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コリア・レポートが選んだ「2023年朝鮮半島10大ニュース」

辺真一ジャーナリスト・コリア・レポート編集長
米韓首脳会談と露朝首脳会談(大統領室と労働新聞から)

 今年も朝鮮半島にとっては激動の1年だった。様々な出来事、事件が起きた。そこで南北合わせ、朝鮮半島10大ニュースを挙げてみる。

 ①日韓関係が改善

 韓国政府が1月に日韓対立の火種となっている元徴用工訴訟問題で韓国財団が日本企業の賠償金を肩代わりする解決策を提示したことでギクシャクしていた日韓関係が正常化した。尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領が3月16日に来日し、岸田首相が5月7日に答礼したことで日韓のシャトル外交も復活。1年の間に両首脳はすでに7度も顔を合わせている。日韓軍事情報包括保護協定(GSOMIA)も復活し、日米韓3か国のイージス艦によるミサイル防衛訓練も2度に亘って実施され、10月には史上初の日米韓合同航空訓練も行われた。また、半導体素材の対韓輸出規制解かれたことで経済交流も活発になり、観光客も増え、日韓関係は文在寅政権発足(2017年5月)前に戻った。

 ②金正恩総書記の訪露

 金正恩(キム・ジョンウン)総書記が9月12日に2019年4月以来、実に4年5か月ぶりにロシアを訪問した。7月にはロシアからショイグ国防相が訪朝し、北朝鮮の「戦勝70周年(朝鮮戦争休戦70周年」式典に出席するなど「金正恩訪露」のお膳立をした。金総書記はプーチン大統領と極東のアムール州のボストチヌイ宇宙基地で首脳会談を行い、政治、外交、経済、軍事などあらゆる面で両国間の関係を強化することで意見の一致を見た。これを機に北朝鮮の対露武器支援が本格化した。ロシアは砲弾など武器供与への見返りとして北朝鮮に軍事偵察衛星への技術支援のほか、食糧やエネルギー面での経済支援を確約したと伝えられているが、詳細は明らかにされていない。

 ③日米韓「キャンプデービット首脳会談」と米韓「ワシントン宣言」

 日米韓3カ国の首脳は8月18日、米大統領の別荘キャンプデービッドで初の首脳会談を行い、軍事・経済安保協力を強化することで合意した。北朝鮮や中国問題に共同で対処するだけでなく3か国の協力関係をインド太平洋地域など世界レベルに引き上げることでも合意した。これに先駆け、米韓首脳は4月26日に北朝鮮の核脅威に対応するための核協議グループ(NCG)の創設を盛り込んだ「ワシントン宣言」(4月28日)を発表していた。バイデン政権は「ワシントン宣言」で米国の核運用に対する情報を共有する核協議グループ(NCG)の設置、核有事時に企画に対する共同の接近を強化するための政府レベルの図上シミュレーションの導入、さらに核ミサイルを搭載した原子力潜水艦の常時寄港などを約束した。

 ④北朝鮮が固体燃料ICBM「火星18」発射

 北朝鮮は2021年1月の第8回党大会で打ち出した「国防発展5か年計画=兵器システム開発5か年計画」の主要課題である固体燃料による1万5千kmの射程圏内を正確に打撃できるICBM「火星18」の試射を4月と7月に2度行った上で12月18日にミサイル総局第2赤旗中隊が訓練と称して「火星18」を発射した。「火星18」は最大頂点高度6518kmまで上昇し、距離1002kmを4415(73分58秒)秒間飛行し、北海道の奥尻島の北西約250kmの日本海(EEZ外)に落下した。発射に立ち会った金総書記は「ワシントンが我々を相手に間違った決心を下す時には我々がどんな行動に迅速に準備されており、どんな選択をするかをはっきり見せた契機になった」と豪語した。

 ➄米韓VS北朝鮮の対決激化

 北朝鮮は1月1日に短距離ミサイルを発射したのを皮切りに延べ37回に亘って69発のミサイルを発射し、米韓を威嚇した。その中には「火星15」「火星17」「火星18」の3種類のICBM(5発)も含まれている。これに対して韓国は米韓合同演習も含めて延べ80回軍事演習を実施し、北朝鮮に対抗した。米韓合同軍事演習には「B-1B」や「B-52H」など戦略爆撃機が延べ13回も投入された。北朝鮮の偵察衛星発射への対抗措置として韓国が11月22日に南北軍事合意の一部効力停止を決定すると、反発した北朝鮮が軍事合意の実質的な破棄を宣言したため南北軍事合意は無効となり、5年に亘って朝鮮半島の安全を担保した安全ピンが外れてしまった。

 ⑥南北の偵察衛星競争勃発

 北朝鮮が失敗を繰り返していた軍事偵察衛星「万里鏡1号」を11月21日に3度目の発射で成功させると、韓国も約10日後の12月2日、米カリフォルニア州のバンデンバーグ宇宙軍基地から初の国産偵察衛星の打ち上げ、成功させた。衛星発射に立ち会った金総書記は「今後、早期に数個の偵察衛星を追加発射する」と宣言していたが、韓国もまた2025年までに5機保有する計画を打ち出している。南北共に2024年上半期に2機目の発射を目指しており、どちらが早く打ち上げるのか再び競争となりそうだ。なお、韓国は偵察衛星とは別に5月25日に宇宙ロケット「ヌリ号」打ち上げに成功している。

 ➆韓国最大野党代表の「司法リスク」

 韓国の最大野党「共に民主党」の李在明(イ・ジェミョン)代表は京畿道城南市長時代の柏峴洞特恵疑惑、「大庄洞土地開発疑惑」(超過利還収放棄の背任容疑)、城南FC不法後援金疑惑などが掛けられている。側近らは相次いで逮捕され、検察は李代表に対しても2月16日に背任と賄賂容疑で逮捕状を請求している。また、逮捕同意案が9月21日に国会本会議に提出され、賛成129票、反対138秒の僅差で可決されたが、野党から29票の反乱票が出た。李代表は当初「不逮捕特権放棄」を宣言していたが、いざ可決されると、前言を翻した。容疑のうち何件かは起訴され、すでに裁判が始まっており、李代表は週に2回は裁判に出頭せざるを得ない苦しい状況に置かれている。仮に有罪となれば、李代表は公民権を失い、政治活動を完全に絶たれることになる。

 ➇「金正恩の娘」後継者説急浮上

 昨年11月に表舞台に登場した「ジュエ」と呼ばれる金正恩総書記の娘が後継者として急浮上した。1年前のICBM「火星17」の発射に金総書記が立ち会わせた時はICBMの発射が次の世代、未来の世代のためであることを強調するための象徴として娘を連れ出したとみられていたが、今年はミサイルの発射にとどまらず軍事パレードや偵察衛星の発射、海軍、空軍司令部の視察などに同行させるなどすでに18回も公の行事に登場させていることや1年前の「愛するお嬢様」から「尊敬するお嬢様」に敬称が格上げしたことで「後継者ではないか」と騒がれ始め、韓国の金暎浩(キム・ヨンホ)統一部長官は6日、「ジュエが正恩の後継者になる可能性を検討する必要がある」と述べた。

 ➈韓国の「釜山万博」の夢が霧散

 日本は大阪市が2025年に国際博覧会(EXPO)を開催するが、韓国は釜山市が推進していた2030年の国際博覧会の釜山誘致に失敗した。韓国は政府と釜山市、それに経済界が一体となって2012年の「麗水(全羅南道)万博」以来、18年ぶりの万博開催を目指したが、11月28日にフランス(パリ)で開かれた博覧会国際事務局(BIE)総会での投票結果、ライバルのサウジアラビアのリヤドに敗れた。リヤドの119票に対して釜山市は29票しか獲得できなかった。見通しを誤ったことで誘致失敗の責任を問われた尹大統領は国民に向け談話を発表し「すべて私の力不足」と謝罪した。

 ➉韓国与野党分裂騒動

 年末になって韓国の与党「国民の力」と最大野党「共に民主党」で分裂騒動が起きた。「国民の力」は10月に行われたソウル江西区長補欠選挙で大敗し、その責任を取り、金起炫(キム・ギヒョン)代表が辞任し、代わって韓東勲(ハン・ドンフン)前法務長官がトップの非常対策委員会委員長に就任したが、尹大統領当選の最大の功労者である若手の李俊錫(イ・ジュンソク)前代表が離党し、「改革新党」を結成。一方、「共に民主党」も李在明代表と大統領候補の座を競った李洛淵(イ・ナギョン)元代表(元首相)も李代表と対立し、党を割って出て、来年早々にも新党を結成し、4月の国会議員選挙に臨むことにしている。

参考までに▲昨年(2022年)の朝鮮半島10大ニュースは以下の通りである。

 ① 韓国大統領選で保守野党の尹錫悦候補が当選(3月)

 ② 北朝鮮が大陸間弾道ミサイル「火星17」発射に成功(11月)

 ③ ソウル雑踏事故で158人圧死(10月)

 ④ 米韓が5年ぶりに大規模合同軍事演習を実施(8月)

 ⑤ 北朝鮮のミサイルが5年ぶりに日本列島を飛び越える(10月)

 ⑥ 日韓首脳会談が3年ぶりに開催(11月)

 ⑦ 韓国が初の国産ロケット「ヌリ」打ち上げに成功(6月)

 ⑧ 尹政権の与党が全国地方自治体選挙で圧勝(6月)

 ⑨ 北朝鮮の無人機が韓国領空を侵犯(12月)

 ⑩ 北朝鮮で新型コロナウイルスが蔓延(5月)

ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

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