Yahoo!ニュース

「コメで党を支えよう」のスローガンが復活! 北朝鮮は自力更生で食糧危機を乗り越えられるか!?

辺真一ジャーナリスト・コリア・レポート編集長
台風被害に見舞われた被災地を視察中の金正恩委員長(労働新聞から)

 今朝の労働新聞に「コメで党を支えよう」との見出しの記事が登場した。

 昨年4月29日付けの労働新聞が農業関連の記事で「金(ゴールド)はなくても暮らせるがコメがなければ1日も生きられない」との故金日成主席の発言を紹介した際に登場した「コメで党を支えよう」のスローガンが約1年半ぶりに再登場した。よほど食糧事情が芳しくないのだろう。

 建国記念日を目前にした今朝の「労働新聞」の長文記事をかいつまんで紹介すると、およそ次のような内容となっている。

 ・すべてはコメから始まる。人民の笑いも、強国も、文明もコメを離れては考えられない。

 ・今年の農事は党創建75周年と党第8回大会(来年1月)を成功裏に迎えるうえで重要な意義を持つ。

 ・コメで祖国と革命をしっかりと保衛してきたことは我が農業勤労者らの誇らしい伝統である。

 ・党創建75周年まで30日しか残されてない。横暴な自然の挑戦も半端ではない。

 ・人民の食卓に社会主義万歳の声が上がるようにしてこそ人民が党に対する有難さや信頼を心から受け止め党への忠誠の道を一生涯歩むことができる。農作物被害を最小化し、意義深い今年の農事業を成功裏に結束させることは人民生活向上を自らの活動の最高原則として捉え、ひとえに人民のためにすべてのことをやってきた我が党の不滅の業績を固守し、輝かせるうえで重大な事業である。

 ・コメは国力であり、社会主義である。コメは我々の尊厳であり、勝利である。農業部門の活動家や勤労者ら誰もが熱情を総爆発させ、10月の青空に豊年歌を歌おう!

 ・「コメで社会主義を守ろう!」「コメで我が革命を保衛しよう!」このスローガンが信念の、実践のスローガンとなるかは皆にかかっている。

 ・党創建75周年に向け前へ! 党第8回大会を高い穀物生産成果で迎えよう!

(参考資料:相次ぐ台風で危ぶまれる北朝鮮の4大国家プロジェクト 10月10日の党創建日がゴール!

 祖父・金日成主席時代の第3次7か年経済計画(1987-93年)の目標は「全ての人民が白米に肉のスープを保障する」(金日成主席)ことにあった。この7か年計画の最終年度の穀物生産は350万トンから約4.5倍の1500万トンが目標であった。それが30年近く経っても実現されず、2018年は455万トン、2019年も417万トン(世界食糧計画の推定)に留まっている。

 穀物の増産どころか、北朝鮮は1995年以来、慢性的に深刻な食糧不足に陥っている。それでもそれなりに持ちこたえてきたのは国際社会からの人道支援があったからだ。

 現に、韓国政府は1995年15万トン、2000年30万トン、2002年40万トン、2004年40万トン、2005年50万トン、2006年10万トン、2007年40万トン、2010年5万トン、2019年5万トンとこれまで合計で235万トンのコメ支援を行ってきた。

 北朝鮮にとっては宿敵でもある米国もまた、1996年の1万9500トンを皮切りに1997年17万7千トン、1999年69万5千トン、2000年26万5千トン、2001年35万トン、2002年20万7千トン、2003年4万トン、2004年11万トン、2005年2万3千トン、2008年16万9千トンの食糧支援を行ってきた。

 拉致問題を抱えている日本も例外ではない。人道支援の見地から1995年50万トン(無償15万トン、有償35万トン)、1996~97年に8万2千トン、2000年60万トン、2004年12万5千トンの支援を行ってきている。

(参考資料:「台風9号被害」で平壌の全党員に「SOS」を発信! 金正恩委員長の緊急メッセージの概要

 しかし、金正恩政権は今なお「外部の支援に頼るな」と人民に自力解決を求めている。

 昨年の生産量が前年よりも下回ったことから世界食糧計画(WFP)が深刻な食糧難を解消するには「最小で136万4千トンの外部からの援助が必要である」として韓国などに支援を要請したが、金委員長は韓国からの支援の手を払いのけている。

 集中豪雨と台風の襲撃により穀倉地帯である黄海北道、黄海南道、さらには江原道で大きな被害が発生していれば、自力更生や「正面突破」という掛け声だけの精神論ではとても持ち堪えられないだろう。

 国連農業機構(FAO)は 今年7月の時点で「北朝鮮の人口の40%にあたる1千10万人が食糧不足の状態にある」として「食糧難解決のため1345万ドル必要」との報告書をまとめ、世界各国に北朝鮮への支援を要請していた。

 北朝鮮がどの段階で、どういう理由付けで韓国などに支援を要請するのか、北朝鮮との関係改善を熱望している文在寅政権は手ぐすねを引いて待っている。

(参考資料:3度の台風到来で北朝鮮農業は壊滅か!? 25年前の飢饉の再来も!

ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

「辺真一のマル秘レポート」

税込550円/月初月無料投稿頻度:月3回程度(不定期)

テレビ、ラジオ、新聞、雑誌ではなかなか語ることのできない日本を取り巻く国際情勢、特に日中、日露、日韓、日朝関係を軸とするアジア情勢、さらには朝鮮半島の動向に関する知られざる情報を提供し、かつ日本の安全、平和の観点から論じます。

※すでに購入済みの方はログインしてください。

※ご購入や初月無料の適用には条件がございます。購入についての注意事項を必ずお読みいただき、同意の上ご購入ください。欧州経済領域(EEA)およびイギリスから購入や閲覧ができませんのでご注意ください。

辺真一の最近の記事