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どっちが先に「圧倒的な力」で相手の政権を終わらせることができる? 激しい南北首脳の脅し合い!

辺真一ジャーナリスト・コリア・レポート編集長
尹錫悦大統領と金正恩総書記(大統領室と「労働新聞」から筆者キャプチャー)

 世界広しと言えど、敵対関係にあっても交戦状態に至っていない国同士の指導者が相手に向かって「政権を終わらせる」と罵り合うのはおそらく朝鮮半島の南北の指導者だけであろう。

 韓国の尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領は昨日(26日)、ソウル空港(軍用空港)で開かれた「国軍の日」(10月1日)の記念式典で行った演説で北朝鮮に対して「我が軍は実戦的な戦闘力や確固たる対応体制に基づき、北朝鮮が挑発する場合は即時に報復する」と警告を発し、「北朝鮮が核を使用する場合、韓米同盟の圧倒的な対応を通じて北朝鮮の政権を終わらせる」と、語気を強めていた。

 北朝鮮の核とミサイルの恫喝が絶え間ないことや健軍の日に10年ぶりに韓国が誇る弾道ミサイル「玄武」や無人潜水艇、自走砲K9、小型ドローンなど46種類の兵器を総動員して軍事パレードを実施したこともあって若干気が高ぶり、好戦的な演説となったのは止むを得ないであろう。

 しかし、尹大統領が北朝鮮の政権の終末について言及したのは何もこれが初めてではない。

 尹大統領は7月12日にも釜山港に入港した核弾頭搭載の米戦略原潜「ケンタッキー」に乗船した際、米韓軍事同盟を強調する演説の中で「米韓は核資産(核兵器)と非核資産(在来式兵器)を結合した核作戦の共同企画と実行を議論し、朝鮮半島周辺に米国の戦略資産配置の可視性を高めることにした。こうしたことを通じて北朝鮮が核挑発を夢見ないよう、また万一挑発すれば、政権の終末に繋がることを警告する」と語っていた。

 尹大統領はそれまでは「核兵器の使用を企てるならば北朝鮮は韓米同盟と我が軍の圧倒的な対応に直面することになるであろう」(2022年10月1日の「国軍の日」の演説で)とか、「北朝鮮のいかなる挑発をも確実に懲らしめよう」(2022年12月28日大統領室で参謀らとの会議で)とか、比較的防戦的な発言に留めていた。おそらく、今年4月にワシントンで行われた米韓首脳会談後の記者会見でバイデン大統領が「米国や同盟に対する北朝鮮の核攻撃は容認できない。北朝鮮がそのような行動をすれば政権の終焉を迎えるだろう」と発言したことに触発されたのかもしれない。

 一方の北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)総書記と言えば、尹大統領よりも1年も早く「韓国の政権の終末」について言及していた。

 金総書記は昨年7月27日の戦勝記念日(休戦協定記念日)での演説で「南朝鮮(韓国)の政権と軍部のごろつきが我々との軍事的対決を企み、ある種の特定の軍事的手段や方法に頼って先制的に我々の軍事力の一部分を無力化し、破壊することができると思うなら、とんでもない!そのような危険な企図は即刻強力な力によって膺懲されるであろうし、尹錫悦政権と彼の軍隊は全滅するであろう」と言い放っていた。

 また、一般的には知られていないが、先月ロケット砲弾生産工場など主な軍需工場を視察(11-12日)した際には「圧倒的な軍事力と確固たる準備態勢を徹底的に整えることで、敵があえて武力を使用する考えもできないようにし、もしかかってくるなら必ず壊滅させなければならない」と、同行した軍首脳らに檄を飛ばしていた。

 北朝鮮はバイデン大統領が「政権の終焉」という言葉を使った時は金総書記の実妹、金与正(キム・ヨジョン)党副部長が直ちに談話(4月28日)を出して「敵国の統帥権者が、全世界が見守る中で『政権の終焉』という表現を公然と直接使ったことは座視できない」とか「容易に見逃せないあまりにも途方もない後の暴風を覚悟すべき修辞学的威嚇である」と反発し、また、尹大統領の米国の戦略原潜「ケンタッキー」での「政権の終末」発言では強純男(カン・スンナム)国防相が「我が国家の『政権終焉』を口に乗せる米国と『大韓民国』の軍部ごろつき集団に今一度厳重に警告する。我が国に対する軍事力使用は米国と『大韓民国』にとって自分の存在いかんについて二度と考える余地さえない最も悲惨な選択になるであろう」との談話(7月20日)を出して、威嚇していた。

 北朝鮮国防相の談話については韓国の国防部も負けじと、翌日対抗して「北朝鮮が米韓同盟への核攻撃に乗り出す場合には直ちに同盟の圧倒的、決定的な対応に直面することになり、北の政権は終末に陥る」との談話を出して、警告していた。

 尹大統領の国軍の日の「北朝鮮の政権を終わらせる」発言への北朝鮮の反応は27日午後3時現在、まだ出ていないが、トランプ大統領(当時)が2017年9月の国連総会での演説(18日)で「米国と同盟を防御すべき状況になれば、他の選択の余地なく北朝鮮を完全に破壊するだろう」と発言した時は金総書記は労働党中央委員会庁舎で「私は朝鮮民主主義人民共和国を代表する者として我が国家と人民の尊厳と名誉、そして私自身の全てを賭けて、我が共和国の絶滅を騒いだ米国の統帥権者の暴言に対して必ずその代価を支払わす」との前代未聞の声明を出し、グアムに照準に定めた中距離弾道ミサイル「火星12」、米本土に届く長距離弾道ミサイル「火星14」や大陸間弾道ミサイル「火星15」などを発射して見せた。

 現在、北朝鮮では26日に招集された最高人民会議(第14期第9次会議)が開催中である。

 金総書記の出欠の有無は確認されてないが、仮に金総書記が演説を行っているならば、尹大統領の発言について一言あるかもしれない。

(参考資料:米韓連合軍の北朝鮮消滅の「5015作戦計画」VS朝鮮人民軍の「韓国全領土占領作戦計画」)

ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

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