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またまた食い違った日韓の「北朝鮮ミサイル情報」 高度で「10km」 飛距離で「200km」の違い

辺真一ジャーナリスト・コリア・レポート編集長
2021年3月25日に発射された北朝鮮の新型戦術誘導ミサイル(労働新聞から)

 北朝鮮が昨日(25日)今年に入って17回目となる弾道ミサイルを発射した。韓国軍が前日の24日に外遊中の尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領に北朝鮮によるSLBM(潜水艦発射弾道ミサイル)の発射準備兆候を報告していたことからSLBMが発射されたのではないかと韓国は構えたが、発射されたのは短距離ミサイルだった。

 それも、日本海に面した東海岸の新浦からではなく、西側の平安北道・泰川付近から日本海に向け陸地を横断して発射されていた。ちなみに日本も発射地点については特定しなかったものの「北朝鮮内陸部から」と公表していた。

 このミサイルの種類については韓国ではマッハ5で低空飛行した後、目標地点で急上昇して目標物に突き刺さる技術が適用された北朝鮮版「イスカンデル」と推定しており、日本もまた「変則軌道で飛翔した可能性がある」とみていることから放物線軌跡を描く一般の弾道ミサイルではなく、北朝鮮の国防科学院が2019年4月17日から射撃試験を行い、実戦配備した新型戦術誘導兵器の可能性が高いようだ。

 問題は高度と飛距離だ。日韓の発表が異なるのだ。それも大きく異なっているのである。

 韓国合同参謀本部は短距離弾道ミサイルの高度を60km、飛距離は600kmと発表したが、日本の防衛省は「詳細については現在分析中である」としながらも「最高高度約50km程度」と分析し、飛距離についても「通常の弾道軌道だとするならば」と断りながらも「約400km程度飛翔した」と発表していた。日韓の発表は高度で10km、飛距離で200kmも差があった。

 どちらの発表が正確なのかは定かではないが、これまでも再三、不一致があった。最近のケースは時系列で挙げてみると以下のようになる。

 その1.2021年3月25日

 「イスカンデル」とおぼしき新型戦術誘導ミサイルが2発発射されたが、飛行高度について韓国は「60km」と推定したのに対して日本は「100km未満」と発表。飛距離については韓国は2発とも「450km」と推定したのに対して日本は「420km」と「430km」であった。ちなみに北朝鮮は「ミサイルは東海(日本海)上の600km水域に設定された目標を正確に打撃した」と飛距離が「600km」あったと発表。

 その2.2021年10月19日

 「側面軌道と滑空跳躍軌道を含む多くの進化した操縦誘導技術が導入された新しい形の新型潜水艦発射弾道ミサイル」(北朝鮮国防科学院)が発射されたが、韓国合同参謀本部は発射されたのは「1発」と主張したのに対して日本は「2発」とみなした。飛距離については韓国の「590km程度」に対して日本も「600km程度」とほぼ変わらなかったが、防衛省は2発目の飛距離については「引き続き分析中である」と結論を出さなかった。韓国では日本が2発目の発射時間を特定できなかったことや高度が約60kmと低空飛行だったことから「海上を低高度で飛行する物体は気象状況などにより、レーダーに2重になって捉えられる」として日本が「勘違いした」とみなしていた。

 その3.2022年1月14日

 平安北道の鉄道機動ミサイル連隊が枇峴郡から戦術誘導ミサイルを発射したが、今度は韓国が「2発発射された」と発表したのに対して日本は当初、岸防衛相(当時)が記者会見で「弾道ミサイルが少なくとも1発発射された」と発表していた。2日後の16日になって防衛省は「諸情報を総合的に勘案し、2発発射された」と修正していた。

 その4.2022年1月25日

 長距離巡航ミサイルが2発発射されたが、韓国合同参謀本部は「内陸でミサイルが発射され、飛行した」と説明。日本からの発表はなく、防衛省からのブリーフィングもなかった。後に北朝鮮は移動式発射台から長距離巡航ミサイルを2発発射し、東海上に設定された飛行軌道に沿って9317秒(2時間35分17秒)を飛行し、「1800km先の卵島に命中」と発表した。

 その5.2022年1月27日

 日本海に面した咸鏡北道・咸興付近から移動式発射台を使って日本海に向け地対地戦術誘導ミサイルが2発発射され、北東方向に水平距離で約190km飛行し、卵島に着弾した。韓国では最大高度は約20kmと探知されたが、日本側からの観測では水平線の向こう側に隠れていたことからレーダーで探知できなかったため海上保安庁からの警報はなかった。

 その6.2022年2月27日

 北朝鮮は偵察衛星用の弾道ミサイル1発を発射したが、韓国は「高度は約620km」(合同参謀本部)と発表したのに対して日本は「最高高度約600km」(防衛省)と発表し、20km違っていた。但し、飛距離については日韓双方とも同じく「300km」と推定していた。

 その7.2022年5月25日

 韓国は6時、6時37分、そして42分に大陸間弾道ミサイル「火星―17型」を含め計3発のミサイルが北朝鮮から発射されたと発表したが、日本は5時59分と6時42分に「2発発射された」と発表。これまた韓国は3発、日本は2発と食い違った。

 その8.2022年6月5日

 韓国合同参謀本部は北朝鮮が午前9時8分頃から9時43分頃にかけて、順安と平安南道の价川、平安北道の東倉、咸鏡南道の咸興から短距離弾道ミサイルを計8発発射したと発表したが、日本は「6発」と発表。防衛省は6発以上発射の可能性も示唆はしていたが、発射から即座に何発発射されたのか正確には判別できなかった。

 「敵基地攻撃」であれ、「反撃」であれ、「先制攻撃」であれ、どこから、どのような種類のミサイルが何発発射され、どのように飛んで来るのかを正確にわからないようでは空論である。北朝鮮のミサイルは10分そこそこで日本に到達すると言われているが、発射され、落下した後からの発表では遅い。

 日本の領海や領土に着弾する恐れがないと即座に判断できれば、Jアラートまで鳴らす必要もないが、それでも少しでも早く探知、分析できる能力の向上が求められるのは言うまでもない。

ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

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