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米国務長官と副長官は「慰安婦問題」では文在寅政権には「悪縁のコンビ」

辺真一ジャーナリスト・コリア・レポート編集長
「シャーマン発言」に抗議する韓国市民団体(写真:韓国「オーマイニュース」)

 バイデン政権は国務長官にはオバマ政権当時、国家安全保障担当副補佐官(2013年)、国務副長官(2016年)を歴任したアントニー・プリンケン氏を、同副長官には国務次官補(2015年)だったウェンディ・シャーマン氏を起用した。

 両人とも北朝鮮に対して圧力と制裁に軸を置いたオバマ政権の「戦略的忍耐政策」の推進者だけに韓国政府はバイデン政権の対北政策に一抹の不安を抱いているが、北朝鮮への対応以上に懸念しているのは「過去の問題」で相も変わらず日本と遣り合っている韓国への対応である。というのも、両人とも「慰安婦問題」での対応では韓国にとっては「好ましからざる人物」であるからだ。

 バイデン大統領がオバマ政権の副大統領当時、「慰安婦問題」で強硬な姿勢を取り続けていた朴槿恵政権と安倍政権との間を取り持ち、それが2015年12月の「日韓慰安婦合意」に繋がったことは公然たる事実である。

 何よりもバイデン大統領自身が米誌「アトランテイック」(2016年8月号)とのインタビューで「私が交渉を主導したわけではないが、結果的にそのような役割を担った」とそのことを認めている。

 「日韓指導者と個人的に親交があったし、彼らは私を信頼してくれた」として、具体的には安倍首相から「朴大統領と会えるよう協力してもらいたい」と要請され、朴大統領に「電話を掛けて、仲裁した」とのことだ。バイデン大統領は自身の役割について「夫婦関係を復元させる離婚相談員のようなものだ」と自身の役割について例えていた。

 周知のように2013年2月に政権の座に就いた朴槿恵前大統領は「慰安婦問題」では竹島に上陸し、日本との関係を悪化させた前任者(李明博元大統領)以上に強硬だった。

 就任から3か月後に訪米し、オバマ大統領と会談した際には「北東アジアの平和のために日本は正しい歴史認識を持たねばならない」と日本に釘を刺し、翌日の米議会での演説でも「歴史に目を閉ざす者は未来を見ることができない」と日本を痛烈に批判していた。

 韓国の外交慣例からすれば、訪米の次は訪日の番だが、日本をスルーし、翌月には中国を訪問し、習近平主席との首脳会談では伊藤博文を暗殺した安重根の銅像をハルピン駅前に建立するよう頼み込むなど日本に対して厳しい姿勢を取り続けていた。

 それが2015年になると、態度を軟化させ、日本との合意に踏み切ったのは米国の安全保障上「日韓関係緊張は負債である」(ラッセル米国務次官補=当時)として日米韓の協調体制を急ぐオバマ政権からのプレッシャーが陰に陽にあったからだ

(参考資料:「粘り勝ち」の安倍総理に「根負け」の朴大統領)

 朴槿恵政権に対して事を収める よう、日本との対話に応じるよう陰に陽に働きかけたのがウェンディ・シャーマン副長官(当時国務次官補)だった。

 シャーマン氏は2015年3月にワシントンDCのカーネギー国際平和研究所主催のセミナーでの基調演説で「過去史は韓国、中国、日本全てに責任があるから早く整理し、北朝鮮の核という当面の懸案に集中すべきである」と発言し、続けて「過去史は韓国、中国、日本の全ての責任であり、政治指導者が民族主義感情を悪用し、過去の敵を非難すれば、安っぽい拍手を貰えるかもしれない」と朴大統領の対日姿勢を批判した。

 彼女の発言は人権問題ではオバマ政権は我々の味方と過信していた韓国を大いに驚かせた。当然、この発言に韓国内では「他国の国家元首や政治指導者を軽く見ている証である」と対米批判の声が上がった。

 反響の大きさに驚いた国務省は鎮静化を図るため「米政府の公式的な立場でもなければ、特定国家を指定したものではない」と弁明したものの事態は収まらず、韓国の慰安婦関連団体などは「日本軍国主義を認める米国を糾弾する。政府は米政府に公開謝罪とシャーマン次官補の更迭を要求せよ」と「シャーマン発言」を糾弾する声明を出すほどの騒ぎとなった。

 プリンケン国務長官も国務副長官当時の2016年1月20日、前年12月に交わされた「日韓慰安婦合意」について「我々は全ての人々が両国の合意を支持するよう求めている。合意の精神に基づいて行動することを望んでいる」と述べ、合意に反対し、抗議運動を続けていた在米韓国人団体に対して「両国が合意した内容と精神を尊重すべきである」として抗議を自制するよう促していた。

 プリンケン長官の発言は日米韓外相会談出席のため訪日中のNHKのインタビューでのものだが、米国内で慰安婦像の設置運動を行っていた韓国人団体は「副長官はこの問題に対する理解が不足している。国務省が慰安婦問題を外交問題への障害とみるのは間違っている」(カリフォルニア米韓フォーラムの金ヒョンジョン事務局長)と猛反発していた。

 この二人以外にも「日韓慰安婦合意はTPP妥結に準ずる重大な合意である」と評価している人物がいる。バイデン政権のNSCアジア政策統括調整官に任命されたカート・キャンベル元国務次官補(2009年6月―2013年2月)である。

 慰安婦問題ではどちらかと言えば、韓国寄りだったキャンベル氏は国務次官補退任後の2016年4月に訪韓した際、「日韓両国が良好な関係で一層効果的に協力し、政治指導者らが一層緊密に協力できる環境になったのは米国の戦略的利害に合致する」と日韓合意を評価する発言を行なっていた。

 バイデン大統領の仲介により交わされた「日韓慰安婦合意」について文在寅大統領が「合意は真実と正義の原則に反しており、内容も手続きも全て誤りである」との従来の発言を翻し、新年辞で初めて「公式的な合意である」と認める発言をしたのは、歴史問題を巡る日韓の紛争で米国が韓国の肩を持つことがないこと、長引けば韓国に対するプレッシャーが強まることを察知したからであろう

(参考資料:未解決の「日韓紛争」ランキング「ワースト10」)

ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

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