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「2020年 日韓10大ニュース」今年も「最悪の関係」に変化なし!

辺真一ジャーナリスト・コリア・レポート編集長
菅義偉首相と文在寅大統領(筆者キャプチャー)

 今年も日韓の間には様々な出来事、問題が生じた。独断で「日韓10大ニュース」を月別にリストアップしてみると、以下のとおりとなる。

 ▲「愛の不時着」ブームの到来(2月~)

 韓国で大ヒットした韓流ドラマの「愛の不時着」が2月からNetflixで放映され、「冬のソナタ」以来のブームを巻き起こした。

 パラグライダーの事故で軍事境界線を越え、北朝鮮に不時着した韓国の美しい財閥令嬢と彼女を匿うイケメンの将校との南北を股にかけた禁断の恋が主題のこの連続ドラマ(16話)は昨年、韓国のケーブルテレビ(tvN)で放送され、ドラマ歴代最高視聴率を記録したが、日本でも口コミで広がり、これまで韓流ドラマを見たことがなかった層まで引き付け、反響を呼んだ。

 北朝鮮の将校を演じた男優ヒョンビンは「2020年大韓民国文化大衆芸術賞」で「大統領表彰」を受賞し、また、「愛の不時着」は日本でも年末恒例の「2020 ユーキャン新語・ 流行語大賞」のトップ10に選ばれた。

 ▲元慰安婦による「慰安婦支援団体」内部告発(5月)

 韓国人慰安婦被害者の李容洙さんが記者会見を開き、支援団体の「日本軍性奴隷制問題解決のための正義記憶連帯」(正義連)と国会議員となった尹美香前理事長を「30年にわたり利用され、裏切られた」と告発した。 

 「私利私欲のため国会議員にもなった。容赦できない」と尹前理事長を全面批判したこの会見では「正義連」が慰安婦を「性奴隷」と呼んでいることについても「あの汚い性奴隷という言葉をなぜ使うのか」と不満を表明し、日本の大使館前で行っている水曜集会についても「慰安婦問題の解決に役立ない。これまで30年間、水曜集会をしないでくれとは言えなかった」と発言したことから2015年の日韓慰安婦合意を順守しない文在寅政権に不満を抱く日本の共感を呼んだ。

 この記者会見を機に尹議員の金銭にまつわる疑惑が噴出し、尹議員は詐欺、業務上横領など8件の罪で起訴され、現在裁判沙汰になっている。

 ▲韓国が日本をWTOに提訴(6月)

 日本が昨年7月に3品目の半導体原材料の韓国向けの輸出管理を厳格化し、8月に輸出管理の優遇対象国「グループA(旧ホワイト国)」から韓国を除外したことに韓国は猛反発し、日本をWTO(世界貿易機関)に提訴。

 その後、日本との話し合いによる解決を目指したことで11月に提訴を暫定停止していたが、1年近く経っても日本が輸出厳格化措置を撤回しないことに苛立ち、6月中旬に再びWTO(世界貿易機構)への提訴に踏み切った。

 羅承植貿易投資室長は会見で、提訴により「日本の措置の違法性と不当性を客観的に立証し、国際社会に不当性を広く知らせる」と述べたが、日本政府は「一方的な対応は、対話による解決という合意を反故ほごにしかねず、極めて遺憾だ」と韓国の強硬姿勢に不快感を表明した。WTOの最終判定までには1年前後時間を要するとみられている。

 ▲明治産業革命遺産の世界文化遺産登録問題が再燃(6月)

 韓国政府は長崎・端島炭坑(軍艦島)など国連教育科学文化機関(ユネスコ)の世界文化遺産に登録された「明治日本の産業革命遺産」の登録取り消しを求める書簡を6月30日にユネスコに発送。日本が登録の際に情報センターを設置し、その中に「朝鮮半島出身者が意思に反して連れて来られ、厳しい環境で働かされたことを記憶できるようにする」との約束が反故にされたというのが理由で、決着、解決したはずの問題が蒸し返された。

 新宿に6月15日にオープンした産業遺産情報センターを訪れた韓国の特派員らが「犠牲者を記憶するための展示はなく、逆に強制徴用犠牲者の被害自体を否定する証言や資料が展示されていた」と報じたことから韓国政府が問題にし、今回のユネスコへの提訴に至った。これに対して日本政府は「戦時徴用された朝鮮半島出身者が端島炭坑などで働いていたことが明示されている」と反論し、韓国のユネスコ提訴に反発している。

 ▲安倍前総理の「跪く像」騒動(8月)

 冬季五輪(2018年)の開催地である江原道・平昌の植物園に慰安婦を象徴する少女像の前で跪き、謝罪する安倍晋三前首相に酷似した像(謝罪像)が設置され、日韓の新たな外交の火種となった。

 民間人が自費で自分の植物園内に建てていること、即ち公共物、公共施設ではないこと、園長が「謝罪している人物は安倍総理ではない」と否認していることや「表現の自由に関わる問題」などもあって韓国政府は設置を放置。

 菅義偉官房長官(当時)は「国際儀礼上許されないというのが政府の立場。日韓関係に決定的な影響を与えることになる」と韓国政府に撤去を求めたが、結局のところ8月10日に予告していた除幕式は行われなかったものの「謝罪像」は撤去されず、今もそのまま植物園に展示されている。

 ▲日韓首脳初の電話会談(9月)

 「史上最悪の関係」と称される日韓関係について両国ともに相手の指導者が変わらない限り、良くならないと言い合ってきたが、安倍晋三首相が8月28日に辞意を表明。菅政権が9月16日に誕生したことで日韓首脳による電話会談(9月24日)があった。

 電話にせよ、日韓首脳の会談は2019年12月に中国で行われた「安倍晋三―文在寅会談」以来9か月ぶり。菅義偉総理は韓国を「日韓両国はお互いにとって極めて重要な隣国である」と述べ、文在寅大統領も「日本は最も身近な友人」と応じたが、両国の発表には微妙な温度差があった。

 菅総理は「旧朝鮮半島労働者(徴用工)問題を始めとして現在非常に厳しい状況にあるこの両国関係をこのまま放置してはならない旨、私からは伝えた」と述べたが、韓国ではこの部分が「日韓両国の関係は過去史など様々な懸案で難しい状況にあるが、文大統領と共に両国関係を未来志向的に築いていくことを望んでいる」と言い換えられて伝えられた。

 ▲「ベルリン慰安像」設置を巡る外交戦(9月)

 ドイツの首都、ベルリンに9月25日、ドイツ在住の韓国人団体「コリア協議会」の手によって慰安婦像が設置された。茂木外相がドイツ政府に撤去するよう協力を求めたことが功を奏し、一旦は設置場所のミッテ区の区長が像に刻まれた碑文の内容を問題にして撤去命令を出したものの「コリア協議会」がベルリン行政裁判所に撤去命令の執行停止仮処分を申請したことで事態がこじれ、日韓の綱引きが演じられた。

 日本からは82人の自民党議員が連名でミッテ区長の撤去を支持する声明を出し、新宿区長や名古屋市長も撤去を求める書簡を相次いで送り、韓国もまた国会議員113人が連名で撤去に反対する書簡を駐独大使館に提出する一方、ソウルの城北区長と京畿道の義政府市長が設置を求める書簡を送るなど日韓外交戦に発展した。

 その後、ミッテ区議会はこの問題を審議し、圧倒的多数で撤去を撤回し、来年8月14日までの設置を認めたことでこの外交戦は韓国に軍配が上がった。

 ▲韓国が原発処理水放流に反対(10月)

 日本政府が震災事故にあった福島原子力発電所の「処理水」の海洋放出を決定するとの情報に韓国が猛反発。日本に最も近い済州道の元喜龍知事は「日本政府が福島原子力発電所の放射性物質を含んだ汚染水放出を強行すれば、民事・刑事上の訴訟も辞さない」と、強硬対応することを明らかにし、また慶尚南道の議会も海洋放出をしないよう求める決議案を採択した。さらに韓国国会の農林畜産食品海洋水産委員会は10月に海洋放出計画を撤回するよう日本政府に促す決議案を全会一致で採択した。

 日本政府は韓国が要請した場合、処理水の放出が環境に及ぼす影響を追跡するモニタリングなどの共同調査には応じる考えはあるとしているものの国際原子力機関(IAEA)が原発処理水の海への放出を支持していることもあって放出決定については韓国の抗議に影響されないとの立場である。

 ▲「日本海」「東海」呼称問題(11月)

 日本と韓国は長年、両国に面している海を「日本海」(Sea of Japan)と呼ぶか、「東海」(East Sea)と呼ぶかの争いがあった。1929年に設立された国際組織の国際水路機構(IHO)はこの約1世紀、「Sea of Japan」と定めてきたが、韓国は1997年のIHOの総会から「東海」への名称変更、もしくは「日本海」との併記を求めてきた。

 IHOはテレビ会議形式で行われた11月の総会で最終的に公式の海図には継続して日本海を単独表記することを暫定承認した。同時に、海域を数字で表記するデジタル版の海図を新たに作ることも承認した。デジタル版には「日本海」や「東海」のような名称ではなく、数字で表記する方法が導入されることになる。

 ▲資産現金化に向かう元徴用工補償問題(12月)

 韓国大法院(最高裁)が2018年10月に元徴用工らが日本企業を訴えた賠償請求訴訟で日本企業に原告への賠償支払いを命じて2年経った今年、韓国裁判所が差し押さえ命令決定など関係書類を企業側が受け取ったと見なす「公示送達」の効力が12月9日に発生した。これにより日本企業の韓国内の資産売却に向けた手続きが可能となったが、実際の売却までには資産鑑定など手続きに時間を要し、来年(2021年)に持ち越されることになる。

 韓国の裁判所から支払いを命じられた日本企業は日本製鉄(旧新日鉄住金)、三菱重工、富山の機械メーカー不二越の3件であるが、この他に9件が最高裁で、20数件がソウルや光州地裁で係争中である。

 元徴用工問題は「日韓請求権協定で解決済」との立場に立つ日本は現金化すれば、日韓関係は「破局を招くことになる」と韓国政府に警告を発し、本気度を示すため12月にソウルで予定されていた日中韓首脳会談を見送った。

ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

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