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2190万円!公道を走れるMotoGPマシン「RC213V-S」の価値とは!

佐川健太郎モーターサイクルジャーナリスト
HONDA RC213V-S

ホンダはMotoGPマシン「RC213V」の一部仕様を変更した一般公道用モデル「RC213V-S」を発売。2015年7月13日(月)より専用サイトにて商談受付を開始する。日本での販売価格は税込21,900,000円となっている。

世界中のファンが待ち焦がれていた、公道を走れるMotoGPマシン「RC213V-S」がついに発売となった。2013年、2014年とFIMロードレース世界選手権のMotoGPクラスにおいて2連覇中の最強マシンのリアルレプリカがいよいよ走り出す。

以下、プレスリリースより抜粋。

『今回の「RC213V-S」は、これまでのホンダがレース参戦で得た技術の市販車への還元ではなく、MotoGPに参戦するために開発したマシンを一般公道で走行させるという新たな試みです。世界選手権レースに勝利するためには "世界一速く走るマシン" が必要です。しかし、ホンダでは、マシンはライダーが操るものであり、"扱いやすさ" を "勝つために必要な手段" と位置付けています。つまり "世界一速く走るマシン" とは、 "世界一操りやすいマシン" であるという思想があります。ホンダは "マン島T.T.レース" 参戦以来、いつの時代にも、この "ホンダ思想" に基づいて "世界一操りやすいマシン" を目指して競技専用マシンを開発し、勝利を重ねてきました』

この一文にこそ「RC213V-S」の本質と存在意義が凝縮されているように思う。リリースが伝えるとおり「RC213V-S」は元々ストリートモデルではない。新型高性能モデルが登場する度に慣用句のように使われてきた「レース技術のフィードバック」では決してなく、最高峰にして最強のファクトリー製レーサーそのものと言っていい。誤解を恐れずに乱暴な言い方をすれば、世界チャンピオンのマルケスやペドロサが乗っているワークスマシンに保安部品を取り付けただけのようなものだ。

そう聞けば、価格も納得できるというものだ。ちなみに有力サテライトチームに貸し出されるRC213Vの年間リース料は4億円とも言われ、昨年からオープンクラス用の市販レーサーとして投入されているRCV1000Rでも販売価格は2億円以上ということを考え合わせると、「RC213V-S」はまさに破格のプライスということもできる。

何故そこまでの価値があるのか。それはGPマシンと市販量産車とを分ける圧倒的な差だという。具体的には製造上の「構成部品の軽量化と加工精度」と「製作時の高い技能」のすべてを踏襲しているとのこと。GPマシンは勝利に必要とされる部品のみで構成されている。以前、ホンダのレース関係者に聞いた話だが、勝つために必要なパーツがあったとして、それを作るのに1億円かかったとしても作るそうだ。MotoGPとはそういう世界らしい。また、組み立て精度に関しては、ホンダ随一の技能集団である熊本製作所の職人の手によって一台ずつ組み立てられるそうだ。

さらにRC213Vに採用されている最新の電子制御技術も搭載されていると伝えられる。以前、RC213Vの開発責任者の方と話をする機会があったが、同マシンには一部「ASIMO」(アシモ)のテクノロジーが使われていると聞いたことがある。アシモはご存じのとおり、ホンダの自律型2足歩行ロボットで、とっさに足を出して姿勢を保つ「高次元姿勢バランス」や情報予測から人の操作の介在なしに自ら次の行動を判断する「自律行動生成」などの高度な中枢機能を持っている。簡単に言えば、 "転ばないための技術" だ。

つまり、それこそがホンダのGPマシンの設計思想である、"世界一速く走るマシン" とは、"世界一操りやすいマシン" につながっていくわけだ。

とはいえ「RC213V-S」は、一般公道の走行が前提のため、RC213Vから一般公道を走行するための必要最低限の変更と追加は行っている。[メンテナンス性からの変更項目]としては、カムギアトレインを踏襲しながらも、ニュウマチックバルブをコイルスプリング式に、シームレストランスミッションをコンベンショナル方式に変更している。これは前述のRCV1000Rと同仕様とのことで、厳密に言えば「RC213V-S」は市販MotoGPレーサーのストリートバージョンという表現のほうが近いかもしれない。

これ以外には[一般公道走行のための追加項目]として、灯火類やバックミラー、速度計、セルスターター、サイドスタンド、スマートキーなどが装備されている。また、[一般公道走行のための変更項目]としては、ハンドル切れ角を増やし、タイヤを公道用としフロントブレーキディスクをカーボンからステンレス材へ、ブレーキパッドをブレンボ製へ変更している。

「RC213V-S」の開発に当たっては、「RC213Vの動力性能の再現ではなく、完成車としてのパッケージングとRC213Vのライディングフィールを限りなく再現することを目的」にしているため、結果的にパワー的にはだいぶ抑えられているのも特徴だ。特に日本仕様は最高出力70ps(欧州仕様は159ps)ということで、複雑な思いを抱く人もいるかと思うが、そこはしっかりサーキット専用スポーツ・キットが用意されていて、専用ECUやマフラーなどにより出力も215psに引き上げられる。

いずれにしても前代未聞、かつてない本当の意味での究極のスーパーマシンが登場したものだ。公道で出会う確率はいかほどのものか知れないが、ぜひ遭遇してみたいものだ。

出典:Webikeバイクニュース

モーターサイクルジャーナリスト

63年東京生まれ。早稲田大学教育学部卒業後、RECRUITグループ、販促コンサルタント会社を経て独立。趣味が高じてモータージャーナルの世界へ。編集者を経て現在はジャーナリストとして2輪専門誌やWEBメディアで活躍する傍ら、「ライディングアカデミー東京」校長を務めるなど、セーフティライディングの普及にも注力。㈱モト・マニアックス代表。「Webikeバイクニュース」編集長。日本交通心理学会員 交通心理士。MFJ認定インストラクター。

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