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軍事衛星発射がカウントダウン? 党軍事会議での「戦争抑止力を攻勢的に拡大せよ」の「金正恩発言」の意味

辺真一ジャーナリスト・コリア・レポート編集長
党軍事委員会拡大会議で地図を指し、何かを指示している金正恩総書記(労働新聞から)

 北朝鮮が昨日(10日)、労働党本部庁舎で党中央軍事委員会拡大会議を開き、「戦争抑止力を攻勢的に拡大する」ことについて論議したそうだ。

 朝鮮中央通信によると、拡大会議では米韓が「『平壌占領』と『斬首作戦』という好戦的な妄言まで露骨に流し、我が共和国との全面戦争を想定した大規模合同軍事演習をヒステリックに強行している」として、それに対処する防衛力と戦争準備を一層完備するための重要な軍事的問題を討議し、「敵がいかなる手段と方式によっても対応が不可能な多様な軍事的行動方案をつくるため」の実務的問題と機構編制的な対策を話し合い、何らかの対抗手段を決定したようだ。 

 会議を仕切ったのは3月27日の核兵器研究所視察以来、約2週間ぶりに姿を現した党中央軍事委員会委員長を兼ねている金正恩(キム・ジョンウン)総書記で、11人の軍事委員を含む約30人の軍首脳らを前に「日増しに厳しさを増している朝鮮半島の安全状況をより厳格に統制管理する対策として我々の戦争抑止力を一層実用的に、攻勢的に拡大し、運営する必要がある」と強調していた。

 報道によると、金総書記は前線の攻撃作戦計画や様々な戦闘文献を見ながら、軍隊の戦争遂行能力を不断に改新、完備するための軍事的対策を引き続き実戦していく上での原則について明らかにしていた。

 北朝鮮が指している「戦争抑止力」は核とミサイルを指す。ミサイルについては昨年だけで年37回にわたって計73発を発射し、今年もすでに4月7日現在、戦略巡航ミサイルや核無人機水中攻撃艇を含めると延べ14回、計29発も発射している。金総書記はこれにさらに拍車を掛けるよう指示を下したことになる。

 党中央軍事委員会拡大会議は1か月前にも開かれたばかりである。2月にも開催されているので今年は4カ月間の間にすでに3度も開かれたことになる。この種の会議が年に2度開かれることはあっても、3度も、それも4カ月間の間に頻繁に開かれるのは極めて異例のことである。そのことは北朝鮮が現情勢を深刻に捉えていることの表れでもある。

(参考資料:米韓合同軍事演習に対抗する北朝鮮の「重大措置」は何か?)

 北朝鮮は前回の拡大会議でも「米国と南朝鮮(韓国)の戦争挑発策動が刻一刻重大な危険ラインへ突っ走っている」との認識の下、「現在の情勢に対処して国の戦争抑止力をより効果的に行使し、威力的に、攻勢的に活用するための重大な実践的措置を取ることを決定していた。

 当時、「重大措置」の中身については明らかにされてなかったが、3月12日の戦略巡航ミサイル「ファサル(矢)」の潜水艦からの発射、14日の改良型新型戦術誘導ミサイル(射程620km)の発射、16日の大陸間弾道ミサイル「火星17」の発射、19日の弾道ミサイルの上空800メートルでの爆破実験、22日の「ファサル」の4発(2発は空中爆発実験)の発射、27日の空中で爆発させた地対地戦術弾道ミサイル2発の発射、そして3月21日から4月7日にかけて3回行われた「核無人機水中攻撃艇(ヘイル=津波)」の発射実験などであった。「ヘイル」については北朝鮮は「秘密裏に作戦水域に潜航し、水中爆破で超強力な放射能津波を起こし、敵の艦船集団と主要作戦港を破壊消滅する「秘密兵器」と称していた。

 「戦争抑止力」のさらなる「攻勢的な拡大」となると、2月の軍事パレードに登場した固体燃料用の新型ICBMの発射実験、「火星17」のロフテッド(高角度)ではなく、正常角度による太平洋に向けた発射実験、軍事衛星の発射、7度目の核実験などが考えられるが、特に軍事衛星については2年前の第8回党大会で今年4月までの完成を目指していたこともあって発射する可能性が最も高い。

 金総書記は昨年3月に担当機関の国家宇宙開発局を訪れ、党大会が提示した国防力発展5大重点目標達成で「偵察衛星開発が非常に重要である」と強調していた。その理由について「軍事偵察衛星の開発と運用の目的は南朝鮮地域と日本地域、太平洋上での米帝国主義侵略軍隊とその追随勢力の反朝鮮軍事行動情報をリアルタイムで朝鮮武力に提供することにある」と述べていた。

 昨年12月には準中距離弾道ミサイル(旧型ノドン)を使って「偵察衛星開発のための重要な実験」を行っており、また、先月23日には金日成総合大学で国家宇宙開発局、国家科学技術委員会、国家科学院、化学研究機関、大学など関係者らが出席し、合同会議が開かれていた。

 さらに、国家宇宙開発局設立10周年にあたる今月1日に北朝鮮は「我々の力と技術で異なる用途の新しい実用衛星を打ち上げ、運用に着手するための準備を積極的に推し進めている」ことを明らかにしていた。

 今週末土曜の15日は建国の父・金日成(キム・イルソン)主席生誕111周年の日にあたる。失敗したものの2012年4月に北朝鮮が鳴り物入りで発射した人工衛星「光明星―3」(国際社会では長距離弾道ミサイル「テポドン」とみなしている)は生誕日3日前の12日に発射されていた。

 米軍の電子偵察機RC135V(通称リベットジョイント)が昨日(10日)、沖縄の米軍基地を飛び立ち、朝鮮半島の上空を衛星発射基地(平安北道・東倉里基地)のある西海(黄海)から東海(日本海)に向け、往復飛行していたが、もしかしたらそうした動きを察知したのかもしれない。

(参考資料:日々高まる朝鮮半島での戦争勃発の危険性 「大丈夫だ!」の神話は崩れるかも)

ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

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