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「目には目の」米韓対北朝鮮 一触即発だった2017年よりもさらに危険!

辺真一ジャーナリスト・コリア・レポート編集長
米戦略爆撃機「B-52」(米国防省HPから)

 8月中旬に「ゴングが鳴った朝鮮半島の危険な『ウォーゲーム』」の見出しで「朝鮮半島の夏恒例の米韓対北朝鮮の『威嚇合戦』はこれからが本番を迎える」と予測したが、北朝鮮が8月17日までに極超音速滑空ミサイル、戦術誘導ミサイル、巡航ミサイル、中距離弾道ミサイル(火星12)、ミニ潜水艦弾道ミサイル、大陸間弾道ミサイル「火星17型」を含め延べ17回、39発発射すると、米韓は8月22日から9月1日まで米韓合同軍事演習「乙支フリーダムシールド」を再開させ、北朝鮮に対抗した。

 演習は第1段階(22~26日)では敵の攻撃を撃退、防御する訓練が、第2段階(29~9月1日)では反撃に重点を置いた訓練が実施された。北朝鮮との局地戦、全面戦に備えた国家総力戦遂行能力を試すための訓練、即ち現実的に起こりうるシナリオを想定した訓練も実施された。

 米韓合同軍事演習の再開に怒り心頭の金正恩(キム・ジョンウン)総書記は9月7日に開催された最高人民会議での演説(8日)で「核を絶対に放棄しない。核交渉も取引もしない」と宣言し、「(米韓に)攻撃された場合、あるいは攻撃が差し迫ったと判断した場合」に核を先制使用することを公言し、それを法令化した。

 対決姿勢を鮮明にした金正恩政権に対して米韓は9月15日に「F5」「F50」などの戦闘機及び「C-130」輸送機を動員し、海兵隊による合同の戦術航空統制訓練を実施した。さらに9月26日から29日まで米原子力空母「ロナルド・レーガン」を動員し、海上合同演習を実施し、9月30日には日本を加え、日米韓3か国による合同対潜水艦戦演習を日本海で実施し、北朝鮮を牽制した。

 この訓練は北朝鮮の新型潜水艦による「北極星」と呼称されているSLBMの発射に備えたものであるが、北朝鮮は9月28日、29日に2日続けてSLBMではなく、地対地短距離弾道ミサイル2発を発射し、米韓を威嚇した。

 北朝鮮が米韓合同軍事演習にミサイルを発射するのは異例で、米原子力空母を前にしてのミサイル発射は初めてであった。日米韓3か国による合同対潜水艦戦演習が終了し、韓国で国軍の日の記念式が行われた10月1日には短距離弾道ミサイル2発を発射してみせた。

 北朝鮮の反発の極めつけは10月4日早朝に中距離弾道ミサイル「火星12」の発射ボタンを押したことである。

 「火星12」は日本列島を飛び越え、4600km飛行し、太平洋上に着弾した。北朝鮮のミサイルが日本列島を飛び越えたのは2017年9月15日以来5年ぶりである。「火星12」は対グアム攻撃用とみなされており、北朝鮮も「米韓合同軍事演習に対する我が軍隊の相応の対抗措置である」(外務省広報文)ことを明らかにしていた。

 「火星12」の発射に激怒した米韓は直ちに「F16」と「F15」戦闘機をそれぞれ4機飛ばし、精密打撃訓練を行う一方、夜11時には日本海に面した江陵空軍基地から弾道ミサイル「玄武―2C」などミサイルを4発発射し、さらに5日には戦術誘導地対地ミサイル「ATACMS」を発射し、北朝鮮のミサイル基地をいつでも攻撃できる能力を見せつけた。

 米国が潜水艦弾道ミサイル発射の兆候や7度目の核実験の動きを牽制するため米原子力空母「ロナルド・レーガン」を再びUターンさせる措置を取ると、北朝鮮は今朝、北朝鮮版戦術誘導ミサイル「イスカンデル」を2発発射した。米韓は11月に再度、原子力空母が参加する米韓合同訓練を行うことから武力示威の攻防はさらにヒートアップ、エスカレートするのは避けられそうにない。

 トランプ前政権と金正恩政権下における2017年の米韓対北朝鮮の軍事対決は相手を交渉の場に引っぱり出すためのデモンストレーション、戦術の要素が強かったが、①北朝鮮がバイデン政権との対話、交渉を拒絶していること②バイデン政権も制裁と圧力は強めることはあっても北朝鮮が求めている対話の条件である制裁解除や軍事演習の中止に応じる気はないこと③米朝を仲裁し、首脳会談に持ち込み、事態を収拾した文在寅(ムン・ジェイン)前政権とは異なり、尹錫悦(ユン・ソクヨル)政権が北朝鮮との対決姿勢を鮮明にしていること④これまで対北制裁で米韓と足並みを揃えていた中国とロシアが北朝鮮を擁護し、北朝鮮に自制を求めていないことなどが2017年よりも状況を悪化させている要因でもある。

 歴史的に朝鮮半島では何度も戦争勃発の危機があったが、戦争だけは回避という最小限度暗黙の合意があった。どこかで誰かが、どこかの国が待ったを掛けたことで大事にはいたらなかった。

 米韓も北朝鮮も「相手を圧倒する力の行使」を振りかざしている限り、いつか武力示威が戦争の導火線となるであろう。

ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

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