触法少年の社会復帰支援と「被害者軽視」 ーー新潟少年学院スタディツアーに参加して

(写真:ロイター/アフロ)

11月21日に、若年無業者の社会復帰事業を手がける認定NPO法人育て上げネットのスタディツアーに参加し新潟少年学院を訪問させていただいた。新潟少年学院は昭和24年(1949年)に設置され、2004年の中越地震の被災を経て、2012年に現在の施設にできた社会適応過程の少年院としての認定を受け、また2016年から高等学校卒業程度認定試験コースが設置された少年院である。

改定された少年院法が「社会に開かれた施設運営の推進」を掲げることから、また「少年院及び少年鑑別所の参観に関する訓令(平成27年法務省矯総訓第3号大臣訓令)」なども少年院や鑑別所といった少年施設の参観(視察)を奨励しており、各少年院では施設見学会も定期的に実施されている。本スタディツアーも少年院を社会に開く取り組みのひとつだ。

筆者も従来から当該問題に関心をもち、育て上げネットとまた関係各位の皆さんの協力のもと複数の少年院(茨城農芸学院、多摩少年院、赤城少年院)や鑑別所(八王子少年鑑別所)、東京矯正管区等の視察をさせていただいてきた。少年施設のスタディツアーは収容者のプライバシーや施設の性格上の理由から、比較的フォーマットが定まっている。施設概要の簡潔なレクチャーを受け、施設内を見学し、その後、職員の皆さんとの質疑応答の機会をいただく。火器、カメラ、携帯電話等は収容区域には持ち込むことができないし、たとえば施設構造等について知り得たことを口外したり記述することは認められていない(それゆえここでも書けない)。また収容されている少年たちとの直接の交流も現状は難しいようだ。しかし収容少年たちの生活エリアを通過する際には、その様子を垣間見ることはできる。そのとき、同時に我々もまた「(また)見学者が来た」として少年たちのいささか冷ややかなまなざしを受けることになる。

新潟少年学院は少年院のなかでは新しい施設ではあるのだが、少年院の構造はどこもとても似ている。たとえばガラス部分には露骨な鉄格子こそはめられていないが、機能的に等価なかたちで必ず補強されているし、随所にセキュリティのための新旧の仕掛けが配置されている。ちなみに新潟ということもあり、旧施設の題字は田中角栄がサインしたそうで、見学ルートの目玉になっているそうだ。豪放磊落に思われる角栄だが、その字は意外と繊細だった。

少年たちと直接接触できない状況下では質疑応答がひとつの「目玉」になる。そこでは日々、文字通り24時間365日少年たちと向き合っている法務教官の皆さんをはじめ、専門職の皆さん、矯正管区の皆さんから話を伺うことができる。今回の意見交換でとても興味深かったのは、ある当局関係の方が口にされていたことである。要旨は下記の通りだ。

触法少年たちの支援や社会復帰の議論をすると必ず出てくるのが、「被害者よりも加害者を優遇するのか」という意見である。だが、仕事で少なくない被害者と向き合ってきたが、被害者からもう二度と同じ被害に遭う人がでないようにしてほしい、加害者が決して再犯しないようにしてほしいという声を聞く。少年院をはじめ加害者の社会復帰を支援するということは必ずしも加害者優遇につながるわけではなく、被害者の望みをかなえることともいえる。

重要な情報がある。法務省はしばしば「約3割の再犯者によって、約6割の犯罪が行われている」「平成25年に新たに受刑した者の約6割は、過去に受刑歴がある再入者によって占められている」「仕事に就いていない者は、仕事に就いている者と比べて再犯率が4倍と高い」として、社会復帰と就労支援の重要性を主張する(たとえば法務省平成26年12月16日犯罪対策閣僚会議決定「宣言 : 犯罪に戻らない・戻さない~立ち直りをみんなで支える明るい社会へ~」)。就労によって承認や居場所をえられること、生活を支える稼ぎをえることで再犯を防ぐことができるということのようだ。

上記のような観点のもと、触法少年や受刑者の社会復帰にあたって、近年、法務省は就労支援に注力している。事業として「コレワーク(矯正就労支援情報センター)」なども行っている。そのとき弊害になっているのが、前述の「加害者支援に力をいれるとは何事か」という根強い世論だということもしばしば耳にする。筆者もどこかにわだかまりが残っていた気もする。だが、先の「再犯防止が被害者の願いでもある」という説明は、被害者中心主義の立場から触法少年の社会復帰、社会包摂支援を擁護する論理である。説得的に感じるがどうか。

その一方で気になる点も残った。「誤った」世論の状況を所与のものとみなしているようにも思われる点だ。筆者も実際にスタディツアーに参加したり、データを知るまでは多くの誤解を持っていた。少年犯罪や矯正教育については多くの誤った認識が散見される。メディアが興味本位やあやまった認識のこと報じることも少なくない。世論形成にあたってメディアの影響力はかなり大きい。それに対して、施設見学や現在の政策広報体制は少し貧弱にも思える。たとえばこのネット中心の時代において個別の少年院のホームページは設置されていないように見える。さしあたり誰がやるのかといった人員や業務上の課題を棚上げして言えば、概況や特徴、事業、催し物等が紹介されてもよいのではないか。それだけではなく、法務省や矯正局で世論の誤解を払拭できるような政策広報や訴求のための事業が行われてもよいのではないか。法務省の平成30年度予算を見る限り、そうした事業はあまり見当たらないようだ。矯正の過程を社会に開くことが重要だが、誤解だらけの社会の側をそのまま放置するのでは、その行き着く先が茨の道であることは容易に想像される。だとすれば、社会に対する介入もまた必要ではないか。

なお少年犯罪の現状や矯正教育をめぐる基本的な誤解等については、これまでも訪問のたびに書いてきたのでそちらも参考にしてほしい。「少年犯罪と社会復帰の「誤解」と「常識」をこえて」についてはデータについての誤解や少年院送致過程等についてまとめてあり、また「少年院法第18条と第40条」には最近の少年院法の変化とその背景について簡潔に説明している。

  • 少年院法第18条と第40条(西田亮介)- Y!ニュース

https://news.yahoo.co.jp/byline/ryosukenishida/20161014-00063241/

  • 少年犯罪と社会復帰の「誤解」と「常識」をこえてーー茨城農芸学院再訪(西田亮介)- Y!ニュース

https://news.yahoo.co.jp/byline/ryosukenishida/20160720-00060185/

  • 少年院と少年犯罪について(西田亮介)- Y!ニュース

https://news.yahoo.co.jp/byline/ryosukenishida/20160229-00054904/

  • 少年院からの社会復帰を阻む見えない壁――少年院送致決定後の高校退学措置は妥当か(西田亮介)- Y!ニュース

https://news.yahoo.co.jp/byline/ryosukenishida/20170303-00068332/

少年院送致になる少年の数は年間2000人程度と規模としても決して大きくはない。だが、困難を有する家庭や犯罪集団からの切断などの観点から施設収容でしかできないこともやはり存在する、そこに特化したいというやはり現地で伺った関係者の言葉が重くのしかかる。犯罪を根絶するため、さらにあやまちを犯したものもいつまでも社会から切断したままにしておくことはできないことからしても、どのように再び社会に受け入れるのかという議論を放置することはできない。育て上げネットによるスタディツアーはいつもそのことを想起させてくれる。育て上げネット、それから新潟少年学院等関係の皆さんに記して感謝します。

※追記

上記のようなエントリを書いたそばから、下記のような報道が。改めて社会に対する介入も必要に思える。

罪を犯した人の更生「協力したいと思わない」増加 内閣府調査 | NHKニュース

https://www3.nhk.or.jp/news/html/20181122/k10011720141000.html