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学校から部活がなくなる? 完全外部化の是非

内田良名古屋大学大学院教育発達科学研究科・教授
将来における部活動の担い手(各種全国調査の結果をもとに筆者が整理・作図した)

■文部科学省「部活動は地域で」

 昨年末、文部科学省は「学校における働き方改革に関する緊急対策」を公表した。そこで言及された具体的な業務内容のなかで、もっとも手厚い記述があったのが「部活動」である。そしてそこには、部活動を学校から地域に移行するという展望が示されていた。

 これまで部活動は学校を基盤にして発展してきただけに、文部科学省は大胆な改革の方向性を示したと言える。他方で、この点を掘り下げた報道はほとんどない。

 私は文部科学省の方針に賛同するものの、地域移行の実効性には懐疑的である。というのも、学校の内外から、地域移行への根強い抵抗があるからだ。

 はたして学校から部活動はなくなってしまうのか。地域移行の実現可能性について考察する。

■外部委託ではなく切り離し

文部科学省「学校における働き方改革に関する緊急対策」(2017年12月26日発表)
文部科学省「学校における働き方改革に関する緊急対策」(2017年12月26日発表)

 「学校における働き方改革に関する緊急対策」では、「教師の勤務負担の軽減や生徒への適切な部活動指導の観点」から、「部活動指導員や外部人材を積極的に参画させるよう促す」と、部活動の外部委託をいっそう進めることが提言された。

 外部指導者は1990年代後半頃から、「開かれた学校づくり」のなかでその必要性が訴えられるようになり、2017年度時点で全国に約31,000人が部活動の指導にあたっている(日本中学校体育連盟調べ)。この意味での「外部化」は、けっして目新しいことではない。

 だが今回の文部科学省の提言は、次のとおり、部活動指導の一部を外部委託することを超えて、完全外部化に踏み込むものである。

 将来的には、地方公共団体や教育委員会において、学校や地域住民と意識共有を図りつつ、地域で部活動に代わり得る質の高い活動の機会を確保できる十分な体制を整える取組を進め、環境が整った上で、部活動を学校単位の取組から地域単位の取組にし、学校以外が担うことも検討する。

出典:文部科学省「学校における働き方改革に関する緊急対策」(2017年12月26日発表)より

 すなわち、「地域で部活動に代わり得る質の高い活動」という表現にあるように、外部委託というよりも、部活動を学校から切り離して、「地域単位の取組」に移行させようというのである。

■画期的な提言

 部活動指導は、教員の長時間労働の主要因となっている。かつ授業とは異なって部活動は、生徒の自主的な活動にすぎない。だから、部活動を学校から切り離すことで、長時間労働が大胆に解消される可能性がある。

 私は文部科学省が、部活動の全面移行に言及したことを、とても高く評価している。部活動は長らく、日本の学校に特有の活動として根づいてきた。それだけに、これに代わる活動を学校外に求めるというのは、画期的な提言であり、部活動改革の新たなステージが始まったと言っても過言ではない。

 だが地域への移行は、簡単にはできるものではない。むしろ、課題ばかりである。

 大なり小なりのさまざまな課題があるものの、ここではとくに、部活動を学校から切り離す「意識」に着目して、その困難を示したい。

■教員は賛否真っ二つ

1)部活動は教員の本来的業務か、2)部活動を地域に移行すべきか[連合総研『とりもどせ!教職員の「生活時間」』のデータをもとに筆者が整理・作図した。]
1)部活動は教員の本来的業務か、2)部活動を地域に移行すべきか[連合総研『とりもどせ!教職員の「生活時間」』のデータをもとに筆者が整理・作図した。]

 連合総研が2015年12月に実施した全国調査(『とりもどせ!教職員の「生活時間」』(2016年))では、そもそも公立中学校教員の38.1%は、部活動を教員の「本来的業務だと思う」と回答している。これは一方で、「本来的業務だと思わない」が43.3%に達すると強調することもできる。

 部活動指導の負担は大きく、かつ部活動は必ずしも教員が担うべきものではないにもかかわらず、部活動指導を「本来的業務」と考える教員は、けっして少なくない。本来的業務とは考えない教員と、ほぼ同程度存在する。

 これは、他職種に移行すべきかどうかについても、同様の傾向が認められる。部活動指導を他職種に「移行すべきではない」、すなわち、学校の教員で担うべきと考える教員(44.6%)と、「移行すべき」と考える教員(55.4%)は拮抗している(なお、この質問においては「わからない」という選択肢は用意されていない)。

 部活動を地域等の学校外部に移行させることをめぐっては、職員室は賛否真っ二つに分断されている。

■20年前と変わらず

文部省『運動部活動の在り方に関する調査研究報告書』(1997年)
文部省『運動部活動の在り方に関する調査研究報告書』(1997年)

 部活動の完全外部化(地域移行)については、じつは1996年4月~7月にかけて文部科学省(当時は文部省)が実施した全国調査「中学生・高校生のスポーツ活動に関する調査」(『運動部活動の在り方に関する調査研究報告書』(1997年))のなかにも同じような質問を見つけることができる。

 「運動部活動を将来どのようにしていくのがよいと思うか」という質問に対して、中学校教員では、学校部活動を基盤とすべき旨の回答が計46.4%であったのに対して、地域移行を目指すべき旨の回答が計53.6%であった[注1]。

 約20年前においても、部活動の地域移行は職員室を二分する話題であった。そして、回答者の抽出方法や質問文・選択肢の内容が合致しているわけではないものの、2015年の連合総研の全国調査と結果が酷似している点は、興味深い。つまり学校現場では長年にわたって変わらず、部活動を学校で維持していくべきと考える教員と、地域に移行すべきと考える教員が、同程度存在しつづけてきたのである。

■保護者は9割超が学校部活動を支持

 さらに言うと、保護者の場合は、地域ではなく学校の部活動に対する期待が圧倒的に大きい。

 スポーツ庁は2017年7月に実施した最新の全国調査「運動部活動等に関する実態調査」で、運動部生徒の保護者に対して、持続可能な部活動のあり方をたずねている。公立中学校の保護者の場合、6つの選択肢のなかでもっとも多かった回答は、「学校・教員が担う」の43.0%で、「地域の活動へ移行」はわずか7.0%にとどまった。

 なお、6つの選択肢のうち3つが学校部活動を前提とするもので、その合算値と地域移行の数値のみを対比させると、前者が92.0%、後者が8.0%となる[注2]。

 そしてこの傾向もまた、約20年前とほとんど変化がない。上述の文部省の調査結果によると、中学生の保護者では、学校部活動を基盤とすべき旨の回答が計94.2%であったのに対して、地域移行を目指すべき旨の回答は計5.8%であった[注3]。

■部活動を指導したい教員、したくない教員

将来における部活動の担い手(スポーツ庁、連合総研、文部省(当時)の各種全国調査の結果をもとに筆者が整理・作図した)
将来における部活動の担い手(スポーツ庁、連合総研、文部省(当時)の各種全国調査の結果をもとに筆者が整理・作図した)

 上記の各種調査結果を、「学校が担う」「地域に移行する」というかたちで整理すると、教員と保護者における部活動の完全外部化(地域移行)に対するここ20年間の意識を読み取ることができる。

 第一に、教員集団の部活動に対する見方は分断されている。部活動を学校で担うべきか否か、教員は部活動指導を本来的な業務として引き受けるべきか否か。なるほど、教員のなかには、部活動を指導したくて教職に就いたという者が年齢・性別を問わず多くいる一方で、部活動で時間を奪われることが多大なストレスになっている者もいる。

 地域移行について職員室のなかは賛否真っ二つであるものの、しかしながら、今回は言及できなかったが、そもそも地域のほうで受け皿がほとんど整備されていないという重大な課題がある。それゆえ結局は、従来どおりに全体として教員集団が部活動を引き受けるという事態がつづいていく。

■部活動=学校という当たり前

 第二に、保護者は賛否真っ二つということはなく、大多数が学校での指導を期待している。これはある意味、学校の教員に対して、保護者が厚い信頼を抱いているとも言える。

 だが、言い換えるならばそれは教員への甘えでもあり、そうした保護者の要望が賛否両論のはずの職員室を「無風状態」にしてしまっている背景要因とみることもできる(拙稿「教師の働き方改革が進まない学校の『世論知らず』」)。

 第三に、教員と保護者のいずれにおいても、過去約20年の間に大きな変化が認められない。部活動は学校で実施するのが当たり前となっており、それを抜本的に学校から切り離すということがそもそも意識にのぼっていないと考えられる。

 1990年代後半頃から外部指導者の活用というかたちで、部活動の外部委託が徐々に進んできたものの、これは学校部活動を前提とするもの、さらには、学校部活動を充実させるものとも言える。だが、部活動とは生徒にとって自主的な活動にすぎず(拙稿「自治体ぐるみで部活動の強制加入」)、その意味で学校を基盤とする必要はない。

 以上、私たちの意識はそもそも部活動=学校という括りから逃れていないことが明らかとなった。文部科学省がどれほど大胆な提言をしようとも、私たちの意識がこのままでは、改革の気運が高まることもなく、その実効性はきわめて低いものとなるだろう。部活動改革の成否は、私たちが抱いている「当たり前」からの脱却にかかっている。

  • 注1:回答者には公立中学校にくわえて一部、私立中学校の教員が含まれる。「運動部活動を将来どのようにしていくのがよいと思うか」という質問では、もともとは、学校部活動を基盤とする回答(「学校教育における意義ある活動として今以上に充実した方がよい」「子供たちのために将来的にも現状程度の運動部活動は続けた方がよい」「環境が整っていればいくつかの部を廃止(一部社会体育へ移行)したり、外部指導者の活用など社会体育との連携を図ることはよいが、大部分を社会体育へ移行させることには反対」)が計46.1%、地域移行を目指す回答(「基本的には社会体育へ移行すべきであるが、短・中期的には無理である」「学校の負担軽減などのためにすぐにも社会体育へ移行させていくべきである」)が計53.2%、その他が0.8%であった。連合総研の調査との比較を容易にするために、その他の0.8%分を削除し、学校部活動を基盤とする回答と地域移行を目指す回答のみで計100%となるよう再計算した。
  • 注2:もともとは、「できる範囲で今までどおり学校・教員が担う」が43.0%、「多少のお金がかかっても実技指導者を配置する」が32.9%、「保護者がもっと部活動に協力する」が4.4%、「将来的に学校から地域の活動へ移行させる」が7.0%、「部活動はなくて良い」が1.8%、「特段の意見はない・わからない」が10.2%である。「部活動はなくて良い」と「特段の意見はない・わからない」を省いた上で、学校部活動を前提とする前三者と「将来的に学校から地域の活動へ移行させる」の比を100%換算すると、92.0%:8.0%となる。
  • 注3:回答者には公立中学校にくわえて一部、私立中学校の保護者が含まれる。選択肢の取り扱いについては、注1に同じ。
名古屋大学大学院教育発達科学研究科・教授

学校リスク(校則、スポーツ傷害、組み体操事故、体罰、自殺、2分の1成人式、教員の部活動負担・長時間労働など)の事例やデータを収集し、隠れた実態を明らかにすべく、研究をおこなっています。また啓発活動として、教員研修等の場において直接に情報を提供しています。専門は教育社会学。博士(教育学)。ヤフーオーサーアワード2015受賞。消費者庁消費者安全調査委員会専門委員。著書に『ブラック部活動』(東洋館出版社)、『教育という病』(光文社新書)、『学校ハラスメント』(朝日新聞出版)など。■依頼等のご連絡はこちら:dada(at)dadala.net

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