Yahoo!ニュース

北朝鮮の空軍は戦前の日本の「神風特攻隊」と同じ「特攻精神」 幻の「2009年日米イージス艦攻撃作戦」

辺真一ジャーナリスト・コリア・レポート編集長
軍事パレードで行進する北朝鮮航空部隊(朝鮮中央テレビから)

 北朝鮮は一昨日(11月29日)が空軍の日だった。初代の金日成(キム・イルソン)主席が日本から独立後の1945年に創設し、今年で77年目を迎えるが、北朝鮮は金正恩(キム・ジョンウン)政権となった2012年からこの日を「空軍節」として祝っている。

 今朝の朝鮮中央放送は「敵の大規模連合空中訓練に対する不屈の対応意志と圧倒的な戦闘精神を抱いて大規模飛行総出動作戦を成功裏に断行することでチュチェ朝鮮の透徹した対敵精神と無敵必勝の気概を力強く誇示するのに貢献した空軍の指揮メンバーと飛行士たちを航空節に際して党中央委員会の本部庁舎に招き、祝典が開かれた」と伝えていた。

 これではなんのことかわかりようがないが、朝鮮半島有事の際に北朝鮮戦闘機を3日以内に壊滅させ、700か所以上の主要目標を攻撃するため2017年以来最大規模で実施された米韓合同空中訓練「ビジラント・ストーム」に対抗して北朝鮮空軍が11月4日に3時間47分にわたって各種戦闘機500機を出撃させ、軍事示威を行ったことを指している。この「総戦闘出動作戦」と称した軍事デモンストレーションに参加した5個師団の20余りの連隊内の飛行士705人が祝典に招かれ、金総書記は空軍司令官をはじめ空軍パイロットらを称え、勲章などを授与したようだ。

 韓国軍は11月4日に北朝鮮が出撃させた戦闘機は170機とみなしており、また、機種もミグ21,23,29などどれも旧式で韓国から最先鋭のFー35A,Fー15K、KFー16など140機、米国からもFー35B,EAー18電子電機、Uー2高高度偵察機、Kー135空中空有機、MQー1C無人偵察機、Fー16など100機が投入された「ビジラント・ストーム」には足元にも及ばないとみている。

 空軍力では誰が見ても明らかに北朝鮮は劣勢である。それでも朝鮮中央通信は「史上前例のない大規模な航空作戦で党の戦闘命令に迅速かつ完璧な実践で従って、いかなる強敵も一撃のもとに打ち勝つことのできる我が空軍の思想的・精神的優勢と優れた実戦能力を全世界に宣揚した」と、北朝鮮空軍の対応を称えていたが、興味深いのは「無敵の空中神話はいかなる先端戦闘機ではなく、不屈の精神で武装した飛行士が創造する」と述べていた点だ。

 「不屈の精神で武装した飛行士」とは「党の命令なら雲の中の千里、弾雨の中の万里でも切り抜けて侵略の牙城を全て焦土化してしまう透徹した主敵観、主体的な戦争観を体質化した勇敢な飛行士」(朝鮮中央通信)のことのようだ。早い話が、特攻隊を指している。

 金総書記が後継者としてお披露目されたのはまだ父親(金正日)が健在だった2010年9月28日に開催された党代表者会の場で、この時に正式に党軍事委員会副委員長の肩書が与えられていた。しかし、父親の死去(2011年12月)から1か月後に公開された映像「金正恩活動記録映画」をみると、正恩氏は2009年4月の人工衛星と称した長距離弾道ミサイル(テポドン)の発射を父親と共に平壌の管制総合指揮所で参観していた。映画のナレーションでは驚いたことに「仮に迎撃された場合、戦争する決意であった」との正恩氏の言葉が紹介されていた。

 当時、オバマ政権下の米国はゲーツ米国防長官がテポドンの発射を強行すれば、海上のイージス艦に装着されているSM―3と地上のパトリオットミサイル、さらにはアラスカ基地に配備されている迎撃ミサイルの3段構えで撃ち落とすと、北朝鮮を牽制していた。実際に日米両政府はミサイル本体や燃焼後のブースター(推進エンジン)が日本の領土、領海に落下する事態に備え、日本海に「ちょうかい」など2隻のイージス艦を配置し、共同でミサイル防衛(MD)システムによる迎撃を検討していた。

 日米のこうした動きに対して北朝鮮はテポドン発射約1か月前の3月9日に朝鮮人民軍総参謀部が日米による迎撃を「宣戦布告」とみなし、「平和的衛星に対する迎撃行為に対しては最も威力のある軍事手段により即時に対応打撃で応える」との声明を発表し、「我が革命武力は迎撃陰謀を企てた日米侵略者と南朝鮮(韓国)の本拠地に対して正義の報復打撃戦を開始する」と宣言していたが、この強硬路線を指揮していたのが他ならぬまだ25歳の正恩氏であった。

 結局、クリントン長官(当時)がミサイルとは呼ばず、「米国には北朝鮮のロケットを撃ち落とす計画はない」と公言したことで武力衝突にはいたらなかった。当時、国防委員会の朴林洙(パク・リムス)政策局長はミサイル発射直後に訪朝した米国務省元高官に対して「迎撃は戦争行為と見なし、我が方は直ちに空軍機で迎撃ミサイルを発射した日米のイージス艦を撃沈する態勢だった」と語っていた。

 当時、北朝鮮は人民軍参謀部が「(米国が)人工衛星に迎撃行動をとれば、迎撃手段だけでなく、本拠地にも報復打撃を開始する」との声明を出し、4月5日に予告通り発射を強行したが、当時は今と違って、北朝鮮はまだ日米を確実に攻撃できる中距離弾道ミサイルや大陸間弾道ミサイルを保有していなかった。日米のイージス艦に対する唯一の攻撃手段が特攻隊による攻撃だった。

 北朝鮮が特攻隊を編成し、スタンバイさせていたことは6年後の2015年3月2日に金総書記が航空部隊を視察した際に朝鮮中央通信が「(2009年4月の)光明星2号(テポドン)の発射成功を保障するため作戦に参加し、偉勲を発揮した14人の戦闘飛行士らの偉勲を称えた記念碑の前で記念写真を撮った」と報道したことで判明した。

 金総書記の発言では14人の操縦士は「党の命令貫徹のため死を覚悟し、決死戦に出た戦闘飛行で肉弾自爆した」ことになっていたが、空軍及び防航空軍第477部隊所属にしていた14人は自爆ではなく、いざとなったらイージス艦に体当たりする訓練、超低空で飛行する訓練中に墜落し、死亡していた。

 旧式の戦闘機も、日本の神風特攻隊の「ゼロ戦」のように使い方によっては脅威になる。油断は大敵である。

ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

「辺真一のマル秘レポート」

税込550円/月初月無料投稿頻度:月3回程度(不定期)

テレビ、ラジオ、新聞、雑誌ではなかなか語ることのできない日本を取り巻く国際情勢、特に日中、日露、日韓、日朝関係を軸とするアジア情勢、さらには朝鮮半島の動向に関する知られざる情報を提供し、かつ日本の安全、平和の観点から論じます。

※すでに購入済みの方はログインしてください。

※ご購入や初月無料の適用には条件がございます。購入についての注意事項を必ずお読みいただき、同意の上ご購入ください。欧州経済領域(EEA)およびイギリスから購入や閲覧ができませんのでご注意ください。

辺真一の最近の記事