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米国が深刻に憂慮しているイランと北朝鮮の「ミサイル協力」

辺真一ジャーナリスト・コリア・レポート編集長
ローウハーニー大統領(当時)と会談した故金永南最高人民会議委員長(労働新聞から)

 米国務省のマシュー・ミラースポークスマンは昨日(16日)、記者会見の場で「我々はイランと北朝鮮の核・ミサイル協力を信じ難いほど憂慮している」と発言していた。

 会見に出席していた記者からイランと北朝鮮との関係を唐突に聞かれたのか、それとも質問を事前に予想していたのかは定かではないが、「信じ難い(incredibly)」という言葉を使うのは珍しい。「あなた方には信じられてないことかもしれないが、我々は非常に深刻に思っている」と言いたかったのかもしれない。

 同じ日、米国防総省のパット・ライダー報道官も「イランがイスラエル攻撃に北朝鮮の兵器を使用した可能性はあるのか」との質問を受けていた。ライダー報道官は「推測できない」と、直接的な言及は避けていたが、「北朝鮮とイランがもたらしている危機を我々は深刻に受け止めている」と答えていた。

 イランのイスラエルへの4月14日の攻撃には数百発のミサイルとドローンが使われ、イスラエルは南部の軍事基地に軽微な損害を被ったものの地中海に展開している米軍の協力も得て、「99%迎撃した」と戦果を誇示していた。

 イランが発射したミサイルは地対地ミサイル(110発)と巡航ミサイル(36発)と報道されているが、イランの国営テレビ「プレスTV」は15日に、イスラエルの攻撃に「イラン革命防衛隊が数発の極超音速ミサイルを使用し、いずれも標的に命中した」と、報道し、映像も流していた。

 「プレスTV」によると、イランが極超音速ミサイルを使用したのはこれが初めてで、「イスラエルも協力国(米国を指す)も極超音速ミサイルを迎撃できなかった」とのことだ。確かに、極超音速ミサイルが使われたならば、イスラエルが誇る防空システム「アイアンドーム」を持ってしても迎撃は困難である。

 イラン革命防衛隊は昨年11月、あらゆる防衛システムを突破できる国産初の極超音速ミサイル「ファタ」を開発し、試射に成功したと発表していた。

 この時のイランの発表によれば、イランの極超音速ミサイルはマッハ13~15で、飛行距離はイランとイスラエル間の距離(約1000km)よりも400km長い1400kmである。固体燃料を使用し、大気圏外でも軌道の変更が可能で、本当かどうかわからないが、ステルス機能もあるとされている。

 イラン革命防衛隊の発表が事実ならば、今回のイスラエル攻撃にこの「ファタ」が使われたことになる。

 極超音速ミサイルについて言うならば、イランとの関係が取り沙汰されている北朝鮮は2013年から開発に着手し、イランよりも2年早い2021年9月に試射を成功させ、「火星8号」と命名している。

 その後2022年1月5日、11日に2度実験を行い、速度もマッハ3から10まで、飛行距離も500~1000kmまで延ばしていた。北朝鮮は11日の試射では「発射されたミサイルから分離された極超音速滑空飛行戦闘部は距離600km辺りから滑空再跳躍し、初期発射方位角から目標点方位角へ240km旋回軌道を遂行し、1000kmの水域の設定標的に命中した」と伝えていた。

 さらに昨年11月には新型の多段式中長距離弾道ミサイルに搭載する大出力の固体燃料エンジンを開発し、今年1月14日には極超音速弾頭を搭載した固体燃料式の新型中距離弾道ミサイルを試射していた。ロフテッド(高角度)方式で発射されたミサイルは約1000km飛翔し、日本海上に落下していた。通常角度ならば飛行距離は4000km前後と言われている。

 過去の関係からしても、また時期的に見てもイランと北朝鮮がミサイル分野で協力していることは十分に推測がつく。

 北朝鮮はイランの14日のイスラエル攻撃については労働新聞が6面で外電を引用し、「(イランの攻撃は)イランの駐シリア大使館領事建物への空襲を含むイスラエル復興主義政権が行ってきた数多くの犯罪行為に対する対応措置である」「国際世論は理性を失い、戦争政策を狂ったように行っているイスラエル復興主義者らと彼らを積極的に庇護している米国と西側が中東情勢を戦争の火の海まで追いやっているのを憂慮している」と短く伝えているだけで、外務省スポークスマンなど政府レベルの公式対応は今のところ皆無である。

 イランのイスラム革命防衛隊のコッズ(クドゥス)部隊のカセム・ソレイマニ司令官が2020年1月3日にイラク・バグダッド国際空港近郊で米軍の無人攻撃機で殺害され、イランがその報復として1月8日にイラクにある米軍の拠点に弾道ミサイルによる攻撃を行った時は、金正恩(キム・ジョンウン)総書記はイランのライシ大統領に宛てに見舞い電を送り、連帯を表明していた。

 北朝鮮にとってイランは数少ない友好国でもあり、反米の同志でもある。

 両国は昨年、国交樹立30周年を迎えたが、1980年9月に勃発したイラン・イラク戦争で北朝鮮はイランを支持し、武器を供給した。それが原因で同年10月にサダム・フセインのイラクは北朝鮮と断交した。イランにとって北朝鮮は「イ・イ戦争」の強力な助っ人だった。

 イラン最高指導者のハメネイ師は1989年にイラン大統領として初めて訪朝し、金日成(キム・イルソン)主席と会談していたが、北朝鮮もまた、金正恩(キム・ジョンウン)政権下の2012年9月に当時No.2の金永南(キム・ヨンナム)最高人民会議常任委員長が非同盟諸国首脳会議出席のためイラン訪問し、2017年にも軍事顧問団を引率し、イランを訪問していた。

 再訪問の時は10日間滞在し、最高指導者のハメネイ師、ハサン・ロウハーニー大統領(当時)、それに保守強硬派のアリ・ラリジャニ国会議長(当時)と相次いで会談していたが、金委員長がラリジャニ議長に「ミサイル開発には誰の許可もいらない」と、イランの開発に支持と協力を表明していた。

 イランの中距離弾道ミサイル「シャハブ3」は北朝鮮の弾道ミサイル「ノドン」がベースになっていると久しく伝えられているが、金正恩総書記が2018年6月にトランプ大統領(当時)と首脳会談に応じたことで両国は一時的にギクシャクしていたが、ロイター通信は2020年9月にイランと北朝鮮がミサイル分野の級力を再開したと伝えていた。

ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

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