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同情論が起きない朴槿恵前大統領の「判決」恩赦されなければ2039年まで独房生活!

辺真一ジャーナリスト・コリア・レポート編集長
収監された李明博元大統領(左)と朴槿恵前大統領(筆者による合成写真)

 韓国の権力者の末路は男女問わず実に哀れだ。

 李明博元大統領に続いて、韓国初の女性大統領である朴槿恵前大統領にも重刑が宣告された。懲役20年、罰金180億ウォン(約17億円)である。これより前に確定している公選挙介入罪の懲役2年と合わせると、朴元大統領は延べ22年間、掘の中に入れられることになる。

 李元大統領は昨年10月29日、朴前大統領よりも一足先に刑(94億ウォンの収賄と252億ウォンの横領罪で懲役17年)が確定し、現在服役中にある。元・前大統領が雁首揃えて収監されるのは1995年11月に逮捕、収監された全斗煥氏とその後継者の盧泰愚氏以来24年ぶりのことある。

 朴槿恵前大統領は2017年3月に大統領を罷免、逮捕され、そのままソウル拘置所送りとなっているので残りの刑期は18年3か月。今年2月で69歳になる朴受刑者が仮に満期まで服役すれば、出所は87歳になる2039年となる。

 李元大統領は2019年3月に病気治療を理由に保釈(保釈金は10億ウォン)が認められたことがあるが、朴大統領は持病の腰が悪化し、2018年5月に一時的に持病の治療が許されただけでこれまで一度も保釈が認められたことはない。

 朴前大統領は拘置所に収監された当初は、食事が進まず、ご飯の代わりにもっぱら乳製品を口にしていた。拘置所側も「拘置所から差し出す食事にはほとんど手を付けず、リンゴや旬の果物、牛乳や豆乳、ヨーグルトなどを拘置所内で購入して食べていた」と説明していた。

 弾劾、罷免、そして逮捕と奈落の底に突き落とされたことによる失意や、外部との接触が一切断たれたことによる疎外感が原因かは不明だが、公判を何度も欠席したり、時に車椅子に乗せられて法廷に現れたこともあった。

 朴前大統領の弁護士は「靴も履けず、夜眠れないほど痛風が酷いため」と説明していたが、一部韓国のメディアは看守の証言として「朴前大統領は夜になっても寝ずに壁に向かってぶつぶつ何か独り言を言っている。30分前に食事をしたばかりなのに『ご飯はまだか』と忘れる始末だ」と伝えていた。

 また、法廷で突然、笑いだしたり、弁護人が弁護中にも訳の分からない絵を描いては消している光景を何度も傍聴人に目撃されていた。こうした現象から一時は「精神を患っている」との噂も駆け巡ったこともあった。手錠を掛けられたままさらし者にされ、法廷に引っ張り出されるなどプライドをズタズタにされ、豪華な大統領官邸から僅か10.6平方メートルの狭い独房に収容されればうつ状態になってもおかしくはない。

 弁護士の話では、現在は精神的に落ち着き、規則的な食事と就寝で入所時と比べて健康に特に異常がないそうだ。既決囚となっても、高齢や健康上の問題、また保安上の問題があって、李元大統領同様に刑務所ではなく、ソウルの拘置所に収監されるようだ。

 先輩の全斗煥・盧泰愚元・前大統領の二人は1997年4月に最高裁で刑が確定したことでその年の12月に金泳三大統領によって恩赦され、2年1か月で出所できたが、朴大統領は収監されて早3年10か月の歳月が流れている。

 本来ならば、韓国史上初の女性大統領であり、かつ歴代大統領では韓国で最も人気のあった朴正煕元大統領の令嬢ということもあって逮捕に反対する声が多数を占めても良さそうなものだが,意外にも同情論は起きなかった。当時、罷免には国民の86%前後が、逮捕に関しては国民の78%が「賛成」していたからだ。

 今なお、熱烈な朴槿恵支持者や保守層の間では保釈を求める声があるが、世論は総じて冷淡である。

 昨年2月の世論調査会社「リアルメーター」の調査では「釈放すべき」が39.3%なのに対して「釈放すべきではない」が過半数を上回り、56.1%もあった。この結果、3月1日の独立記念日での恩赦は見送りとなってしまった。

 今年も与党「共に民主党」の李洛淵与党代表が国民統合の観点から恩赦について言及したところ、「リアルメーター」の世論調査の結果では「恩赦は国民統合に寄与しない」として56.1%が反対し、「賛成」の38.8%を大きく上回っていた。1年経っても風向きは変わっていないのである。

 日本の首相とは異なり、国民の直接選挙で選ばれた韓国の大統領は絶対的な権限を握っている。法案の拒否権、軍の統帥権、大法院長(最高裁判所長官)や検察総長などの任命権のほかに政府、軍、官公庁などの人事(約7千人)まで握っている。また、憲法改正の提案権から宣戦布告、戒厳令の布告もできる。しかし、一旦その座を明け渡せば、またその権力を国民に返した時には権力を振るって好き勝手にやったことのツケを払わなければならない。間違ったこと、法に反すること、即ち国民の期待を裏切る行為を行っていたならば、誰であっても地位に関係なく、処罰される。

 盧武鉉政権下の2006年4月に韓国初の女性首相に任命された韓明淑首相も政権が交代した李明博政権下の2009年5月、首相在任時の汚職疑惑で逮捕されている。一旦は2011年に無罪が宣告されたものの2015年8月に最高裁で有罪判決を受け、2017年8月までの2年間、京畿道の議政府刑務所に服役していた。これが、良くも悪くも韓国の現実の姿である。

ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

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