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「コロナ逃避」?それとも?「金正恩専用機」が日本海に向かった理由

辺真一ジャーナリスト・コリア・レポート編集長
専用機に搭乗している金正恩委員長(朝鮮中央TVから)

 航空機追跡サイトの「フライトレーダー24」によると、北朝鮮の旅客機1機が一昨日(22日)午前10時5分ごろ平壌を出発し、東海岸に向かった。航空機が平壌を飛び立ち、東海岸に向かって飛行するところはツイッターアカウント「ノーコールサイン」によっても確認されている。

 機種はウクライナのアントノフが製造したAN-148型で、金正恩委員長が国内を視察する際に使用される航空機である。

 金委員長には「チャンメ(大鷹)1号」と呼称されているイリューシンの「IL-62M」専用機がある。「チャンメ(大鷹)1号」は2018年5月に中国の大連を訪問した際に使用されていた。国内移動の際にはAN-148が使われている。

 東海岸には江原道の元山にある葛麻(カルマ)飛行場や咸鏡北道の清津飛行場、羅先に近い漁郎飛行場などがある。葛麻飛行場は元山葛麻空港とも呼ばれている。

 旅客機の行先は不明だが、飛行ルートからみて葛麻空港に向かったものと推定されている。このことから金委員長が新型コロナウイルス感染状況に不安を感じ、平壌を離れた可能性が指摘されている。また、元山には豪華別荘があるのでしばらくここに滞在するのではないかとも推測されている。しかし、避難、疎開が目的ならば、何も元山の別荘でなくても、他に候補地はいくらでもある。

 金委員長には父親(金正日総書記)から「相続」した「招待所」と呼ばれる豪華別荘が各地にある。北東部には元山招待所の他に「72号館」と称される咸興招待所と永興招待所がある。また、中朝国境に近い最北部の白頭山にも、また朝鮮5大山のうちの一つ,妙香山にも保養のための別荘がある。この他にも北北西の昌城にも、南南西の信川にもある。

 平壌の郊外(平安南道)には広大な敷地を有する江東招待所がある。単にコロナ回避のためならば気温の低い、雪の多い日本海側よりもむしろ温暖地を選ぶのではないだろうか? 実際に、今年5月は江東招待所で静養していた。

 「コロナ退避」以外ならば、目的は二つしか考えられない。

 一つは、元山&葛麻海岸観光地区の開発状況の最終確認にある。

 北朝鮮は日本海側の明沙十里の長い砂浜沿いに大型海岸リゾートを建設中にある。元山市と法洞郡の境にある馬息嶺に建設されたスキー場、さらには平安南道の陽徳郡の温泉観光地区を繋ぎ、年間120万人の観光客を誘致する計画の下で進められている。

 金委員長は2018年8月に視察した際には「この建設は強盗的な経済制裁で我々を窒息させるようとする敵対勢力との先鋭な対決戦であり、党の権威を擁護するための決死戦である」として、「皆、奮発して2019年10月10日の人民への贈り物にしよう」と、当初は2019年10月までの完成を命じていた。

 しかし、2019年4月に訪れた際には「速度にこだわり、やっつけ仕事ではだめだ。50年、100年経っても遜色ないものにすることが大事である」と言って、前言を翻し、完成期限を労働党創建75周年の今年の10月10日まで延ばした。

 ところが、これにも間に合わず、10月5日に開いた党第7期第19次政治局会議で10月12日から「80日間戦闘」を展開することを宣言し、完成期間をさらに延ばしていた。「80日間戦闘」の最終日は12月30日である。

 北朝鮮は来年1月に第8回党大会を開催する。党大会に向けての成果として元山&葛麻海岸観光地区の開発を終えてなくてはならない。完成してなければ、党大会を開きたくても開けない。

 もう一つは、新型潜水艦建造の確認にある。

 北朝鮮は日本海に面した咸鏡南道・新浦港に新型潜水艦を建造中である。規模は3千トン級でSLBM(潜水艦発射弾道ミサイル)を3基搭載できる。新浦は元山から車で1時間半の距離にある。

 北朝鮮はSLBM開発と潜水艦建造を同時に進めてきたが、SLBMはすでに「北極星1」に続いて「北極星3」そして「北極星4」まで開発済である。「北極星1」は2016年8月に完成しており、「北極星3」も昨年10月に水中からの発射テストを行っている。「北極星4」は10月の軍事パレードで初めて登場したが、「北極星3」同様にまだ一度も潜水艦からの発射テストが行われていない。

 「北極星3」も「北極星4」も新型潜水艦用とみられている。従って、後は新型潜水艦が建造され、進水式をやるだけだ。

 金委員長はトランプ大統領に長距離ミサイルの発射と核実験はやらないと約束した以上、トランプ大統領が退任するまではSLBMの発射ボタンを押すことはないとみられるが、潜水艦が完成していれば、バイデン新大統領の就任式に合わせての進水式あり得るかもしれない。

ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

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