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「非同盟」の旗を降ろした北朝鮮のロシア支持は「凶」と出る!

辺真一ジャーナリスト・コリア・レポート編集長
国連総会でロシア支持を表明する北朝鮮のキム・ソン国連大使(国連総会HPから)

 国連総会で圧倒的多数の140か国がロシアのウクライナ侵略を批判する決議案に賛成票を投じたのに北朝鮮は反対票を投じた。反対した国は当事国のロシアとベラルーシ、エリトリア、シリア、そして北朝鮮の5か国のみである。

 北朝鮮とは同盟関係にある中国、反米共同戦線を張っているキューバやイラン、さらには同じ社会主義国のベトナムなど友好国がこぞって棄権に回っているのに北朝鮮だけはロシアを公然と支持した。

 投票前の国連総会での演説で金星(キム・ソン)国連大使が「ウクライナ危機の根本的な原因は全的に法的な安全保障を提供してもらいたいとのロシアの合理的で正当な要求を米国と西側が無視し、露骨にNATO(北大西洋条約機構)の東進を追求し、攻撃武器体系を配置したことにある」と述べ、ロシア軍のウクライナからの撤退を求めた国連総会決議に反対すると表明していたことから予兆はあった。

 しかし、ロシアへの支持表明はウクライナを支援する国際社会を敵に回すことになり、国際的孤立を一層深めることになりかねないのでこうした重大事は金大使一人の判断ではとてもできないことだ。当然、金正恩(キム・ジョンウン)総書記の承認を得ての発言でもあり、北朝鮮の決断でもある。

(参考資料:ロシアのウクライナ侵攻に沈黙?「後方支援」? 北朝鮮の「複雑な心境」)

 確かにロシアは北朝鮮にとって数少ない伝統的な友好国でもあり、援助国でもあり、国連の場では北朝鮮への制裁緩和を働きかけてくれる「味方」でもあり「恩人」でもある。また、米国は北朝鮮にとっても「共通の敵」である。従って、ロシアに同調するのは当然の帰結かもしれないが、北朝鮮は初代の金日成(キム・イルソン)主席の時代からこれまで相手が誰であれ、どの国であれ、大国の主権国家に対する武力行使には反対の立場を貫いてきた伝統がある。

 北朝鮮は非同盟諸国首脳会議のメンバーである。換言するならば、いかなる同盟やブロックにも参加しない非同盟の立場を取ってきた。具体的には△外部勢力の介入や干渉に反対し△独立,主権,領土保全を尊重し△弱者の現状変革の試みに対する強者の妨害に反対し△弱小国に対する大国の経済的,政治的圧力に反対してきた。

 「非同盟」の旗を掲げていたからこそ中国とベトナムの中越戦争では国境を越え、ベトナムに侵攻した中国を「覇権主義」と批判し、またそのベトナムがカンボジアに攻め入った国境紛争では今度はベトナムを批判し、小国のカンボジア側に立った。いずれも「大国主義の横暴」を問題にし、小国を庇っていた。

 ロシアの前身、旧ソ連が同じ社会主義陣営の旧ユーゴやルーマニアと冷却な関係にあった時も同じ非同盟のユーゴ、それに「自主独立」のルーマニア側に立ち、連帯を表明していた。同盟国の争いで唯一、中立を保っていたのは1969年の「中ソ国境紛争」ぐらいだ。

 米国による北ベトナムへの空爆、グレナダへの侵攻、パナマへの侵攻、湾岸戦争、ユーゴ空爆、イラク戦争、さらにはアフガニスタン侵攻からリビア空爆やシリアへの空爆批判も相手が宿敵「米国」であることことが最大の理由だが、一応は「主権国家に対する軍事攻撃は許さない」との原理原則に立っていたからそれなりに「正当性」もあった。

 しかし、北朝鮮の今回の決定は2014年に国連総会で「ロシアによるクリミア編入無効決議」に反対票を投じたことと同様に明らかに北朝鮮の外交の基軸となっている「非同盟路線」に離反していると言わざるを得ない。

 ウクライナ問題をめぐる国際社会の推移、国連の雰囲気を正確に察知、判断していれば歴史に逆行するような露骨なロシア擁護はあり得ないはずだが、金大使が本国にどれだけ正確に情勢報告をしていたのかは定かではない。ハノイ会談決裂の後遺症やコロナの影響による北朝鮮の外交不在が判断を誤らせている可能性も否定できない。

 過去に北朝鮮はイランとの関係で宗教指導者のホメイニ師が率いる革命の動きを察知できず、政変が起きる直前まで打倒対象となっていたパーレビ国王の政権と関係を結ぼうと秋波を送るなど情勢、状況分析が全くお粗末極まりなかった。

 また、米国との関係でも再選を目指すハト派のカーター大統領から提案のあった朝鮮半島緊張緩和に向けた3者会談(米国と南北)を蹴ってしまいながら北朝鮮に強硬なタカ派のレーガン政権が誕生するとゴミ箱に捨ててあった3者会談提案を拾い上げ、逆提案するなど対米関係でも数々の判断ミスがあった。その最たる外交失態が1991年の国連加盟である。

 北朝鮮は直前まで国連への加盟は単独でも、南北同時でも反対していた。特に同時加盟は「朝鮮半島の永久分断化に繋がる」との理由で猛烈に反対していた。しかし、韓国が「北朝鮮が準備できてなければ、先に入る」と単独加入を目指すと、慌てて韓国よりも先に加盟を申請し、国連で失笑を買っていた。

 北朝鮮の外交は建前とは異なり、恥も外聞もない。なりふり構わぬ今回のロシア支援は北朝鮮にとって「凶」と出るのではないだろうか。

(参考資料:ロシアのウクライナ侵攻で注目される露朝の政治・外交・軍事関係(2000年~))

ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

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