少なくとも1割程度あるそうです。日本国内だけでもその数は年間数百件に上ると言われています。主には心臓病と脳血管障害で5割強を占めており、近年問題となっている運転中の「てんかん」発作を上回っているという報告もあります。特に高齢ドライバーほど、こうした内因性急死の増加が危惧されていて、その対策が世界的に求められている状況です。今回も対向車のセンターラインオ―バーが事故の直接原因だとしても、こうした身体的なトラブルがその陰に隠されているかもしれません。

ここに挙げた考察はあくまで憶測にすぎませんが、可能性のひとつとしてさらなる検証が必要と思われます。原因は何にせよ、被害者と遺族にとっては喩えようもない無念さ、理不尽な苦痛をもたらすのが交通事故です。自分とは無関係とは思わず、こうしたケースがあることを自覚してハンドルを握りたいものです。

※原文から著者自身が一部加筆しています。

出典:Webikeバイクニュース

モーターサイクルジャーナリスト

63年東京生まれ。早稲田大学教育学部卒業後、RECRUITグループ、販促コンサルタント会社を経て独立。趣味が高じてモータージャーナルの世界へ。編集者を経て現在はジャーナリストとして2輪専門誌やWEBメディアで活躍する傍ら、「ライディングアカデミー東京」校長を務めるなど、セーフティライディングの普及にも注力。㈱モト・マニアックス代表。「Webikeバイクニュース」編集長。日本交通心理学会員 交通心理士。MFJ認定インストラクター。

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