緊急特集 「安全な組体操」を求めて:【映像資料】組体操の専門家 荒木教授から学ぶ

3段の「やぐら」[日本体育大学提供]

目からウロコの「安全な組体操」

国が組体操指導の指針を出してから、初めての運動会を迎える。「組体操は危険」というイメージが拡大するなかで、学校は安全指導の方法もわからぬままに、運動会の練習に突入しようとしている。

「緊急特集 『安全な組体操』を求めて」の第一弾として、この記事では日本体育大学教授の荒木達雄氏の解説による、安全な組体操の具体的な指導方法を、動画を用いて紹介したい。荒木氏は、同大の体操研究室を統括する組体操・組立体操指導の専門家である。氏は、高さを求めるのではなく、基本的な技、低い段数の技を丁寧に指導することが大事であると主張する。

百聞は一見にしかず。まずは、約3分で構成されている2つの動画を、目で見て確認してほしい。巨大さを求めない方法で、身体をたくみに動かしたり組んだりしながら、見事な表現運動が展開されている。目からウロコの組体操が、そこにある。

  • 【動画01】全体演技A:扇+やぐら↓
  • 【動画02】全体演技B:2人組による表現運動↓

■基本技における安全最優先の指導方法

動画からは、組体操の原点である、人と人とが組み合うことのおもしろさを感じ取ることができる。学校関係者だけでなく、保護者や地域住民を含め私たち大人は、子どもに巨大なもの、アクロバティックなものを求めるのではなく、低くても魅力的で効果ある身体活動・表現運動が可能であることを学ぶべきである。

さて、上記の動画は、練習の「成果」であり「完成形」である。だが、荒木氏はむしろその指導の「過程」を大事にしている。基本的な技、低い段数の技であっても事故はよく起きるため、そこでの安全指導を徹底しているのだ。

以下、荒木氏が学校で取り上げてもよいだろうと判断するいくつかの基本的な技について、その安全指導の留意点を動画で紹介していきたい。

(1)「サーフィン」(四つん這いの上に一人が立つ技)における土台の腕の位置

▼土台(四つん這い)の腕が床と90度 = 土台はラク。

▼土台(四つん這い)の腕がやや前方 = 90度のときよりは、やや重さを感じる。

  • 【動画03】「サーフィン」における土台の腕の位置↓

(2)「サーフィン」(四つん這いの上に一人が立つ技)における上段の立ち位置

▼上段が土台(四つん這い)の背中の上に立つ = 土台は痛い。上は不安定である。

▼上段が土台(四つん這い)の腕と脚の延長線上に立つ = 土台はそれほど痛くない。かつ、上段も安定している。

  • 【動画04】「サーフィン」における上段の立ち位置↓

(3)「扇」における手のつなぎ方

▼手のつなぎ方は、基本的には手首をつかみ合うと安定する。

▼手首をつかむとバランスが保てなくなる場合には、手をカギ型でつなぐとよい(握手でつなぐと、滑りやすくなる)。

  • 【動画05】「扇」における手のつなぎ方↓

(4)「サボテン」における土台の膝への乗り方

▼肩車からのサボテンではなく、床から直接に土台の膝に乗るという流れが安全である。

▼いきなり完成形を目指してはならない。まずは土台が持ち上げ、上段はそれに合わせてジャンプし、床に着地する。これをくり返す。

▼次に、上段は土台の膝に足の裏を一瞬だけ当ててから着地する。これをくり返して、乗るときのタイミングや感覚をつかむ。

  • 【動画06】「サボテン」における土台の膝への乗り方↓

(5)「サボテン」における上段の着地方法

▼(サボテンに限らないことだが)乗り手が着地する際には、膝や足への負荷を減らすために、膝をうまく曲げながら着地する。

  • 【動画07】「サボテン」における上段の着地方法↓

(6)「サボテン」における落ちる練習

▼(サボテンに限らないことだが)落ちる練習をするということが大事である。

▼バランスが崩れた場合には、土台はすぐに手を離せるようにしておく。上段の脚を、土台がずっと抱えていては、上段は顔から床に落ちてしまう。

  • 【動画08】「サボテン」における落ちる練習↓

(7)「やぐら」(3段)における土台の姿勢

▼中段が背中を曲げてしまうと、上に乗ることが難しくなり、やぐらが崩れてしまう。

▼中段は背筋を伸ばして、その腰の上に、上段が乗る。中段の脚から上段の脚へと力がまっすぐかかるようにすることで、中段の負担感は減り、上段の安定感は増す。

  • 【動画09】「やぐら」(3段)における土台の姿勢↓

(8) 「やぐら(3段)」における落ちる練習

▼上段は、中段の腰に乗ってすぐに、前方または後方に飛び降りる練習をくり返す。

▼慣れてきた時点ではじめて、上段は制止して立ち上がってみる。

  • 【動画10】「やぐら」(3段)における落ちる練習↓

■安全指導に時間をかける

筆者は「扇」を初体験。手はカギ型。
筆者は「扇」を初体験。手はカギ型。

以上、荒木氏の指導からは、一つひとつの技について、そしてさらに、そのなかの一つひとつの動きについて、丁寧な安全指導の必要性が見えてくる。初歩的な技だからといって、安全指導を軽視するのではなく、そこにしっかりと時間をかけることが大切だ。

そうこうしているうちに、体育の時間はすぐに消化されてしまうだろう。それで十分だ。そして、冒頭の目からウロコの演技を観ていただければわかるように、初歩的な技を組み合わせるだけでも、ずいぶんと魅力的な表現運動が生み出されていく

答えはもう出ている。保護者や地域住民を含め私たち大人は、子どもに高さや曲芸を求めてきた過去を反省し、認識を改めるべきである。あとは、学校や教育行政が「安全な組体操」に舵を切るのを待つだけだ。

★緊急特集 「安全な組体操」を求めて <次回、次々回予告>

座談会 ~組体操指導の権威と問題を追う記者に聞く~

・荒木達雄(日本体育大学 教授)

・細川暁子(東京新聞 記者)

・内田良(名古屋大学 准教授)

  • 座談会(1) 組体操に賛成/反対はもう古い! みんなで考えよう 組体操の意義

→ 5/2(月)配信予定

  • 座談会(2) 学校の先生 必読! 「安全指導」7つのポイント

→ 5/4(水)配信予定

  • 注:動画のなかで紹介された指導方法は、安全な組体操を実施するうえでのほんの一場面にすぎません。実際の授業においては、さまざまな観点から、より徹底した安全指導が求められます。
  • <映像資料のご案内>
画像

この記事で用いた10本の映像資料は、YouTubeの特設チャンネル「緊急特集 『安全な組体操』を求めて」において、すべて閲覧することができます。また、日本体育大学体操研究室のチャンネルにも映像資料が掲載されています(本記事の動画の一部はそこからお借りしました)。

  • <謝辞>

撮影に協力してくださった日本体育大学の学生の皆様には、心より感謝申し上げます。皆様には、撮影のために何度も同じような技に取り組んでいただきました。組体操の事故防止を願う一人として、皆様の真剣な表情には、頼もしさを感じました。皆様が教育現場に入るなかで、安全で楽しい体育活動が拡がっていくことを、切に願っています。本当にありがとうございました。

荒木先生と学生の皆様の思いが、全国の学校現場に行き届きますように
荒木先生と学生の皆様の思いが、全国の学校現場に行き届きますように