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新型コロナ対策30万円給付金。もらえる対象は?制度の問題点とは?

増澤陸チーフ図解オフィサー

新型コロナウイルスの被害への緊急経済対策として、政府が「条件付きでの現金30万円給付」を打ち出しました。

生活支援臨時給付金(仮称)(総務省)

困窮している国民に現金を給付することは生活の助けになり、経済を下支えする政策であるように見えます。

しかし、この政策は本当に適切なものでしょうか?

その点について、元大蔵省官僚で経済学者の小黒一正 法政大学教授から、問題点を指摘する論考がアップされています。

新型コロナウイルスに対する一考察(2)

問題点がコンパクトにまとめてありますので、こちらを図解したいと思います。(小黒教授了承済み)

※原案には様々な意見が出されており、まだ確定していない部分もあります。世帯主以外の収入減少なども配慮 30万円給付の対象拡大へ(毎日新聞)といった動きも報じられています。

この記事の内容も、4/14時点で確認できる内容に基づいたものとなります。

給付の条件

今回の給付金を貰える条件となる世帯はこちらのとおりです。下記の条件1または条件2のいずれかを満たすと、給付の対象となります。

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非常にわかりにくいので、整理すると下記のような感じです。

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条件1の場合はほぼ貧困世帯、条件2に当てはまる場合は月収が半減しており収入にかなりの打撃を受けている世帯と言うことになります。ここに絞って給付することのどこが問題なのでしょうか?

「世帯ごと給付」の問題

小黒教授は給付が世帯ごとになっていることが問題といいます。

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まず、世帯ごとなので、同じ世帯年収でも人数が少ないほうが、一人あたりの給付額はもちろん大きくなります。

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年収が400万円から220万円になった場合、4人家族なら条件1を満たしますので給付金を受け取れますが、3人家族の場合、条件1も2も満たさないので、原則として給付金は受け取れません。このように年収の減り方が同じであっても、子どもの人数によって違いが発生します。

さらに、世帯人数が同じ場合であっても、違いが生じる場合があります。

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左の家庭は年収が600万から300万になりましたので条件2に当てはまるので給付の対象ですが、右の世帯は減り方が僅かに足りず給付の対象にはなりません。「世帯の人数」も「減少後の年収」も同じなのに、違いが生じてしまうことになります。

収入変動が条件になることの問題点

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今回、年金生活者や生活保護を受けている方は収入が減るわけではないので給付の対象になりません。一方で、年金の金額が低く、そのために労働して足りない生活費を補っている人は、収入の減り幅によっては給付の対象になります。

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失業手当に関して申請タイミングによっては6月までの収入が低くなり、給付金の対象になる可能性があります。申請タイミングを意図的に遅らせることで給付金がもらえるなら、失業手当を申請するのを遅らせる人が出てきそうです。

賃金操作の可能性

さらに、小黒教授は給付金を受け取るために不正な賃金操作が行われる可能性も指摘されています。

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今回「2020年2月から6月までの間に1月でも半額以下になった場合、その月を年間ベースに引き直す」となっています。このため、雇用する事業者は、2020年6月の給与のみ意図的に大幅に減らすことで、従業員を給付金の対象とすることが出来ます。7月以降元通りにすれば、給付金と差し引きでトータルの収入が増えます。このような意図的な操作が行われないとも限りません。

どういった給付方法が望ましいか?

これらの問題点からいって、財政再建は遠のくものの、一律の給付のほうがマシである、と小黒教授は言います。

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財源はどうするか?ですが、東日本大震災の時と同様の「復興債」を発行すればいいのではないかという提案です。

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東日本大震災のときは14.3兆円の復興債を発行し、その後の増税でそれを返済しています。

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仮に、ひとり10万円を配るなら、必要な財源は13兆円。東日本大震災の復興債と同規模で、決して不可能な数字では有りません。

「どのように一人あたり10万円配るか?」その方法についても、小黒教授の論考の最後に書かれていますので、ご興味のある方はぜひご覧ください。

まとめ

こういった批判をしているのは小黒教授に限りません。例えば、野口 悠紀雄 : 早稲田大学ビジネス・ファイナンス研究センター顧問も東洋経済のインタビューで問題点を指摘されています。

「条件付き現金給付」の筋が恐ろしく悪い理由

しかし、実は、この現金給付はもうほぼ決まってしまっており、まだ予算も通過していないのに、実施に向けて動いています。

識者の方が警鐘を鳴らしているのにどんどん進められているのが本当に悔しく、残念でなりません。条件見直しが検討されているという報道もありますので、少しでも良い形となることを期待したいと思います。

私自身、この配布方法には問題が多いと思います。一旦、成人全員なり、国民全員に配り、来年の所得税で調整する(雑収入扱いとして所得税を課税)する方法が最もシンプルだと思います。

収入減少も問題ですし、自粛でお金が回っていないことも問題です。この状況が1ヶ月ぐらいで終わればいいですが、あと半年、業界によっては1年続くところもあると思います。10万円〜30万円の給付であったとして、配布が1回きりでは半年、1年の需要の下支えになるとは思えません。政府は何度も何度も配布するつもりなのでしょうか?それよりは、消費税を減税するなどしたほうがいいのではないか?と私自身は考えます。

現金給付とともに「休業を要請するなら補償をセット」という人も多いです。しかし、そのお金はお金持ちのお殿様が配ってくれるわけではなく、私達が将来支払うものです。私達が東日本大震災の復興のお金を未だに払っているのに気づいてましたか?その行き先を本当に監視できていましたか?

給付や補償はあるべきですが、矛盾のない形、シンプルな形を求めるべきだと私は思います。

4月16日追記

政府は方針を替え、全員に一律で10万円を配布する方向で調整に入ったようです。

首相が補正予算案の組み替え指示 新型コロナ、10万円一律給付へ

[https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20200416-00000039-mai-pol ここから本文です

首相、補正予算案組み替えへ 現金10万円一律給付 「30万円」は取りやめ方針]

※この記事は筆者の個人ブログより転載したものです。画像はすべて筆者作成。

チーフ図解オフィサー

東京都在住のブロガー・ITコンサル。経済・経営の話題を中心に図解でわかりやすく解説することに定評がある。ブログ『それ、僕が図解します。』は、個人運営ながら、時には月間訪問者数20万人を超える人気ブログとなっている。世の中の分かりにくいことや納得の行かないことを少しでも減らすことを目標としている。図解を始めたのは約20年前から。仕事に必要な画面遷移図を描き続けているうちに、何でも図で説明できるようになった。得意としているのは、経済・経営、不動産、税金、終活・相続など。著書:『デジタルコンテンツ白書』編集委員(2007−2014)等 京都大学農学部卒。宅地建物取引士。相続診断士。

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