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「日本は露朝共通の敵」を画策! 露朝接近で激しさを増す北朝鮮の対日批判

辺真一ジャーナリスト・コリア・レポート編集長
訪朝したラブロフ外相を平壌空港で出迎える崔善姫外相(朝鮮中央通信から)

 ロシアのラブロフ外相が18日にロシアの特別機で北朝鮮に乗り込んだ。

 朝鮮中央通信社が配信した写真を見ると、ラブロフ外相が降り立った平壌国際空港には北朝鮮のカウンターパートナ―である崔善姫(チェ・ソンヒ)外相自らが雨の中、出迎えていた。

 北朝鮮は平壌市内の宿舎に着いたラブロフ外相に政府の名で早速、歓迎宴を開いたが、歓迎演説を行った崔外相はラブロフ外相を「同志」と呼び、9月に訪露した金正恩(キム・ジョンウン)総書記とプーチン大統領の首脳会談で交わされた「歴史的な合意」を「高い水準で拡大していく」決意を表明していた。崔外相によると、今の両国の関係は「不敗の戦友関係」とのことである。

 歓迎宴ではラブロフ外相も答礼演説を行っていたが、北朝鮮を「米国と西側のいかなる圧力にも屈せず、自分の自主権と安全を徹底的に守っている真の自主独立国家である」と高く持ち上げ、北朝鮮の全ての政策を「全面的に支持する」と述べ、崔外相ら北朝鮮出席者らを大いに喜ばせていた。

 ラブロフ外相の訪朝を伝えた今朝の朝鮮中央通信には岸田文雄首相が靖国神社に供物を奉納し、一部閣僚や国会議員らが靖国神社に参拝したことを批判する論評も掲載されていた。

 見出しは「歴史の教訓を忘却して終局的破滅へ突っ走る日本」となっていたが、その内容は以下のように実に辛辣だった。

 「人類に癒せない傷をつけた戦犯国が挑発者、戦犯の霊魂を慰め、賛美するのは即ち、戦争犯罪そのものに対する称揚として露骨な戦争扇動行為であり、被害国人民に対する冒瀆、人類の良心と国際的な正義に対する挑戦である」

 「過去の犯罪に対する罪意識どころか、ひたすら敗北の仕返しにとらわれた日本は神社を通じて自国民の魂を軍国主義毒素で麻痺させ、社会全般に再侵略熱気を鼓吹して究極的には戦争馬車を稼働させようとしている」

 北朝鮮の国営通信はこうした現状認識を示したうえで、日本への警戒感を以下のように展開していた。

 「日本の軍事力膨張は収拾できない域に至っている。日本列島が文字通りに米国の侵略戦争の前哨基地、出撃基地に転落し、今や遠距離打撃能力の保有を公然と唱えて、我々と中国など周辺諸国を直接打撃する長射程ミサイルの実戦配備まで推進している

 「今になって日本は、世界を欺瞞するために飾りに使っていた『最小限の自衛力維持』だの、『専守防衛』だのという言葉さえもこれ以上口にしていない。看過できないのは日本が『大東亜共栄圏』の拡大更新版である『自由で開かれたインド太平洋構想』を持ち出して『クアッド』をはじめとする米国主導の同盟に首を突っ込み、各種の名目の海外派兵に狂奔する一方、米国、傀儡(韓国)との3角軍事共助に積極的に加担するなど朝鮮半島問題により深く介入しようと画策していることである」

 同通信は最後に「歴史の教訓を忘却した日本反動層の振る舞いを黙認するなら、朝鮮半島と地域が戦争の災難の中に巻き込まれるようになり、世界の平和と安全も重大に脅かされるようになるであろう」と、日本への警告で締めくくっていた。

 朝鮮中央通信は数日前(10月16日)も木原稔防衛相が2026年度の配備開始を目指していた国産の長射程ミサイルの実戦配備時期を「前倒しを検討している」と発言したことを「我が国と中国など周辺国を直接打撃する『敵基地攻撃能力』の保有のためである」と捉え、「危険極まりない軍事的策動を厳正に注視している」との見出しの論評を掲載していた。

 北朝鮮の対日批判は年中行事のようなもので慢性化しているが、ロシアのショイグ国防相の訪朝(7月25-27日)と金総書記の訪露(9月12-17日)以降は否が応でも国防、安全保障関連は気にならざるを得ない。

 調べてみると、8月1日は外務省のホームページに「金雪花」と名乗る日本研究所研究員による日本の防衛白書批判文が掲載されていた。

 筆者は「予想通り、日本は防衛白書で周辺の脅威にかこつけて第2次世界大戦以降、最も厳しくて複雑な安保環境、新しい危機の時代に突入と大袈裟に喧伝して、自分らの軍事大国化策動を正当化した。日本はロシアを安保上の強い憂慮に、中国をこれまでにない最大の戦略的挑戦に規定し、中国とロシアが日本列島の周辺で繰り広げる共同軍事活動を日本に対する意図的な示威活動であり、安保上の重大な憂慮であると強弁を張った」と断じていた。

 また、9月2日にも外務省のホームページに再び金雪花研究員による「日本は針路を正しく定めるべきだ」と題する文が掲載されていたが、ここでも筆者は「米国を後ろ盾にして平和国家のベールを完全に脱ぎ捨てた日本が過去に広闊なアジア大陸を併呑して世界制覇を夢見ていた『大日本帝国』を再生させようとしている」と決めつけたうえで「今、日本が長距離ミサイルの射程圏に入れようとする地域内の国々は『大東亜共栄圏』野望実現の祭壇の上に乗せて意のままにめった斬りにしていた一世紀前の虚弱な国々ではない。日本は虚しい軍費拡張で破滅の奈落へと突っ走るか、でなければ周辺諸国と善隣関係を結んで平和に共存するかという二者択一の岐路で針路を慎重に定めるべきであろう」と論じていた。

 岸田首相が5月に日朝首脳会談の早期実現のための高位級協議を呼び掛けたことに北朝鮮の朴相吉(パク・サンギル)外務次官が「会えない理由がないというのが我が政府の立場である」と反応を示し、実際に第3国で2度接触があったことから一時はこの秋に日朝ハイレベル協議が取り沙汰されていたが、露朝急接近でこれも完全に霧散してしまった。

 それどころか、日本はラブロフ外相の訪朝の結果次第では露朝による日本海での海・空合同軍事演習、さらには中国も加えた中露朝の3国軍事演習のリスクに直面するかもしれない。

(参考資料:映像で判明した「金正恩訪露」の伝えられなかった部分 1時間30分の「記録映画」を検証!)

ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

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