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ネット選挙の解禁と、2013年4月18日の朝日新聞デジタル #ネット選挙 参議院審議実況まとめ

西田亮介社会学者/日本大学危機管理学部教授、東京工業大学特任教授

2013年4月18日の朝日新聞デジタル(@asahicom)さんによる #ネット選挙 参議院審議実況まとめ

http://togetter.com/li/490058

今日の参議院本会議で公職選挙法の改正案が成立した。

日本でもネット選挙運動が可能に--改正公選法が成立し7月参院選から- CNET Japan

http://japan.cnet.com/news/business/35031061/

朝日新聞デジタルの実況を見ていても、終止「そもそも、なぜネット選挙を解禁するのか」という議論は曖昧なままに進んできた。それが見えないこともあって、どう考えても合理的理由に乏しい、電子メールには制限がかかり、電子メールに近い機能を持つSNSのようなサービスも含むウェブサービスについては全面的な解禁が認められるというよくわからない「解禁」になった(バナー広告には制限あり)。

もはや後付にはなるけれど、なぜネット選挙の解禁を進めるのか、ここは「時代の趨勢」などという曖昧なものではなく、きっちりと詰める必要があるのではないか。

実際、下記のように、「ネット選挙で選挙資金のコストが下がる」などと、事前にネット系識者(?)などから声高に言われていたのとは対極の報道がなされている。

ネット選挙解禁法案がきょうにも成立、関連株に買い(サーチナ)- ニュース・コラム-Yahoo!ファイナンス

http://news.finance.yahoo.co.jp/detail/20130419-09393017-scnf-stocks

投票率との関係も先行研究や他国の事例を見るかぎり、明確ではない。なぜネット選挙解禁を進めるのか、という議論をつめておかないと、「期待はずれ」が起きたときに梯子を外されかねない。

では、なぜネット選挙を解禁する必要があるのだろうか。個人的には、政治の透明化、政治(家)と国民の距離を近づけること、政治家が(よりクリエイティブな)政策立案競争を行う環境醸成、の3点ではないかと考えている。その手段の、あくまでひとつとしてネット選挙の解禁も必要ではないか、と。並行して既存メディアのあり方や、戸別訪問、電話の位置づけなども見直す必要があるだろう。場合によっては、公職選挙法の目的自体も見直す必要があるようにも思われる。政治の根幹でもある選挙制度の設計思想とでもいえばいいのだろうか、最近では憲法の改正についての議論がいろいろと言及される機会が増えたが、むしろ現実の政治への影響力という意味ではこちらのほうが重要かもしれない。

そして、いろいろ言われているけれど、ネット選挙解禁は出発点というのが筆者の認識。国民が政治にもっとも関心をもつと思われる選挙運動期間にITの利活用を認めると、政治家は適応すべく、中長期でITへの理解を改善するだろう。そうすると、電子政府や電子自治体、通信と放送のあり方等々いろいろなところに波及する可能性を秘めている。

このようにネット選挙は、さまざまな諸問題のセンターピンと考えられる。今回の改正では更なる公職選挙法の改正についても先鞭が付けられている。今後の動向に注視したい。

...最後にちょっとだけ、告知。5月末に、日本のネット選挙についての書籍が出ます。これまでの議論、海外の議論、政治学やメディア論から見てどう考えられるのか、といった内容。よかったら手にとっていただければ。さらにその後・・・

ネット選挙については以下のゲンロンスクールの講義の初回と3回目でも取り扱う予定です。

http://peatix.com/event/11443?utm_source=dlvr.it&utm_medium=twitter

社会学者/日本大学危機管理学部教授、東京工業大学特任教授

博士(政策・メディア)。専門は社会学。慶應義塾大学総合政策学部卒業。同大学院政策・メディア研究科修士課程修了。同後期博士課程単位取得退学。慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科助教(有期・研究奨励Ⅱ)、独立行政法人中小企業基盤整備機構経営支援情報センターリサーチャー、立命館大学大学院特別招聘准教授、東京工業大学准教授等を経て2024年日本大学に着任。『メディアと自民党』『情報武装する政治』『コロナ危機の社会学』『ネット選挙』『無業社会』(工藤啓氏と共著)など著書多数。省庁、地方自治体、業界団体等で広報関係の有識者会議等を構成。偽情報対策や放送政策も詳しい。10年以上各種コメンテーターを務める。

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