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憂慮される北朝鮮の巡航ミサイルへの韓国軍の探知能力

辺真一ジャーナリスト・コリア・レポート編集長
開発中の巡航ミサイル「プルファサル(火矢)ー3ー31型」(労働新聞から)

 韓国合同参謀本部は北朝鮮が今日(28日)午前8時頃、咸鏡南道新浦市近郊から巡行ミサイル数発を発射したと発表した。「細部諸元については現在精密分析中」と言っただけで、それ以上の発表はなかった。

 発射から9時間経った、午後5時現在、ミサイルが地上から発射されたのか、あるいは艦船から発射されたのか、それとも潜水艦から発射されたのか、明らかにされていない。

 新浦港には北朝鮮の潜水艦基地があることや昨年3月12日に新浦一帯から巡行ミサイルが2千トン級の潜水艦「8.24英雄艦」から発射されていること等から韓国のメディは潜水艦から発射された可能性を指摘しているが、一部では4日前に西海(黄海)に向け発射された巡航ミサイルが開発中の新型戦略巡航ミサイル「プルファサル(火矢)―3―31」の初の試射だったことから、今回は東海に向けて同じミサイルが発射された可能性も捨てきれないとの見方も出ている。

 合同参謀本部が慎重にならざるを得ないのも無理もない。これまでに何度も正確に探知できず、北朝鮮から赤っ恥をかかされるなど痛い目にあっているからだ。

 例えば、前述した24日のミサイルについても韓国軍は昨年からテストされていた戦略巡航ミサイル「ファサル(矢)―1」もしくは「ファサル―2」と想定していたが、実際は違っていた。北朝鮮は翌日の25日になって開発中の新型戦略巡航ミサイル「プルファサル(火矢)―3―31」の初の試射だったと発表し、写真まで配信していた。

 既存の「ファサル」ならば、1500kmないしは1800kmの境線距離を楕円及び8時型で2時間以上飛行し、海上に設定された地点に落下しているが、合同参謀本部は飛行距離、高度、飛行時間、さらには落下地点を明らかにしなかった。北朝鮮が情報を公開するまでは手の内を見せたくないとの理由で伏せたのか、それとも特定できなかったのは定かではない。北朝鮮もまた、飛行距離、高度、飛行時間のみならず発射地点から着弾地点まで詳細を開示しなかった。合同参謀本部は発射された巡航ミサイルは「数発」と発表したが、北朝鮮は本数についても言及しなかった。

 巡航ミサイルはどこから発射されても8字もしくは楕円軌道を形成するなど多様な方向で、それも低空飛行するため弾道ミサイルとは異なり、落下地点を補足するのは容易ではないとみられている。そうした困難さもあって、北朝鮮の巡航ミサイルに関しては韓国軍が必ずしも正確に探知できとは言い切れない面がある。直近の2年間での例を挙げると、以下の通りである。

▲2022年1月25日午前8時、移動式発射台から新型長距離巡航ミサイルが2発発射。

 韓国軍は当日(1月25日)のブリーフィングで発射時間だけは「午前8時から9時の間」と推定したものの発射地点と飛行距離については「東海ではなく内陸で相当部分飛行したようだ」と説明しただけで発射地点も飛行距離も高度も特定できなかった。北朝鮮は韓国の情報能力を嘲笑うかのように発射から3日後に「2時間35分17秒を飛行し、1800km先の東海(日本海)上の目標島(卵島)に命中した」と発表。

▲2022年8月17日午前未明巡航ミサイルが2発発射。

 韓国軍は「平安南道の温泉から発射」と発表。金正恩(キム・ジョンウン)総書記の妹、金与正(キム・ヨジョン)副部長が18日に「昨日の我々の兵器試射地点は韓国当局が慌てふためき軽々しく発表した(平安南道)温泉一帯ではなく、平安南道安州市の『クムソン橋』であったことを明らかにする」と韓国の発表を揶揄。温泉と安州は90km離れている。

▲2022年11月2日午後巡航ミサイルが2発発射

 北朝鮮は「590km先の(韓国南東部の)蔚山沖の公海上に着弾した」と発表。北朝鮮は蔚山沖に着弾させた理由については韓国軍が海上の北方限界線(NLL)北朝鮮側の公海上に空対地ミサイルを着弾させたことへの「対抗措置である」と主張したが、韓国軍は「探知しておらず、事実でない」(国防部)と真っ向否定。その根拠として▲発射されたならば軍事衛星、空中早期警報器、イージス艦レーダーなど米韓の監視、探知システムによって捕捉されたはずである▲落下したとされる「蔚山市の水域」で操業中の漁船や船舶からの目撃情報もないなどを挙げ、北朝鮮が韓国情報当局の分析を攪乱するため意図的に虚偽の情報を流したとみている。しかし、北朝鮮の発表は「咸鏡北道地域から590.5キロメートル射程の南朝鮮地域の蔚山市の前方80キロメートル付近の水域(緯度3529′51.6″、経度13019′39.6″)の公海上に着弾」と具体的であった。巡航ミサイルは低空飛行が可能で、レーダーをかいくぐることができることから韓国軍が探知できなかったのではないか。

2023年2月23日戦略巡航ミサイルが4発発射

 北朝鮮は2月24日に「23日未明に(咸鏡北道金策市から)日本海に向け戦略巡航ミサイルを4発発射した」と報道。「4発のミサイルは日本海に設定された2000kmを模擬し、楕円及び8の字型の飛行軌道に沿って1万208秒(2時間50分)~1万224秒(2時間50分)飛行し、標的に命中した」と報道。北朝鮮は4発の発射模様を写真付きで伝えていた。また、初めてこの戦略巡航ミサイルを「ファサル(矢)2」と命名していた。韓国軍は「米韓偵察監視資産が把握したものと差がある」として、発射そのものを否定。いかに海面から50~100mの低空で飛行したとしても、4基も発射されれば、1基ぐらいは韓国の最新レーダーでキャッチできるはずなのに捕捉できなかったというのは「実際に飛ばしていないから」(国防部)というのが理由。韓国のメディアは「北朝鮮の欺瞞戦術」と報道していた。

2023年3月12日潜水艦から戦略巡航ミサイルが2発発射

 北朝鮮は3月13日早朝に「昨日 東海鏡浦湾(新浦一帯)から『8.24英雄艦から巡航ミサイルを2発発射した』と発表。発射されたミサイルは海上に設定された楕円及び8字型飛行軌道に従い、2時間6分~2時間6分15秒を飛行し、1500km先の標的に命中打撃した』と報道。韓国軍は当日ではなく、朝鮮中央通信の報道を受け、午前5時51分に「昨日,新浦近くの海上の潜水艦から試験発射されたミサイルを補足した」との1報を流した。

2023年3月22日午前10時15分頃咸鏡南道・咸興一帯から巡航ミサイルが数発発射

 韓国軍は発射時間と発射地点及びミサイルの数は当てたが、飛距離と目的については把握しきれなかった。北朝鮮は3月24日早朝に「核弾頭を模擬した試験用先頭部が装着された巡航ミサイル『矢―1』2発と『矢―2』2発が発射され、日本海に設定された1500kmと1800kmの境線の距離を模擬し、楕円及び8時型飛行軌道をそれぞれ1時間25分から1時間52分飛行し、目標物に命中し、それぞれ1発が設定高度600mで空中爆発打撃方式が適用され、核爆発操縦装置と起爆装置の動作の安全性を再度確認した」と発表した。

ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

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