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韓国人は政治、歴史ものが好き!? 44年前の軍事クーデターを扱った映画「ソウルの春」が爆発的ヒット!

辺真一ジャーナリスト・コリア・レポート編集長
「ソウルの春」のポスター(PLUSM エンターテインメント配給)

 今日(12月12日)は北朝鮮にとっては金正恩(キム・ジョンウン)総書記の叔父、張成沢(チャン・ソンテク)党部長が10年前に「反逆罪」で処刑された日でもあるが、韓国にとっては故全斗煥(チョン・ドゥファン)元大統領が首謀し、引き起こした粛軍クーデターの日である。

 日本は戦前に若手将校によるクーデター未遂はあったものの軍事クーデターが成功した例は一度もない。しかし、韓国では2度も起き、いずれも成功している。

 最初のクーデターは初代大統領の李承晩(イ・スンマン)政権が1960年4月に学生革命によって倒された約1年後の1961年5月16日、後に大統領になった当時44歳の朴正煕(パク・チョンヒ)少将(第2野戦軍副司令官)が率いる陸軍士官学校8期生を軸とする青年将校らによって引き起こされた。

 そして、2度目は実質18年間政権の座にあった朴大統領が1979年10月26日に側近の金載圭(キム・ジェギュ)KCIA(韓国中央情報部=現国家情報院)部長に暗殺された混乱の最中、当時48歳の全斗煥少将(国軍保安司令官)をリーダーとした陸士11期生を中心に約40人の若手将校らが同年12月12日に決起し、成功させている。

 偶然とは言い難いが、そうした忌まわしい日を前に今、韓国ではこの「12.12クーデター」を題材にした映画「ソウルの春」(1時間40分)が上映されている。ところが、一昔どころか、44年前の忘却の彼方にあった出来事、それも政治を扱ったお堅い映画にもかかわらず何とこれが爆発的にヒットし、公開と同時に興行成績1位を記録しているから驚きだ。

「ソウルの春」のポスター(PLUSMエンターテインメント配給)
「ソウルの春」のポスター(PLUSMエンターテインメント配給)

 観客動員数をみると、映画が11月22日に封切りされてからまだ3週間も経ってないが、12月11日午前現在、観客は700万人に達している。

 この勢いだと、1千万人を突破するのは時間の問題とされている。興行スピードとしては過去に1230万人の観客を動員した「王になった男」(2012年)、1425万人の観客を集めた「国際市場で会いましょう」(2014年)よりも早い。韓国の人口は約5150万人なので1千万人突破ということになれば国民の5人に1人はこの映画を観るため映画館に足を運んだことになる。

 この映画はクーデターが発生した日にソウルで繰り広げられた鄭昇和(チョン・スンファ)陸軍参謀総長兼戒厳司令官ら軍主流派と全斗煥国軍保安司令官ら少壮将校らとの9時間にわたる一触即発の暗闘を描いた実録映画である。

 韓国は朴大統領が暗殺された1979年10月26日から光州で大規模の民主化デモが起きた1980年5月17日までを民衆化闘争の時期に定めているが、朴大統領亡き後の民主化の流れを逆流させたのが1979年12月の粛軍クーデターであった。

 この悪名高いクーデターを首謀した国軍保安司令官役は「国際市場で会いましょう」「アシュラ」、それに日本でも上映された「工作黒金星と呼ばれた男」に主演したファン・ジョンミンが演じており、クーデターを阻止しようと抵抗した首都警備司令官の役は「私の頭の中の消しゴム」「監視者たち」のチョン・ウソンが、そしてクーデター派に逮捕された陸軍参謀総長は連続ドラマ「ミセン」で課長役を、イ・ビョンホンが主演した映画「KCIA 南山の部長たち」で朴正煕大統領役のイ・ソンミンが演じている。

 この他にも全保安司令官の同僚で、後に大統領になった同期の桜の盧泰愚(ノ・テウ)第9師団長の役に連続ドラマ「夫婦の世界」で人気を博したパク・ヘジュンなど錚々たる演技派俳優が多数出演している。

 「ソウルの春」の余波は凄まじく、この映画の思わぬ大ヒットに刺激されたのか、各テレビ局も急ぎ番組を改編し、相次いで現代史のものを再上映し、いずれも高視聴率を得ている。

 「MBC」は2005年4月から9月まで放映された連続ドラマ「第5共和国」(全斗煥政権)を12月2日から放送を開始し、「OBS」もまた12月9日から朴正煕大統領の暗殺を扱った映画「その時、その人たち」を、さらに「OTT」サービスなども「南山の部長たち」や全斗煥政権を退陣させた1987年の民主化デモ関連のコンテンツを積極的に紹介している。

 ドラマではないが、KBSのユーチューブチャンネルが流した「ソウルの春今日で500万人突破・・・映画が描写した1979年の現場は実際にどうだったのか」と題した映像は最も多い160万の照会数は記録した。国民の現代史に対する関心の高さを物語っているといえよう。

 ちなみに日本は観客動員数では「鬼滅の刃」(2020年)「千と千尋の神隠し」(2001年)「君の名は」(2016年)「もののけ姫」(1997年)「ハウルの動く城」(1997年)「崖の上のポニョ」(2008年)などアニメが上位を占めているが、韓国は朝鮮に出兵した豊臣秀吉の軍と戦った李舜臣(イ・スンシン)将軍を題材にした「海軍決戦」(2014年)、朝鮮戦争の離散家族を扱った「国際市場で会いましょう」(2014年)、日本の植民地当時時代を背景にした「暗殺」(2015年)、光州事件をテーマにした「タクシードライバー」(2018年)や朝鮮戦争映画「ブラザーフッド」(2004年)、故盧武鉉(ノ・ムヒョン)元大統領を描いた「弁護士」(2013年)など硬派の映画が好まれ、どれも1千万人以上の観客を集めている。

ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

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