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吉本の芸人は、なぜ公共の場で社長を批判するのか?

増澤陸チーフ図解オフィサー

去る7月22日、吉本興業の所属芸人が反社会的勢力のパーティーに出席し金品をもらっていた問題に関連して、同社の代表取締役である岡本社長が記者会見を開きました。その内容について各方面から批判があがっていますが、なかでも吉本興業の所属芸人たちがテレビ番組や取材、あるいはSNSといった公共の場で批判をするという事態になっています。

一般的に、所属芸人は所属事務所と密接な関係にあり、公共の場で経営者を批判するというのはかなり異常なことであり、違和感を感じている人も多いのではないでしょうか?自分たちの所属事務所を批判する、ということは、結局、そういう事務所に所属していて何も変えられていない自分の無力さを示すことになってしまっています。

身内を批判するのは難しいです。公共の場で身内を批判することに、いったいどういうケースがあるのか、考えてみました。

普通の会社の場合

普通の会社で、一般社員が経営に疑問を持ったときにはこのようなルートを通るのが普通です。

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一般社員は直上の上司に相談をし、その上司が自分で判断できない場合、さらにエスカレーションする。というルートです。このルートにおいてはSNSが使われることはもちろんありません。使われることがあるとしたら、匿名での告発ツイート、など特殊な事例になると思います。

しかし、吉本興業の場合、所属芸人は社員ではありません。また、一般企業での社会経験のないタレントさんも多く、こういった発想がそもそもない可能性もあります。

下請け事業者の場合

芸人さんを個人事業主と考えると、下請け事業者と見ることも可能です。その場合、こういったルートになります。

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下請事業者が発注元を批判する場合、やはり最初は担当やその上司、あるいは経営者に直接指摘をすることになるでしょう。もちろんここでもSNSは出てきません。

ただし、批判の内容が法令違反であれば、しかるべき機関への告発ということになるでしょう。また、場合によっては身分を隠して、匿名アカウントとしてツイッターなどで攻撃をする可能性はあります。しかし、今回、芸人さんは本人のアカウントで批判しており、それと同じではなさそうです。

競合批判の場合

一般の方で、SNSを通じて批判をするのは、競合企業の批判や、自分とは無関係だけど、悪事をしている企業の批判ということになるかと思います。

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この場合、所属している組織が異なりますので、ツイッターなどのSNSを使っての批判が主になると思います。

SNSでの批判は多くがこの形ではないかと思います。競合または所属とは無関係、という位置づけです。

政治批判の場合

政治の場合も、競合批判と同じく、別の組織にいるのでSNSを使っての批判となります。

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一方、メディアが批判するときには自分たちの媒体を使うのが普通なので、SNSは使われないでしょう。経営者の批判だけではなく、野球監督が批判されるケースなどもこの場合に相当します。

ゲーム運営批判

ゲームのユーザーがゲームの運営を痛烈に批判しているのをSNSではよく見かけます。

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これは、彼らに「運営は自分たちの課金で飯を食ってる」という意識があるからだと思います。

芸能事務所批判

さて、今回の芸人による所属事務所の批判は図にするとこのようになります。

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芸人さんにとってのお客さんは劇場に足を運んでくれるお客様であったり、テレビ局ということになります。芸能事務所はもちろん、じぶんたちが成長するための機会を与えてくれたりマネジメント業務などを通じて、自分たちが芸に集中できる環境を提供してくれています。

一方で、彼らに出演の機会とギャラを提供してくれるのはあくまでテレビ局であって、芸能事務所ではありません。稼いでいる芸人から見ると、芸能事務所は「自分たちの課金で食ってるゲーム運営元」に近いものに見えてきているはずです。

身内を批判することについて

身内の批判を公共の場ですることについては抵抗があることがほとんどかもしれません。また、それを聞かされる側にとってもあまりきもちのいいものはではありません。基本的に身内の問題は身内で処理をするか、もし違法や不正行為がある場合は然るべき機関に相談して、表沙汰にして解決するようなことではないと思います。

それをわかっていてもなお、公共の場で批判をする、というのは、変わってほしいという気持ちよりも、両者の間に埋められない深い溝ができてしまっているのではないか?と推測しています。

本来の反社会的勢力の話題から、どんどん「身内の揉め事」にシフトしていっているこの問題ですが、はやく決着をつけて、また我々を腹の底から笑わせてほしいものです。

チーフ図解オフィサー

東京都在住のブロガー・ITコンサル。経済・経営の話題を中心に図解でわかりやすく解説することに定評がある。ブログ『それ、僕が図解します。』は、個人運営ながら、時には月間訪問者数20万人を超える人気ブログとなっている。世の中の分かりにくいことや納得の行かないことを少しでも減らすことを目標としている。図解を始めたのは約20年前から。仕事に必要な画面遷移図を描き続けているうちに、何でも図で説明できるようになった。得意としているのは、経済・経営、不動産、税金、終活・相続など。著書:『デジタルコンテンツ白書』編集委員(2007−2014)等 京都大学農学部卒。宅地建物取引士。相続診断士。

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