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金正恩総書記の逆鱗に触れた党No.2の金徳訓総理の運命は? 台風被害で粛清の嵐が吹くか!

辺真一ジャーナリスト・コリア・レポート編集長
猛省の中、精力的に農場を視察していた金徳訓総理(中央)(今日の朝鮮から)

 金正恩(キム・ジョンウン)総書記が久しぶりに怒り狂っていた。

 その理由は経済の司令塔である金徳訓(キム・ドククン)総理が率いる内閣の台風、水害対策が杜撰、怠慢で、その結果、穀倉地帯である平安南道の安石干拓地の水田が冠水するなど食糧生産に大きな支障を来したからである。

 朝鮮中央通信など北朝鮮の国営メディアが伝えたところによると、平安南道干拓地建設総合企業所で南浦市温泉郡石峙里にある安石干拓地の堤防に排水構造物設置工事を質的に行わなかったことから海水の影響で堤防が決壊して水稲を植えた270余ヘクタールを含む総560余ヘクタールの干拓地区域が冠水する重大な被害が発生したとのことである。

 金総書記の怒りは堤防が決壊し、水田が冠水したとの報告を受け、被災地を視察した際に爆発したものだが、怒り心頭に発するのも無理もない。

 先の台風6号による豪雨と津波で日本海に面した江原道の安辺郡梧渓里で堤防が破壊し、200余ヘクタールに及ぶ冠水被害を被った際にも金総書記は現地に乗り込み「水害被害を受けたのはこの地域の農業指導機関と党組織が国家的措置に鈍感で、いかなる対策も立てなかったからである」と叱責し、「今回の被害を契機に今一度天災防止能力を備えるための国家的な活動システムに警鐘を鳴らすべきだ」と随行していた金総理に銘じたばかりであった。

 それだけに怒りの矛先は現地の自治体責任者らだけでなく、金総理及び農業担当の副総理に向けられていた。金総書記が激昂して発したとされる呵責は以下のようなものだ。

 「数日前、安石干拓地の水田が冠水したという報告を受けて、党中央委員会の書記らを現地に派遣して直接復旧活動を指揮するようにし、軍隊まで動員させる措置を講じたが、なぜ内閣と省、中央機関の責任活動家らが現場に顔を出さなかったのか分からない。内閣総理は傍観的な態度で現場を一度や二度見て回って帰り、副総理を派遣するのにとどまり、現場に出向いた副総理という者は燃油供給員の役しかせず、主人として工事を直接指揮すべき干拓地建設局長は自分は何もする事がないので帰ると党委員会に提起し、批判を受けてからもほとんど企業所の事務室に居ながら無為徒食し、排水門工事用として国家から供給された多くの燃油を別に取っておいてひそかに隠匿する行為まで働いたというが、本当になっていない連中らだ。重大な被害を発生させた当事者として小さな呵責や責務の遂行に対するいささかの意志さえも欠けた意識的な怠慢行為である」

 「現在、内閣に事業体系が正しく樹立されておらず、中身のない活動家らが登用されて有名無実に居座って傘下単位に対する指導もまともにできずにいる。最近の数年間で金徳訓内閣の行政・経済規律が段々と乱れ、その結果、怠け者らが無責任な働きぶりで国家経済事業を全て駄目にしている」

 「今回の被害は決して、自然現象による災いではなく、徹頭徹尾怠け者らの無責任さと無規律による人災である」

 「党中央(金総書記を指す)の呼び掛けに呼吸を合わせることを知らない政治的未熟児、警鐘を警鐘に受け止めることを知らない知的障害児、人民の生命・財産の安全に顔を背ける官僚の輩、党と革命に対して担った責務に不誠実な者らを絶対に許すことができない」

 「内閣総理が関連の報告書で安石干拓地の水田面積が今年の国家穀物生産計画に含まれない当該地域の軍部隊の土地という点を強調しながら、対策らしくない対策を報告して復旧活動を軍隊にほとんど任せるようにし、その上、ふしだらに手配した活動も調べてみれば、被害状況に対する彼の弛緩性と非積極性がよく分かるが、国の経済司令部を導く総理らしくなく、人民の生活に責任を持った主人らしくない思考と行動に遺憾を禁じえない。内閣総理の無責任な活動態度と思想観点を党的に深く検討する必要がある」

 報道によると、金総書記は党中央委員会組織指導部と規律調査部、国家検閲委員会と中央検察所に対して「責任ある機関と当事者を探し出して党的、法的に厳しく問責し、厳格に処罰せよ」と命じていたので今後、粛清の嵐が吹き荒れる可能性が大だ。

 その対象は金総書記が「内閣が指令を下すことしか知らない指令部署、通報部署のようになったのは国家経済事業と経済機関に対する党政策的および党的指導を受け持った党中央委員会の責任も大きい」と述べていることから労働党の書紀、部長、副部長ら担当幹部も相当数含まれるものとみられる。

 直前の江原道安辺郡梧渓農場の視察に随行していた金徳訓総理と朱哲圭(チュ・チョルギュ)副総理兼が今回の平安南道の視察に外されていたことからすでに両人ともその地位を剥奪されたものとみられる。

 金総理は金総書記に次ぐ党序列No.2の政治局常務委員のポストにあり、朱副総理は序列21位の政治局員候補である。

 党ではこの他に序列15位の李鉄万(リ・チョルマン)政治局員候補が党農業部長の座にあることから責任を取らされるのは確実である。というのも、李農業部長はすでに江原道安辺郡梧渓農場の視察時点で随行者のメンバーから外されていたからである。また、平安南道の金頭日(キム・ドイル)党書記と南浦市の李在南(リ・ジェナム)党書記の首も危ない。

 「国家経済事業と経済機関に対する党政策的および党的指導を受け持った党中央委員会の責任が大きい」というならば、本来、党序列9位の呉秀容(オ・スヨン)政治局員(党経済部長)も対象に含まれてしかるべきだが、今年6月に着任、それも再登用されたばかりなので粛正リストからオミットされる公算が高い。

 内閣では食糧工業相の朴形烈(パク・ヒョンヨル)、国家計画委員長の朴正根(パク・チョングン)、国家建設監督相の李革権(リ・ヒョングォン)及び李在絃(リ・ジェヨン)農業次官らが検閲の対象となるかもしれない。

 金総書記は2018年以降、経済関連視察の際に経済が好転しないことに苛立ち、露骨に不満を露わにし、幹部を公然と叱責する場面がしばしば見られ、それを北朝鮮の宣伝メディアは隠しもせずに報道していた。

 それでも一昨年2月に開催した労働党第8期第2回総会で農業部門について「農業の条件が不利で国家的に営農資材を円滑に保障することが困難な今の状態を全く考慮せず、5カ年計画の初年度から穀物生産目標を主観的に高く立てたためこれまでと同様に計画の段階から官僚主義とホラを避けられなくした。その反対に電力工業部門と建設部門、軽工業部門では基本指標生産計画を年末に批判を受けない程度に低めて起案する偏向をおかした」と批判して以来、その怒りは最近では沈静化していた。それが今回一気に噴き出した感じとなったが、懸念されるのは金徳訓総理の処分、処遇である。

 60代後半から70代の幹部が政権の中枢にある北朝鮮にあってまだ61歳の金総理は地方(大安)の電気工場の支配人(2001年)から這い上がり、慈江道人民委員会委員長(2011年)、副総理(2014年)を経て3年前の2020年8月に総理に就任した経済一筋の苦労人である。

 処分が一時的な降格でとどまるのか、それとも元の工場の支配人として地方に左遷されるのか、はたまた収容所送りになるのか、注目されるところである。

 北朝鮮は金正日(キム・ジョンイル)前政権時代の1997年に農業担当の徐寛熙(ソ・グァンヒ)党書紀に農業政策の失敗と食糧危機の責任を転嫁し、「米帝国主義の指示を受け、我が国の農業を破綻させたスパイ」の罪名で処刑しただけでなく、2010年にもデノミ政策に失敗した朴南基(パク・ナムギ)党計画財政部長を「万古の逆賊」として処刑した過去があるだけに気がかりだ。

ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

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