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北朝鮮の巡航ミサイル発射を韓国は1日遅れて追認! 韓国の探知能力に「?」

辺真一ジャーナリスト・コリア・レポート編集長
戦略巡航ミサイル「ファサル―1ラー3」型(朝鮮中央通信)

 韓国国防部はどうやら北朝鮮の軍事偵察衛星発射動向にしか関心が向けられてないようだが、北朝鮮は昨日、戦略巡航ミサイル「ファサル(矢)ー1ラ3ー3」型の超大型戦闘部の威力実験と新型地対空ミサイル「ピョルチ(流星)ー1ー2」型の試射を行っていた。 

 韓国合同参謀本部の発表ではなく、今朝の「朝鮮中央通信」の報道でわかった。

新型地対空ミサイル「ピョルチ(流星)ー1ー2」型(朝鮮中央通信)
新型地対空ミサイル「ピョルチ(流星)ー1ー2」型(朝鮮中央通信)

 このことについて今朝の韓国の「聯合通信」は「軍は対北制裁決議違反である弾道ミサイルとは異なり、巡航ミサイルについては毎回公示していない」と伝えていた。

 ところが、合同参謀本部は北朝鮮の報道からしばらくして「我が軍は昨日(19日)午後3時30分頃、北側西海(黄海)海上で発射された巡航ミサイルと地対空ミサイル数発を捕捉し、監視、追跡しており、細部については現在分析中である」との談話を出していた。 

 韓国メディアは合同参謀本部が発射と同時に公示しないのは公表後の北朝鮮による欺瞞戦術報道を警戒しての措置と伝えていた。 

 北朝鮮は2月2日にも同様の実験と試射を行っていた。この時は、韓国合同参謀本部は「北韓(北朝鮮)が午前11時頃、北側の西海海上に向け発射した巡航ミサイルを数発捕捉した」と発表していた。

 今年に入って、北朝鮮は巡航ミサイルを1月24日、1月28日、1月30日、2月2日、2月14日と、延べ5回発射しているが、合同参謀本部はいずれも公表し、発射された時間まで特定していた。しかし、今回に限っては、発射と同時の発表はなかった。

 日本の場合は弾道ミサイルに限っては短距離であれ、なんであれ国連安保理の制裁決議違反に該当することから発射と同時に発表し、国民に知らせているが、巡航ミサイルなどそれ以外はこれまでに一度も公示していない。極めて明白に区分けしている。

 しかし、韓国の場合はどういう訳か、その点は実にいい加減だ。

 前述したように1月から2月までの計5回について合同参謀本部は当日中に「午前7時頃」(1月24日)、「午前8時頃」(1月28日)、「午前7時頃」(1月30日)、「午前11時頃」(2月2日)、「午前9時頃」(2月14日)に発射されたと発表していたが、いずれも午前中の発射であった。昨日の発射は正確な時間帯は不明だが、「朝鮮中央通信」の発表では午後に発射されていた。

 合同参謀本部が巡航ミサイルの発表に慎重にならざるを得ないのは確かに北朝鮮の発表と再三にわたって食い違っていることと無関係ではない。時に正確に探知できず、北朝鮮から赤っ恥をかかされるなど痛い目にもあってきた。幾つか例を挙げてみよう。

 ▲2022年1月25日午前に移動式発射台から発射された新型長距離巡航ミサイル(2発)について韓国軍は当日(25日)のブリーフィングで発射時間だけは「午前8時から9時の間」と推定したものの発射地点と飛行距離については「東海(日本海)ではなく内陸で相当部分飛行したようだ」と説明しただけで発射地点も飛行距離も高度も特定できなかった。これに対して北朝鮮は発射から3日後に韓国の情報能力を嘲笑うかのように「2時間35分17秒を飛行し、1800km先の東海上の目標島(卵島)に命中した」と発表していた。

 ▲2022年8月17日午前に発射された巡航ミサイル(2発)について合同参謀本部は「平安南道の温泉から発射された」と発表したが、金正恩(キム・ジョンウン)総書記の妹、金与正(キム・ヨジョン)副部長は翌日(18日)、「昨日の我々の兵器試射地点は韓国当局が慌てふためき軽々しく発表した(平安南道)温泉一帯ではなく、平安南道安州市の『クムソン橋』であったことを明らかにする」と韓国の発表を揶揄していた。温泉と安州は90km離れている。

 ▲2022年11月2日午後に発射された巡航ミサイル(2発)について北朝鮮は「590km先の(韓国南東部の)蔚山沖の公海上に着弾した」と発表したが、合同参謀本部は「発射されていない」と反論していた。巡航ミサイルは低空飛行が可能で、レーダーをかいくぐることができることから韓国軍が探知できなかったのではないかと推測されていた。

 ▲2023年2月23日未明に発射された戦略巡航ミサイル(4発)について北朝鮮は「咸鏡北道金策市から東海に向け戦略巡航ミサイルを4発発射した。4発のミサイルは東海に設定された2000kmを模擬し、楕円及び8の字型の飛行軌道に沿って1万208秒(2時間50分)~1万224秒(2時間50分)飛行し、標的に命中した」と、4発同時発射された写真を添え、伝えていた。また、初めてこの戦略巡航ミサイルを「ファサル(矢)2」と命名していた。しかし、合同参謀本部は「米韓偵察監視資産が把握したものと差がある」として、発射そのものを否定していた。4基も発射されれば、1基ぐらいは韓国の最新レーダーでキャッチできるはずなのに捕捉できなかったというのは「実際に飛ばしていないから」(国防部)というのが理由だった。当時、韓国のメディアは「北朝鮮の欺瞞戦術」と報道していた。

 ▲2023年3月12日未明に潜水艦から発射された戦略巡航ミサイル(2発)について北朝鮮が13日早朝に「昨日、東海鏡浦湾(新浦一帯)から『8.24英雄艦』から巡航ミサイルを2発発射した」と発表したのを受け、合同参謀本部は午前5時51分に「昨日,北朝鮮が新浦近くの海上の潜水艦から試験発射されたミサイルを補足」との1報を流した。

 ▲今年も1月24日午前に発射された巡航ミサイルについて合同参謀本部は昨年からテストされていた戦略巡航ミサイル「ファサル(矢)―1」もしくは「ファサル―2」と想定していたが、北朝鮮は翌日25日になって開発中の新型戦略巡航ミサイル「プルファサル(火矢)―3―31」の「初の試射だった」と写真付きで発表していた。

 巡航ミサイルは多連装ロケット(放射砲)や短距離ミサイル同様に韓国にとっては脅威である。軍事偵察衛星の発射など北朝鮮の挑発には即座に反応する韓国軍が北朝鮮の巡航ミサイルについては麻痺してしまったのか、無反応なのはどうにも気になって仕方がない。

ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

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