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北朝鮮のウクライナ派遣「労働者」は軍人? ロシアへの後方支援!

辺真一ジャーナリスト・コリア・レポート編集長
ロシアのマツェゴラ駐北朝鮮大使(駐朝ロシア大使館FBから)

 北朝鮮はウクライナ情勢では国際社会に向けて外務省のホームページを通じて一貫してロシア支持を表明している。

 ロシアがウクライナ侵攻に踏み切る前の2月13日には米国がNATOを拡大してロシアへの軍事的威嚇を強めているとして、ロシアの肩を持つ記事をウェブサイトに掲載し、侵攻が始まった翌々日の2月26日にはロシアの侵攻について「ウクライナ政府によって虐げられてきた人々を保護するためだ」と擁護し、2日後の28日には「他国に対する強権と専横に明け暮れている米国と西側の覇権主義政策に根源がある」と欧米批判を展開していた。

 そして、ロシアの祖国戦争勝利記念日にあたる5月9日には金正恩(キム・ジョンウン)総書記自らがロシアのウクライナ侵攻は「国の尊厳と平和と安全を守るための偉業」であるとしてプーチン大統領に連帯を表明していた。

 今朝も北朝鮮外務省は20年前に金正日(キム・ジョンイル)前総書記が訪露し、プーチン大統領と交わした「ロ朝共同宣言」20周年関連記事をホームページに公開し「両国は米国とその追随勢力の強権と專橫、覇権策動を全面排撃し、外部からの脅威を断固撥ね退け、国の安全と自主権、発展利益を守り、平和で正義の国際社会を建設するための路程で戦略・戦術的協同を一層緊密化させている」と書いていた。

 世界で唯一一貫してロシア支持を表明している北朝鮮がいつ、どの時点で、どのような形でウクライナ事態に介入するのか注目していたが、崔善姫(チェ・ソンヒ)外相は13日にウクライナ東部を実効支配している親ロシア派の「ドネツク人民共和国」と「ルガンスク人民共和国」の両外相に書簡を送り、「両国の独立を認定した」ことを通報し、関係強化を打ち出していた。

 北朝鮮が親露派が支配した地域を国家として承認したことに絡み、ロシアのマツェゴラ駐北朝鮮大使がロシア紙「イズベスチヤ」とのインタビューで「北朝鮮の建設労働者が戦火で破壊された二つの地域での復旧作業で重要な役割を担える」と述べたのはそれから5日後である。

 マツェゴラ大使はウクライナ東部で破壊されたインフラ施設の復旧作業にあたって「勤勉で忍耐強い北朝鮮の労働者が大きな助けになる」と述べ、ウクライナ東部の工場で製造された部品を北朝鮮の企業に供給する計画もあり、北朝鮮側もこの計画に「大きな関心を寄せている」と発言していた。ロシア大使が公言したところをみると、ロシアと北朝鮮との間ですでに合意済なのであろう。

 北朝鮮の新ロシア派の承認について林芳正外相は15日、「ロシアの行為を追認するような決定をしたことは国連決議に相反する」と批判し、国連安保理傘下の北朝鮮制裁委員会専門家パネルのエリック・ペントン・ボーク調整官も18日、北朝鮮の労働者派遣を「建設現場の資材と装備を北朝鮮に提供する行為も含め制裁違反である」と非難していた。

 北朝鮮の労働者派遣は国連安全保障理事会が2017年12月に大陸間弾道ミサイル「火星15型」を発射した懲罰として海外にいる北朝鮮労働者を全員2019年12月までに全員強制送還することを規定した制裁決議「2397号」の明らかな違反である。

 北朝鮮はウクライナ政府の批判と国交断絶通告について北朝鮮の国家承認は「国連憲章で認められた主権国家の固有の合法的権利である」との見解を明らかにし、「ウクライナが北朝鮮の主権行使を誹謗する権利も資格もない」と反発し、日本や国連安保理パネル委員会の警告に対しても「親善の対外政策理念に基づき正義と国益に沿い、友好的に接する国との関係を発展、強化させる。我々は他人の眼を気にしない」と反論し、批判を意に介さず、労働者を派遣するようだ。

 北朝鮮がドネツクやルガンスクに派遣する「労働者」は民間人でも、通常の労働者でもない。おそらく国防省傘下の軍後方総局から派遣される軍人が主であろう。現職のままか、あるいは一旦除隊させて派遣される可能性が大だ。

 国防省の中には軍事建設局や技術総局、対外事業局などがあるが、特に軍後方総局には建物の補修や設備等の任務を管掌する部(建設部、資材部、保管部)をはじめ輸送業務を管理、運用する部(輸送部、道路部、水上部)から病院などで医療業務を指導、管掌する部など様々な部がある。約40万人から成る道路建設軍団と呼ばれる部隊も存在する。

 北朝鮮では軍人は高層マンションから病院、デパート、学校、空港、遊園地などレジャー施設、農業から水産業まであらゆる経済分野に関与している。

 北朝鮮人権情報センター(NKDB)のデーターによれば、海外派遣が禁じられる前の2015年1月から3月までロシアで雇用許可を得ていた北朝鮮の労働者は約4万7364人に及んでいた。内訳は美装工、石工、コンクリート工、外装工、塗装工らが中心だった。この他に伐採工も派遣されていたが、駐朝ロシア大使が言うように勤勉で忍耐強く、休みも取らず、1日20時間も働いていた。

 北朝鮮から二つの地域にどれだけの数の「労働者」が派遣されるのかは不明だが、終戦下でもなく、停戦状態にも置かれてない危険地域に派遣するだけに労働要員以外にも建設現場の治安を維持する名目で別途に警護員、即ち「治安維持部隊」を派遣することも考えられる。

 「労働者」だけでも仮に4万~5万人派遣すれば、師団の数が1万1千人ぐらいだとすれば、4個師団以上となる。両地域の奪還を目指すウクライナ軍にとっては手強い存在となる。

 北朝鮮のドネツク州とルガンスク州への「労働者」派遣はロシアからの要請であることは疑いの余地もないが、北朝鮮「労働者」の駐屯はロシアの実行支配を一層強固にすることになるのでロシアの北朝鮮への見返りもそれ相応のものと推測される。

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ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

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