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放送事業者は総務省政治的公平に関する文書についてどのような認識を示したか?

西田亮介社会学者/日本大学危機管理学部教授、東京工業大学特任教授
(写真:イメージマート)

総務省の政治的公平に関する文書をめぐる政局は結局現時点で膠着状態だ。高市大臣の答弁は相当混乱したが、批判の急先鋒にたった小西氏も攻め手に欠くどころか本件とも関連する「失言」で立憲民主党が参議院憲法審野党筆頭幹事を更迭するなど展望に乏しい。

ところで「萎縮」しているなどと指摘されがちな放送事業者はどのような認識を示したのだろうか。改めてNHK会長、民放連会長、各キー局社長定例会見(日本テレビ、テレビ朝日、TBSテレビ)なども出揃ってきたので概観のうえ簡潔に検討してみたい(フジテレビジョンは本稿執筆時点で公開されていないので割愛)。

結論を先取りすれば、「萎縮」の存在を認めた社はなく、全体的にコメントを回避する傾向が強い。会見の順番もNHK、民放連、各キー局。慣例通りだが、本件に関して特別のメッセージを出した事業者は見当たらない。以下、それぞれの抜粋、引用である。

■NHK会長2023年3月定例会見(2023年3月15日)

(記者)放送法が定める政治的公平の解釈を巡る総務省の行政文書問題について国会で議論が行われているが、NHKの見解は。

政治的公平の解釈に関していろいろ議論が出ていますが、政府の統一見解についてどうかとか、その辺のコメントは差し控えたいと思います。けれども、基本的にはNHKは不偏不党の立場を守りながら公平公正、自主自律を貫いて放送にあたっておりますし、今後ともそういう姿勢で臨んでいきます。放送法の規定を踏まえて定めている国内番組基準がありまして、そこでは「政治上の諸問題は、公正に取り扱う」「意見が対立している公共の問題については、できるだけ多くの角度から論点を明らかにし、公平に取り扱う」と定めています。こうした基準に則って、原則として個々のニュースや番組において、対立する意見の双方を伝えるという努力をしています。またニュースや番組が複数回にわたる場合には、同一のシリーズの中で公平に取り扱うように努めていまして、NHKの放送全体として公平性を確保するようにしています。この姿勢は今後とも変わりなく、視聴者の声に耳を傾けながら、よりよい放送の実現に向けて、視聴者国民の判断のよりどころになるよう情報の提供をしていきたいと思っています。

(記者)基本的には1つ1つの番組ごとで政治的公平性についてバランスをとるようにしているということではなく、NHKの放送全体で、公平になるということが基本という理解でよいか。

1つ1つ(の番組)でやるのか全体としてやるのか、そういう分け方で考えているわけではなくて、公平性を維持するために、複数の意見があるときは平等に取り扱うという原則に立ちながら、1つの番組を作るときにも考えているし、シリーズで放送していくときには、その中で公平が保たれるように考えていくということだと思います。

(記者)放送法4条の法解釈をめぐる問題について、どのように受け止めているか。

放送法4条については多様な意見があると承知していますが、放送事業者としてやるべきことは、そこに書いてあるとおり、確かな事実を報道することに尽きるわけで、そういう努力を放送事業者はやっていかなければいけないと思っています。

(記者)国会で松本総務大臣が放送法の解釈について、従来の解釈を変えたものではなくて補充的説明をしたものだという認識を示した。その上で、放送関係者にもそのことは理解いただけると認識していると話していたが、解釈は従来と変わらないという認識か。

基本的にそういう事になってからも、それ以前も、政治的公平性についての見解を示されたことがあるとは私は聞いていませんので、変わったかどうかも分からないということです。いずれにしても、そういう中でNHKとしては、従来から政治的公平性を貫くように自主自律で放送にあたっています。

https://www.nhk.or.jp/info/pr/toptalk/assets/pdf/kaichou/k2303.pdf

から引用。強調は引用者による。なお同日のメディア総局長会見では言及なし)

■民放連会長2023年3月定例会見(2023年3月16日)

○政治的公平について

◆記者:政治的公平に関する国会での議論をどのように見ているか。

◆遠藤会長:行政文書の真贋について今、精査しているところだと思うのでコメントは控えたい。

◆記者:政治からの独立についてどのように考えているか。

◆遠藤会長:放送法は放送事業者の自主・自律を大原則としており、番組内容に関する政治や行政の関与はあってはならないと考えている。

◆記者:電波法との関係についてどのように考えているか。

◆遠藤会長:2016年の総務大臣答弁の際、民放連の井上会長は会見で、放送法は放送事業者の自主・自律を大原則とする法律であり、公権力の介入は抑制的であるべきだといった趣旨を述べ、放送全体を見て判断してほしいと述べた。そうした考えに変わりはない。放送事業者が政治的公平に十分に留意し続けることが公平さを守ることに帰着すると思う。

◆記者:野党は補充的解釈を撤回すべきと主張しているがどのように考えているか。

◆遠藤会長:議論の端緒が真贋を問われている行政文書であるので、コメントは控えたい。

◆記者:民放各局では動揺や委縮は無いという理解か。

◆遠藤会長:2016年の総務大臣答弁以降も、報道情報番組に関わる部分が委縮したとは思っていない。

https://j-ba.or.jp/category/interview/jba105961

より引用。強調は引用者による)

■日本テレビ2023年3月27日 日本テレビ 定例記者会見

Q. 放送法について

A. 本件詳細について、評価等コメントはこの場においては控えさせて頂きたい。一般論的に、我々放送事業者としては、放送法の定めとその精神に則り、国民の知る権利に正しく応える不断の努力を積み重ねている。

 これまでどおり放送法を順守して自主的、自律的に放送する姿勢を貫いてゆくことに尽きると考えます。番組審議会・BPOが十分に機能していると思っている。

 しっかりとコンテンツを出していく観点から、視聴者がどのように感じるかを受け止めながら、放送局として公平性を追求し、お伝えしていきたい。

https://www.ntv.co.jp/info/press/pdf/press189.pdf

より引用。強調は引用者による)

■テレビ朝日早河洋会長・篠塚浩社長 記者会見(3月28日)の要旨(2023年3月29日)

※放送法関連について。放送法が定める政治的公平の解釈をめぐる総務省の行政文書問題だが、今回のこの一連の議論について受け止めは。

篠塚社長:いわゆる総務省の行政文書を国会で様々議論されているのは当然承知しており、当社の報道情報番組も適宜取り上げている。当社としては、これまでも常に放送法に基づいて公平公正な報道に努めてきた。今後も同じように公平公正な報道に努めていく。

https://company.tv-asahi.co.jp/contents/interview/0061/index.html

より引用)

■TBSテレビ2023年3月29日定例会見に関して

※同社会見は記者との質疑があったと思われるが、本稿執筆時点でコーポレートサイト掲載の定例会見要旨では質疑部分が省略されている。暫定的に、会見を報道している産経新聞から引用。

佐々木社長は文書の内容に対するコメントは避け「放送法の『政治的公平』は、局の番組全体を見て判断されるものだという認識だ」と述べた。

(「現場への影響はない」 政治的公平巡りTBS社長 https://www.sankei.com/article/20230329-TSX5XFNAJVNTRPANE4KLAUGVXY/ より引用。強調は引用者による)

※なおTBSテレビ3月社長定例会見概要は以下。

https://ssl4.eir-parts.net/doc/9401/ir_material3/203470/00.pdf

ここまでの会見抜粋から明らかになるのは、「萎縮」の存在や現場への影響を認めた社はないが、全体的にコメントを回避する傾向だ。例えば新聞紙面では総務省の政治的公平文書に関する問題は相当の紙面を割いて報じられてきた。そのなかには当該文書のなかで名指しされた番組のディレクターなどが「萎縮」に言及するものもあったし、その一方でこの間、批判的な報道を展開する番組が各局で多数放送されてきた。その意味では萎縮の実状はいまひとつ判然としないのだが、上記のそれぞれの会見は各団体、事業者の「公式見解」といえる。

それでも、どこか奇妙な印象を受けないだろうか。萎縮を認める社はひとつもないが、かといって積極的に論評する社も見当たらないのである。なぜ、どの社も声明を出したり、積極的に論評したり、批判したりしないのだろうか。放送法第4条が求める政治的公平性はそもそも番組編集に関するものである。

(国内放送等の放送番組の編集等)

第四条 放送事業者は、国内放送及び内外放送(以下「国内放送等」という。)の放送番組の編集に当たつては、次の各号の定めるところによらなければならない。

一 公安及び善良な風俗を害しないこと。

二 政治的に公平であること。

三 報道は事実をまげないですること。

四 意見が対立している問題については、できるだけ多くの角度から論点を明らかにすること。

※放送法第4条より引用。強調は引用者による

そうであるにもかかわらず、放送事業者が放送行政に関する問題に関して、事業者としての態度や積極的論評を示す様子がまったくといっていいほど認められないのだ。放送事業者全体に規制当局や政治との余計な摩擦を避けたいという「摩擦回避志向」が蔓延していないだろうか。メディアに対する視聴者の信頼は単に番組を通して築かれるものではなくなりつつある。現代の視聴者は当然のことながら「事業者としてのメディア」にも注目しているはずだ。他の企業においても説明責任や透明性、製造物責任が問われることが多く、番組等ではメディアもそれらを追及するが、マスメディア、ネットメディア問わずメディア企業は総じて自らの説明責任や透明性には鈍感なように思われる。特に放送法による特別な制約と自主的規律が求められる放送事業者はそれらにもっと敏感になり、本腰を入れるべきだ。「政治に対する萎縮」についての視聴者の認識が「誤解」であり、放送事業者は萎縮などしていないと主張するならなおさらそうであってほしい。

※関連拙稿

総務省放送法に関する「政治的公平に関する文書」問題をどの視点で読むか――解釈変更と萎縮の有無を中心に(西田亮介)

https://news.yahoo.co.jp/byline/ryosukenishida/20230314-00340783

社会学者/日本大学危機管理学部教授、東京工業大学特任教授

博士(政策・メディア)。専門は社会学。慶應義塾大学総合政策学部卒業。同大学院政策・メディア研究科修士課程修了。同後期博士課程単位取得退学。慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科助教(有期・研究奨励Ⅱ)、独立行政法人中小企業基盤整備機構経営支援情報センターリサーチャー、立命館大学大学院特別招聘准教授、東京工業大学准教授等を経て2024年日本大学に着任。『メディアと自民党』『情報武装する政治』『コロナ危機の社会学』『ネット選挙』『無業社会』(工藤啓氏と共著)など著書多数。省庁、地方自治体、業界団体等で広報関係の有識者会議等を構成。偽情報対策や放送政策も詳しい。10年以上各種コメンテーターを務める。

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