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【追記】新型コロナウイルス感染症に伴う中小小規模事業者向け支援の対象にNPO法人等は該当するか?

西田亮介社会学者/日本大学危機管理学部教授、東京工業大学特任教授
(写真:GYRO PHOTOGRAPHY/アフロイメージマート)

 新型コロナウイルス感染症の感染拡大を受けて、緊急事態宣言も発令された。しかし先行して1月後半頃から経済支援として、地域の経済、雇用、生活を支える中小、小規模事業者向けの様々な支援策が打ち出されてきたし、状況に応じてそれらの改善、上乗せが続いている。個人と事業者を横断して一覧できるものとしては以下の首相官邸ホームページが便利だ。なお他に各地方自治体が上乗せ支援をしていることがあるので、そちらについては各自治体のサイトなどを参照してほしい。

生活と雇用を守るための支援策 | 首相官邸ホームページ

https://www.kantei.go.jp/jp/pages/coronavirus_shien.html

 筆者はかつて支援機関の調査部門で働いていたことがある。一部報道やネットなどでは「日本の支援は諸外国と異なり、給付が少なく貸付ばかりで、しかも申告制だ」という声をよく見る。だが実際には給付と貸付は性質が異なり、それぞれに一長一短があるので、組み合わせが重要だ。申告制については現状、国が国民の口座情報も、実際の居住地も一括して把握していない以上やむを得ない面がある。また各国に目を向けても、申告制を採用する国は独仏をはじめ少なくない印象だ。

※下記、筆者インタビューにも関連した内容を説明した。

なぜ私たちは「一斉休校」を批判しながら「緊急事態宣言」を待ち望んでしまったのか

https://bunshun.jp/articles/-/37092?page=4

 本筋から外れるので、貸付の利点について細かい話は割けるが、無利子、無担保融資に加えて、既存債務の借り換え、信用保証料補助などの支援策が既に運転、設備それぞれを対象にかなり柔軟に実施されている(運転、設備各々で数千万円〜億円スケールで自治体の上乗せ支援も頻繁に目にする)。その他に平時から存在する厚労省からの雇用調整助成金(補助金)等も走っている。日本には400万者弱の中小企業等の幅広の規模、業種、業態を含む事業者があり、その多様性にとにかく迅速に対応するという観点では一律の給付よりも条件の良い貸付は現実的には適しているともいえそうだ。換言すると、400万者のニーズを満たしうる給付額を総額にしてソロバンを弾いてみると、すぐに途方もない金額になってしまうことがわかる。200万円の給付が実際、家計ではなく事業継続にどれだけ効果があるのかは事業者の規模によってかなり異なるものになるはずだ。

 緊急貸付は今回の感染症に伴う売上減少との関連を一定示すことができれば、幅広く運転資金にも充てられるため人件費や家賃等にも充てられるはずだ。雇用調整助成金やその仕組みがネットでは主に話題になっているが、規模でいうとむしろこちらのほうが具体化されている分だけ先の見通しが立つかもしれない。細かいことをいうなら、やはり中小企業支援の本丸は中小企業庁であり、中小企業基本法に基づく支援だからかもしれない。いずれにせよ、過去の震災や有事で一定の評価を受けてきた施策でもある。必要であれば、躊躇なく利用することが好ましい。

 ところでようやく本題だが、これらの一定程度規模感も含めて充実した新型コロナウイルス感染症の中小小規模事業者向け支援の対象にNPO法人(特定非営利活動法人)等は該当するのだろうか。これが筆者の素朴な疑問である。既知のとおり、日本では阪神淡路大震災後のボランティアの活躍やそれ以前の長い要望を受ける形で、90年代末に特定非営利活動促進法が整備され、2000年代にNPOブームとも呼ぶべき創業ラッシュが生じ、社会起業家や社会的企業がひとつのトレンドになった。現在では2019年2月現在51,358万の法人が認証を受けている。また保育園や介護関連施設、若年無業者支援、地域環境整備、国際活動をはじめ実に多様な領域と分野で社会サービスの現場を担っている。また自治体や企業との連携も進み、社会生活に欠かせない存在となり、さらに一定数の雇用を担う存在にもなっている。

 そのような状況を受け、また東日本大震災の復興現場等での活躍もあり、平時においては少なくない中小企業支援施策において、一定の基準を満たすNPO法人も「中小企業等」と見なされ、資金の貸付含めてかなりの支援対象となってきた。言うまでもなく、NPOは定義上、非営利事業を行うだけに、事業的性質が営利企業より弱く、また運転資金はじめ財務体質が脆弱な事業者も少なくない印象だ。筆者はかつてNPOや関連政策の研究をしていたこともあって、NPO経営者や関係者に知人も少なくないが、対人サービスに近い事業を展開する法人も多く、それらが軒並みストップして収支が相当厳しい状況にある法人も少なくないと聞く。ところが管見の限り、こうした問題はあまり広く知られておらず、対策も十分にはなされていない印象を受ける。

 そこで生じた素朴な疑問が冒頭の「新型コロナウイルス感染症に伴う中小小規模事業者向け支援の対象にNPO法人等は該当するのか?」というものだ。支援機関や幾つかの自治体のホームページを見ても、これまで「中小企業等」の「等」にNPO法人等も含まれるとみなして対応してきたからかいまいちはっきりとしなかった。そこで知人の国会議員や地方議員諸氏に聞いてみた。即座には「わからない」と回答する人も少なくなかったが、そこは流石で自治体や省庁等に問い合わせて、多くの政治家が後にわかったことを共有してくれた。

※港区区議会議員の横尾俊成氏もその一人で、わかったことをFacebookにまとめて投稿されていた。

 総合して結論からというと、NPO法人等が該当するか否かは多くは明記はされておらず運用レベルで対応されているようだ。例えば日本政策金融公庫や東京都の支援の場合は概ねNPO法人も対象として運用され、給付についても検討されているようだ。しかし具体的に明記することは避けるが、自治体によっては国の判断待ち、財政上の制約や相談件数が少ないことから今の所検討していないところもあり、実際に支援を受けられるかどうかは各自治体の運用方針に拠るようだ。前述のように、この間の自治体や企業の連携促進(に伴う自治体業務の縮小とアウトソーシング)等が行われたこともあって、社会サービスの現場と一定の雇用をNPO法人等も担っているのが現実だ。これまでの経緯を踏まえても、従来同様、中小企業等向け支援は給付、貸付ともに、原則としてNPO法人等も対象とすべきではないか。国会議員、地方議員問わず、政治家の皆さんもぜひ地元のNPO業界の状況と要望にも耳を傾け、地元の自治体に問い合わせ、運用ベースになっているとするならNPO法人等も対象とすべきことを指摘、周知していただいても良いと思うのだが、どうだろうか。

※ この間、多くの国会議員、地方議員の皆さんにご質問、ご相談させていただきました。総じて、皆さんが快く対応してくださったことを付記しつつ、個別の状況もありますので、個々にお名前を挙げることはしませんがこのご時世とご多忙中のご対応に伏して感謝申し上げます。

※※ 以下、追記

公明党の上田勇氏から、NPOや社福等も含まれるとのご回答をいただきました。公明党から政府に確認したとのことです。

 そうはいってもやはり分かりにくいことには変わりはないので、サイトの本文中に書けないとしてもQ&A等に注記するとかなりユーザーフレンドリーな印象です。

※※※ さらに追記。中小企業庁から持続化給付金(政策化される国の給付措置の名称)の案内が出ています。NPO法人や社会福祉法人も対象となることが明記されています。ただし注意すべきは、財源が補正予算のため、詳細、至急開始の本格化は予算成立を待つ必要があり、報道によれば月内与野党合意見込みとのことなので、本格的に走り出すのは来月以後のことでしょう。事業規模にもよりますが、やはり100万円〜200万円という金額は多くの事業者にとっては一時金の域を出ないはずなので、事業継続のためにはやはり上述のように、超好条件の貸付による支援を利用するのが良いのではないでしょうか。内閣官房の感染症対策の特設サイトも見やすいものになってきました(以下のチラシ画像は経産省の感染症対策サイトからの引用です。最新版、最新情報はそちらをご覧ください)。

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社会学者/日本大学危機管理学部教授、東京工業大学特任教授

博士(政策・メディア)。専門は社会学。慶應義塾大学総合政策学部卒業。同大学院政策・メディア研究科修士課程修了。同後期博士課程単位取得退学。慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科助教(有期・研究奨励Ⅱ)、独立行政法人中小企業基盤整備機構経営支援情報センターリサーチャー、立命館大学大学院特別招聘准教授、東京工業大学准教授等を経て2024年日本大学に着任。『メディアと自民党』『情報武装する政治』『コロナ危機の社会学』『ネット選挙』『無業社会』(工藤啓氏と共著)など著書多数。省庁、地方自治体、業界団体等で広報関係の有識者会議等を構成。偽情報対策や放送政策も詳しい。10年以上各種コメンテーターを務める。

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