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「3輪バイク」新潮流なりうるか!?

佐川健太郎モーターサイクルジャーナリスト
ヤマハが発表した3輪バイク「TRICITY Concept」

「第43回東京モーターショー」が20日、東京ビッグサイトで開幕(一般公開は23日~12月1日まで)。2輪メーカーとしては国内4社(ホンダ、ヤマハ、スズキ、カワサキ)と海外3社(BMW、KTM)が出展し、話題のニューモデルを公開した。

今回の2輪ブースでは、国内モデルを中心に価格と性能がバランスした600cc前後のミドルクラスの台頭が目立つとともに、レジャー目的の小型電動バイクがお披露目されるなど、全体的に派手さはないが現実的な近未来を予見させる内容が印象的だった。その中で、新たな潮流として目を引いたのは3輪バイクの存在だ。

車体を傾けて曲がる

YAMAHA 「TRICITY Concept」
YAMAHA 「TRICITY Concept」

ヤマハが提案する「TRICITY Concept (トリシティ コンセプト)」は、新たなコミューター市場の創造を目指して開発中の3輪バイク。水冷4ストローク単気筒125ccエンジンとオーマチック機構を搭載し、軽快でスポーティな走りと扱いやすさ、3輪ならではの安定感を実現。ヤマハらしい洗練された美しいデザインも魅力だ。

そして、最も注目すべきは、LMW(リーニング・マルチ・ホイール)テクノロジーによるフロント2輪を採用している点。LMWは“車体を傾けて曲がる”という2輪車と同じコーナリング特性を持っているのが特徴で、2輪の機動性にマルチホイールによる安心性と高い操縦性を融合させ、スポーティな走行も楽しめる乗り物とのこと。左右の前輪が独立して動くサスペンション機構を備え、石畳のような荒れた路面やウェット路面、横風、Uターンなど従来の2輪車が苦手としてきたシチュエーションで優れた安定感を発揮するという。

20日のプレスカンファレンスにてヤマハ発動機の柳弘之社長は「2014年に導入する本格的なグローバルモデルで、日本市場での価格は40万円以下を想定している」と述べ、市販化が近いことをにじませるとともに、シティコミューターの新たなスタンダードとして、また都市部での交通問題のソリューションとして、既存の2輪ユーザー以外にも幅広くアピールとしていきたい意向を示した。

[http://global.yamaha-motor.com/jp/showroom/event/2013tokyomotorshow/sp/exhibitionmodels/tricity/]

未来は3輪電動ビークルも

KAEASAKI「J」
KAEASAKI「J」

もうひとつは、カワサキが今回のショーのテーマとして掲げた「未来を創る3つのテクノロジー」のひとつとして初公開した3輪電動ビークル「J」。航空機や鉄道など大型輸送機器を扱う川崎重工グループが培ってきた、電池制御技術を生かした未来のパーソナルモビリティである。高速充放電が可能な大容量ニッケル水素電池「GIGACELL」を応用したバッテリーを動力源とした前2輪の後1輪のスリーホイーラーで、車体の姿勢とライディングポジションを自在に変化されることで、リラックスした街乗りからアグレッシブなスポーツ走行まで異なるシーンに1台で対応できるモデルとして紹介。ブース内に流れているプロモーション映像を見る限り、こちらもバイクのように車体を傾けて曲がる方式のようだ。「J」についてはまだコンセプトモデルの段階で詳細は明らかにされていないが、完成すれば画期的な乗り物になることは確かだ。

すでに存在するコンセプト

PIAGGIO「MP3」
PIAGGIO「MP3」

話しを戻すが、ヤマハが提唱するLMW(リーニング・マルチ・ホイール)というコンセプトは実は新しいものではない。現在でも、欧州最大のスクーターメーカーであるイタリアのピアッジオが製造する「MP3」やジレラ「 Fuoco500ie(フォッコ)」などをはじめ、LMWタイプの3輪バイクは存在している。ちなみに「MP3」は水冷4ストローク単気筒300ccエンジンに独立懸架方式のクアトロ・リンク・サスペンションをフロント2輪に採用することで、モーターサイクル並みのパワフルな加速力とダイナミックなハンドリングを実現している。以前、「MP3」に試乗したことがあるが、2輪バイクには真似できないない強力な制動力や、フロントの絶大な安心感とともに路面にピタッと吸いつくような安定したコーナリング性能に感心した記憶がある。

3輪が普及するためには

かように素晴らしいメリットを持っているにも関わらず、3輪バイクがなかなか主流にならない理由は何故だろう。まず、保守的なバイク乗りにしてみれば「2輪ではない」ことがそもそも受け入れ難いのかも。安定性・快適性などのメリットも4輪に比べれば劣ると言わざるを得ない。かといって装備を豪華に大型化すれば、せっかくの利便性が失われて価格も跳ね上がり、駐車スペースや維持コストの問題も出てくる。大型クルーザーを改造したトライク(前1輪、後2輪)などが好例かもしれない。つまり、「2輪と4輪のいいとこ取り」はややもすると「どっちつかずの中途半端」になってしまう恐れがある。そこが3輪が宿命的に背負っている難しいところだ。

その意味では、ヤマハが3輪バイクで狙う「今までのスクーターと同じ気軽さでより安心な乗り物」というポジショニングは、今の都市部における現実的な交通環境にフィットしたものと言えるだろう。デザインもカッコよくて、燃費もよく安全性も高いとなれば勝算はある。あとは同クラスの既存スクーターより15万円ほど高くなるであろう価格とプラス30キロほどの車重が、ユーザーからどう受け取られるかだろう。

ヤマハは3輪バイクについて、発売後2~3年で世界販売10万台超を達成したい考えを明らかにしている。コミューターに新しい潮流を作れるか、今後の動向が楽しみだ。

モーターサイクルジャーナリスト

63年東京生まれ。早稲田大学教育学部卒業後、RECRUITグループ、販促コンサルタント会社を経て独立。趣味が高じてモータージャーナルの世界へ。編集者を経て現在はジャーナリストとして2輪専門誌やWEBメディアで活躍する傍ら、「ライディングアカデミー東京」校長を務めるなど、セーフティライディングの普及にも注力。㈱モト・マニアックス代表。「Webikeバイクニュース」編集長。日本交通心理学会員 交通心理士。MFJ認定インストラクター。

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