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「オミクロン株」の拡散でも北朝鮮はワクチン受け取りを拒み続ける?

辺真一ジャーナリスト・コリア・レポート編集長
丹東からの貨物列車を消毒する国境都市・新義州駅での光景(「今日の朝鮮」HPから)

 新型コロナウイルスの新たな変異株「オミクロン株」の拡散に世界中が警戒し、ワクチン接種を急ぐ一方、外国からの入国禁止措置を取るなど水際対策に追われているが、「コロナ感染者ゼロ」を豪語していた北朝鮮もまた例外ではなく「オミクロン株」の拡散に当惑を隠しきれないでいる。そのことは党機関紙「労働新聞」や国営放送の「朝鮮中央放送」や「朝鮮中央通信」の報道からも読み取れる。

 「朝鮮中央放送」は2週間前の11月16日の報道で「世界的に大流行伝染病の拡大が再び深刻に広がっている」として「少なくない国と地域で防疫措置を早めに緩和したのが主な要因である」と伝えていた。

 この日の放送では「ワクチン接種に期待をかけ、防疫措置をほぼ解除した国が破局的な危機に陥っている」として、特に欧州諸国の状況が特に深刻だと伝えていた。その上で「世界が大流行伝染病の危険から抜け出すまでの道のりはまだ遠く、防疫事業で少しでも緊張を緩める場合、さらに残酷な結果が出る可能性がある」と警告していたが、ここ数日は「アフリカ南部で危険な新たな変異ウイルスが伝播、世界保健機構がオミクロン変異ウイルスと命名」(28日)、「アフリカ、オセアニア州で感染者、死亡者急増」(29日)、「新変異ウイルスの伝播を防ぐための緊急防疫対策を講じる」(30日)などの見出しを掲げ、「最近アフリカ大陸の南部地域を中心に危険なオミクロン変異ウイルスが伝播され、世界各国、地域で緊急防疫措置を講じている」と報じている。

 昨日(29日)は「朝鮮中央放送」が「世界的に再びデルタ変異株より伝染力が5倍も強い新たな変異株が発見されて深刻な懸念をかき立てている」として党中央非常防疫部門で新たな変異株の急速な拡散状況に緊急に対処する必要性を強調し、人民に国家非常防疫活動の完璧さを徹底的に保つよう促していた。

 北朝鮮は新型コロナウイルスの感染拡大が始まった昨年1月から中国との国境封鎖、陸海空の全面封鎖という強力な措置を取って、「コロナ」を封じ込めてきたが、10月初旬から経済活動を再開するため中国との国境を開放する動きが見られていた。実際に中国との貿易再開のため列車の運行や鉄橋の状態などを点検していたことが確認されているが、「オミクロン株」の出現で国境封鎖解除が見送られる公算が高い。

 北朝鮮の保健省のデーターに基づいたWHOの発表によれば、北朝鮮ではPCR検査を受けた人の中にインフルエンザのような症状、重症急性呼吸器感染症の症状があったものの依然として「コロナ感染はゼロ」とのことである。

(参考資料:韓国情報機関が「北朝鮮にコロナ感染発生兆候はない!」 北朝鮮の感染者ゼロは「世紀のミステリー」)

 仮に北朝鮮の発表が事実だとしても、今後「オミクロン株」の感染を防ぐためには国境封鎖だけでは限界がある。まして今年1月の第8回党大会で打ち出した5か年経済計画の初年度計画を完遂させるには外国との経済交流、外国からの支援は不可欠である。経済を、人民生活を考えれば、いつまでも鎖国状態は続けられない。いつかは開放しなければならないし、そのためにはワクチン接種は欠かせない。

 世界にワクチンを公平に供給するため設立された国際ワクチン供給プロジェクト「COVAX ファシリティ」は22日に北朝鮮に対してアストロゼネカ製ワクチンを473万4000回分の追加配分を決定した。これにより、北朝鮮に配分されるワクチンは延べ672万4000回分となり、北朝鮮の336万2000人分に値する。北朝鮮の総人口を2500万人と推定すると、およそ7.4%である。

 アストロゼネカは北朝鮮の他、バンブラデッシュ(約862万回分)、ナイジェリア(約574万回分)などにも配分されるが、北朝鮮は3月に1回分(約199万)の供給が決定しても受け取らなかった。また、「COVAX ファシリティ」は8月にも中国産ワクチン297万回分の配分を決定し、北朝鮮に通告したが、この時も北朝鮮は「他の国に回してもらいたい」と言って、受け取らなかった。

 受け取らないのはアストロゼネカも中国産も信頼していないからだと言われているが、それが真の理由ならばいつまで経ってもワクチンは手に入らないだろう。仮に米国と交渉してファイザーやモデルナを勝ち取る気ならば、これまた米国が求めている非核化の措置を取らなければ無理であろう。忍耐にも限界がある。決断する時が来たのではないだろうか。

(参考資料:北朝鮮が米国との対話にも交渉に応じない理由 北朝鮮版「戦略的忍耐」)

ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

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