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【自転車の危険運転】罰則強化で事故は減らせるか!?

佐川健太郎モーターサイクルジャーナリスト
6月1日より自転車危険運転の取締りが強化される

6月1日から自転車の危険運転への罰則が強化されることになりました。

普段の足として便利な自転車。近頃の健康志向や環境意識の高まりもあって、ちょっとした自転車ブームになっているようですが、その一方でいろいろな問題も出てきています。昨年の全国における自転車事故件数は約11万件。重篤な事故も後を絶たず、裁判で加害者に1億円近い賠償が科せられるケースも出てきています。果たして罰則強化だけで問題解決になるでしょうか、今回の法改正の背景から考察してみました。

警視庁発表の資料によれば、2014年の全国での交通事故全体の発生件数は57万3842件、死者数は4113人で双方とも近年連続して減少傾向にあります。そのうち自転車が関連する事故の割合は全体の2割程度でここ数年、件数自体も減少傾向にあります。

データだけを見れば、良い方向に向かっているようにも思えますが、ここで見逃せないのは交通事故全体に占める自転車事故死者数です。これも件数では微減傾向にあるものの、その比率では全体の13%前後と横ばい状態が続き、毎年500人以上が自転車で亡くなっています。負傷者の数では小中高校生などの若年層が多数であるのに対し、死亡者では高齢者が圧倒的に多くなっているのも特徴です。

また、自転車事故の特徴としては都市部が多いことが挙げられます。ちなみに東京都内での自転車関連事故の比率は約36%と全国を大きく上回り、特に近年増加傾向が問題視されている「自転車対歩行者」の事故のうち約3割(平成26年度は794件)が都内で発生しています。人口が密集し交通量も多い都市部でこそ、手軽な移動手段としてメリットを発揮する自転車ですが、その反面事故が多くなるのは皮肉なことです。

これまで免許のいらない自転車は誰でも気軽に乗れる乗り物という性質上、取締りも比較的緩いものでした。警察も見て見ぬふりだったわけです。ただ警察庁によると、自転車関連事故の約3分の2が何らかの交通違反が原因となっているとか。そうなると罰則強化も止むを得なしといったところでしょうか。

違反の対象となるのは「信号無視」や「一時停止違反」、「歩行者専用道での徐行違反」、「酒酔い運転」など14項目。現行法でも自転車が走るのは原則として車道。例外的に歩道を走る場合は徐行が義務づけられています。信号や一時停止の無視はもちろん、よく見かける路側帯の逆走も禁止事項ですが、今後はスマホ片手にヘッドホンをしたままの「ながら運転」なども安全運転義務違反となるようです。

どこからどこまで、という線引きは微妙なところですが、実際には警察官の現場判断で危険と見なされた場合は取締り対象となると思われます。具体的な罰則としては、危険運転で3年間に2回摘発されると受講料を支払い、講習を受けることが義務づけられ、従わなければ5万円以下の罰金が科せられることになります。

今回の法改正の目的はもちろん自転車による危険運転を防止し事故を減らすことですが、果たして罰則強化だけで自転車事故は減るのでしょうか。

もちろん一定の効果はあるでしょうが、本質的な解決のためにはまず交通ルールとマナー教育の徹底が求められます。学校教育の現場でも安全運転指導をよくやってくれていると思いますが、大人がまず見本とならなくては子供たちも納得してくれません。大人でもクルマやバイクにも乗らない人は交通ルールに疎い場合もあります。自転車も道路を走る軽車両です。そう考えると、簡単な免許制度の導入も必要な段階に来ているのかもしれません。

装備面でも私はヘルメット着用を義務化すべきと思います。かつて原付バイクでも論争がありましたが、結果として今日の安全面に大きく寄与しています。制限速度が30km/hの原付でそうなのだから、軽くそれ以上は出てしまうスポーツタイプの自転車での必要性は言うまでもありません。

そして最も重要と思われるのは道路インフラの整備でしょう。自転車がクルマやバイクと一緒に走るのは、誰がどう考えても危険ですし、お互いがストレスを抱えることになります。速度や加速力、安定性などの運転特性、アクシデントへの防御力がまったく異なる乗り物なのです。できるところから少しずつでも自転車専用レーンを整備すべきです。時間はかかったとしても、長い目でみてそれが最も事故低減に役立つと思いますが、いかがでしょうか。

出典:Webikeバイクニュース

モーターサイクルジャーナリスト

63年東京生まれ。早稲田大学教育学部卒業後、RECRUITグループ、販促コンサルタント会社を経て独立。趣味が高じてモータージャーナルの世界へ。編集者を経て現在はジャーナリストとして2輪専門誌やWEBメディアで活躍する傍ら、「ライディングアカデミー東京」校長を務めるなど、セーフティライディングの普及にも注力。㈱モト・マニアックス代表。「Webikeバイクニュース」編集長。日本交通心理学会員 交通心理士。MFJ認定インストラクター。

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