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昨年は北朝鮮のミサイル発射で、今年は韓国の軍事演習で1年が始まった!南北の対立は「最後まで行く」?

辺真一ジャーナリスト・コリア・レポート編集長
元旦に江原道中部戦線の砲兵射撃場で行われた米韓の実射射撃訓練(韓国陸軍配信)

 「2023年朝鮮半島10大ニュース」の5番目に「米韓VS北朝鮮の対決激化」を筆者は選んだが、今年は残念ながらさらに順位が繰り上がり、へたをすると、トップになるかもしれない。正直、このままでは軍事衝突、戦争に発展する恐れがあるからだ。

(コリア・レポートが選んだ「2023年朝鮮半島10大ニュース」)

 南北は相手のミサイルの乱射と度重なる軍事演習を自国への「挑発」とみなしている。従って、相手が挑発すればするほど南北は共に「抑止」の名の下に相手を力で圧倒するため国防、軍事力の強化に走るという悪循環が続いている。

 この「負のサイクル」の始まりは昨年の場合は年が明けた元旦に北朝鮮が日本海に向け短距離弾道ミサイルを発射したことが引き金となった。軍事挑発とみなした米韓は対抗手段として特殊部隊が1月29日、中型戦闘艇2隻を使って日本海と日本海に面した山岳地帯で合同特殊訓練を実施し、対抗した。

 以後、年末までに北朝鮮は「火星15」「火星17」「火星18」の3種類のICBM(5発)を含め延べ37回に亘って約70発のミサイルを発射し、米韓も負けじと「B-1B」や「B-52H」など戦略爆撃機を13回投入し、延べ80回軍事演習で「応酬」した。

 今年は、昨年とは逆パターンだ。北朝鮮はまだミサイルを発射していないが、米韓は新年早々から軍事演習を行っている。

 米韓連合軍は昨年12月29日から東西の最前線で前方部隊による連合戦闘射撃訓練を開始しているが、元旦の1日には陸軍第3砲兵師団傘下の白骨旅団(330人)が北朝鮮に近い江原道中部前線の砲兵射撃場で実射撃訓練を実施し、K9とK55A1自走砲150発発射していた。

 翌2日には京畿道・抱川市にある訓練所で首都機械化歩兵師団傘下の雷旅団と米第2師団傘下のストライカー旅団1個大隊に駐韓米軍の604航空支援作戦大隊も加わり、訓練が行われた。この訓練にはK1A2戦車とK200装甲車やストライカー装甲車、さらには「タンクキラー」と称されているA10攻撃機など100台が投入されていた。

 今朝の韓国陸軍の発表によると、今回の訓練は北朝鮮の挑発時に軍のスローガンである「直ちに、強力に、最後まで懲らしめる」ための米韓連合決戦態勢を確立することを目的にしていた。訓練に加わった米軍大隊長もこれも駐韓米軍のキャッチフレーズである「『今直ぐにでも戦える』(ファイトトゥナイト)姿勢を占めす良い機会となった」と訓練の感想を語っていた。

 また、海軍も昨日(3日)、イージス艦、護衛艦、誘導弾高速艇など艦船13隻と航空機3機を動員し、日本海側と黄海側と南海側の3カ所で海上機動訓練を行っていた。

 ミサイル発射など直接的な挑発ないものの米韓の軍事演習は金正恩(キム・ジョンウン)総書記が年末に開催された党中央委員会総会最終日(30日)に今後韓国を「敵国」、「交戦国」とみなし、「南朝鮮(韓国)の全領土を平定するための大事変の準備に拍車をかけ続けなければならない」と強調したことや翌31日に人民軍大連合部隊長を始めとする主要指揮官らを招集し、「もし、敵が軍事的対決を選択して火ぶたを切るならば瞬間の躊躇もなく超強力的な全ての手段を動員して殲滅的な打撃を加えて徹底的に壊滅させよ」と明言したことを「挑発」とみなしたようだ。

 また、金総書記の妹、金与正(キム・ヨジョン)党副部長が2日に発表した談話も同様に「挑発」と受けて止めているふしが見られる。

 金副部長は「大韓民国の大統領に送る新年メッセージ」という体裁を取った談話で「尹錫悦(大統領)は新年の辞で今年の上半期まで米韓拡大抑止システムを完成すると力説していたが、またもや我々に圧倒的な核戦力確保により拍車をかけなければならない当為性と正当性を付与してくれた」と皮肉り、「自分の行動、吐いた言辞がどんな結果を招くかさえ何の心配がない『勇敢な大統領』が出現したのは大韓民国としてはどうであるか知れないが、とにかく我々にはまたとない好機である」と揶揄していたが、韓国政府は「尹大統領への冒涜である」と怒りを露わにし、金談話を「武力赤化統一の意志を隠蔽し、南北関係緊張の責任を韓国に転嫁させる浅知恵に過ぎない」と反発していた。

 トランプ政権時代の2018年11月に任命され、バイデン政権下の2021年7月まで駐韓米軍司令官だったロバート・エイブラムス氏は昨年12月中旬、米シンクタンク「国際戦略研究所」(CSIS)のオンライン対談で現在の朝鮮半島の状況について「一触即発の状態だった2017年の状況に回帰している」として「誤解と誤判の可能性があり、些細なことが衝突に繋がることになりかねない」と現状を憂慮していた。

 今朝の「労働新聞」に韓国の一連の軍事演習を非難した「朝鮮中央通信」の論評が掲載されていたが、文面の見出しは「対決漢らは最も苦痛な瞬間を体感することになる」で、論評の最後も「対決漢らは新年も想像すらできない最も苦痛な瞬間を体感することになる」と意味深長な予言をして、締めくくっていた。

 薬物使用容疑を否認したにもかからず厳しい取り調べを受け、立件されたことを苦にし、昨年12月に自ら命を絶った韓国の映画俳優、李善均(イ・ソンギュン)の主演作品に「最後まで行く」という代表作があるが、この映画のタイトルのように南北関係も最悪の場合、行くところまで行くかもしれない。

(金総書記の「南北断絶」宣言で軍事衝突に向け針がまた動いた!)

ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

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