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夏休み ネットに集まる教員の声 オンライン・イベントに教員と市民が集う

内田良名古屋大学大学院教育発達科学研究科・教授
(写真:ペイレスイメージズ/アフロイメージマート)

 お盆休みの14日、「#先生死ぬかも」がTwitterのトレンドに入った。2018年11月にこのハッシュタグを発案したお笑いジャーナリストのたかまつななさんが、14日に開催されたオンライン・イベントで参加者にはたらきかけたことがきっかけだ。このところ教員の長時間労働の問題をあまり耳にしなくなったようにも感じられるが、その苦悩の声はいまも見えないところに積み重なっている。

■働き方改革のイベントに のべ2700件の申し込み

 教員の苦悩の声は水面下に蓄積されている。このことを私は7月に身をもって実感することになった。18日に私は、嶋崎量さん(弁護士)・工藤祥子さん(神奈川過労死家族の会)・斉藤ひでみさん(高校教諭)とともに、「コロナ禍の子どもの教育と教員の働き方改革を問う」と題するオンライン・イベントを開催した。

 告知を開始したところ、1日も経たないうちに予定席数の100件を超える申し込みがあり、最終的にその件数は1144件に達した。当日のライブ配信には、計804名の参加があった。その後、8月にも同様のイベントを2回開催し、この夏に計3回のイベントで、のべ人数にて2718名の申し込み、1900名の参加が記録された[注]。(なお、3回目のイベント時にたかまつななさんがゲストとして参加し、そこで「#先生死ぬかも」をツイートする着想が生まれた。)

 まったくの思いつきによるイベントだったのだが、私たち主催者4名は、想定を超えた多くの申し込み・参加を受けて、教員の長時間労働への関心がきわめて大きいことを実感した。

■半数は教員以外

 さらにここで強調しなければならないのは、教員以外の参加者が多かった点である。計3回のイベントで、申込者のうち半数は、小学校・中学校・高校・特別支援学校などの教員であったが、残り半数は教員以外(学生、大学教員、会社員、マスコミ関係者など)、じつにさまざまな立場の人たちであった。

参加者の職業 ※筆者が作図
参加者の職業 ※筆者が作図

 3回のイベントはいずれも、教員という特定の職業の労働問題を取り扱った。そこに、直接の当事者ではない人びとが半数を占めていたのだ。教員の働き方改革が、じつに広範な人びとの間で、高い関心事となっていることがわかる。

 教員が疲弊していては、教育の質保障も危ぶまれる。子供とこの社会の未来はどうなるのか。いま、先生たちに多くの応援団が付いている。苦悩の声を学校の外に見える化しながら、業務削減等の理解を求めていく必要がある。

■匿名空間で声をあげる

 オンライン・イベントはインターネット上で宣伝や申し込みがおこなわれるため、イベントの情報も、インターネットから得られる。1回目のイベントで、情報の入手経路をたずねたところ、Twitterが54.3%、Facebookが22.7%と、両者で4分の3が占められた。

イベントの情報をどこで得たか ※筆者が作図
イベントの情報をどこで得たか ※筆者が作図

 それは第一に、私自身を含め主催者がとくにTwitterを中心に宣伝したことが影響していると考えられる。そしてもう一つの理由として、部活動改革にはじまる教員の働き方改革が、Twitterを舞台に展開してきたという経緯がある。

 学校には、「お金や時間に関係なく子供のために働く」ことを美徳とする学校文化がある。拙稿「ツイッターが生み出した部活動改革」でも述べたとおり、「学校の中はすごく保守的」であることから、部活動の過熱を問題視した教員は「世論から変えていこう」と「ひたすらツイート、リツイートしまくった」のである。

 教員の働き方改革は、Twitterによる学校外での情報発信とその連帯によって広がりをみせてきた。学校という束縛から解き放たれて、無限に広がる匿名空間で「苦しい」という率直な声が発せられてきたのである。

■魅力を発信する?

 学校では声をあげにくい。だから、ネット空間で個々の教員が声をあげる。こうして、教員の働き方の実態と問題点が見える化してきた。

 教員の労働問題に限らず、一般に当該事象のマイナスの部分が見える化したときには、後続のリアクションとして大きく分けて2つの対照的な動きが生じると、私は整理している。

魅惑モデルと持続可能モデル ※筆者が作図
魅惑モデルと持続可能モデル ※筆者が作図

 一つは「魅惑モデル」と呼ぶべき動きである。マイナスが見える化した際に、次々とプラスを提示する動きである。教師という仕事がいかにすばらしいか、その意義が情熱的に語られる。プラスが次々と重ねられていくため、合計値としてプラスが目立つようになり、教職は輝きを増す。だが魅惑モデルのもとでは、マイナスは減らない。

 もう一つは、「持続可能モデル」と呼びたい。これは、プラスはそのままに、マイナスだけを取り除いていく方法である。

 教員の長時間労働は、無理に働かされている側面がある一方で、子供のために尽くすことで報われる側面がある。魅力があるからこそ、長時間労働に歯止めがかからない。

 そうだとすれば、もう魅力を語る必要はない。マイナスのみを削減していけばよいのであり、その結果として相対的にプラスは多くなっていく。負荷を減らして、「持続可能」な教育を成り立たせることができる。

■マイナスに向き合う

 このところ、教職の志願者数が減るなかで、個々の教員さらにはとくに教育委員会や教員養成系大学から、「教職の魅力を発信しよう」という声が聞かれるようになっている。教職志望のある学生は、「魅力を知っているからここに入学したのであって、長時間労働の問題をちゃんと考えてほしい」と嘆いていた。

 「#先生死ぬかも」をはじめ、教職の負の側面がネット空間で語られる土壌ができあがっている。教職に魅力がないということを言っているわけではない。魅力は十分にあるから、あとは大きすぎる負荷を減らしくということである。

 学校の周りにはいま、たくさんの応援団がいるはずだ。ネット上の議論をリアルな教育現場に引き寄せながら、子供にも教員にも無理のない学校生活の実現に向けて、議論が交わされることを願う。

  • 注:7月18日のイベントでは、申し込みが計1144名、当日参加がZoomに624名とYouTubeに180名の計804名。8月9日のイベントでは、申し込みが計822名、当日参加がZoomに541名とYouTubeに48名の計589名。8月14日のイベントでは、申し込み計752名、当日参加がZoomに468名、YouTubeに39名の計507名。なお、視聴者数のデータがZoomとYouTubeで異なっていることから、Zoomでは15分以上の視聴者数、YouTubeでは最大同時視聴者数を数え上げることとした。
名古屋大学大学院教育発達科学研究科・教授

学校リスク(校則、スポーツ傷害、組み体操事故、体罰、自殺、2分の1成人式、教員の部活動負担・長時間労働など)の事例やデータを収集し、隠れた実態を明らかにすべく、研究をおこなっています。また啓発活動として、教員研修等の場において直接に情報を提供しています。専門は教育社会学。博士(教育学)。ヤフーオーサーアワード2015受賞。消費者庁消費者安全調査委員会専門委員。著書に『ブラック部活動』(東洋館出版社)、『教育という病』(光文社新書)、『学校ハラスメント』(朝日新聞出版)など。■依頼等のご連絡はこちら:dada(at)dadala.net

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