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珍しい金正恩委員長の「被災地視察」報道 なぜ写真が同時公開されない?

辺真一ジャーナリスト・コリア・レポート編集長
「コロナ疑惑」で完全封鎖した開城市に食糧支援を決めた党国務委員会(労働新聞から)

 今朝の朝鮮中央通信によると、金正恩委員長が昨日(6日)、水害被害に見舞われた黄海北道・銀波郡大青里を訪問し、金委員長用の備蓄穀物や物資を被災者に支援するよう指示したとのことだ。

 北朝鮮でも韓国同様に大雨による被害が発生し、金委員長が視察したとされる黄海北道・銀波郡大青里では「約730棟の住宅と約600町歩(1町歩は3000坪)が冠水し、179棟の住宅が崩壊した」と北朝鮮のメディアは伝えていた。

 今朝の労働新聞によると、金委員長は大雨被害状況を「現地で了解」し、物資の支援や被災地の復旧に向けて様々な指示を出したようだ。

 北朝鮮は例年台風や大洪水、旱魃などの自然災害に見舞われているが、金委員長の被災地訪問は極めて稀である。急死した父親(金正日総書記)の後を受け、2012年に政権の座に就いてから被災地視察は2015年9月の羅先市水害視察の1度しかなかった。それだけに現場視察が事実ならば、民生重視という評価に繋がるが、正直「本当かな?」と半信半疑である。その理由は三つある。

 一つは、現場を訪れた写真が公開されていないことだ。これまで経済関連の視察では労働新聞には写真も併せて掲載されていた。それが今回は一枚もなかった。

 現地視察が事実ならば、一両日中にも公開されるものと思われるが、仮に写真も、動画も配信されないとなると、本当に現場に足を踏み入れたのか疑わざるを得なくなる。

 次に、金委員長の現地、現場訪問には随行者が付きものだが、今回は一体、誰が随行したのか誰ひとり名前が公表されていないことだ。

 同行者の名前を伏せる理由は何一つない。例えば、死者40人、被災者1万1000人を出し、公共施設99棟、鉄橋51か所が倒壊した2015年の羅先市の水害視察の際には「人民軍次帥である黄炳誓・軍総政治局長、党中央委員会の李一煥部長、それに趙甬元副部長が同行」し、朴英植人民武力相ら軍幹部及び金勇進副総理が「現地で出迎えた」と報道されていた。

 それが、今回は、随行者のみならず、現地で出迎えているはずの黄海北道の朴昌虎党委員長も任勲人民委員会委員長らの名前すら報道されていないのは前例からすれば、何とも不自然である。

 第三に、北朝鮮は現在、全国的に新型コロナウイルス感染防止キャンペーンの真っただ中にある。それもこれも、先月19日に韓国から軍事境界線を越え、開城に帰郷した脱北者に感染の疑いがあったからだ。

 開城市は先月24日に非常事態が宣布され、依然としてロックダウン(都市封鎖)の状態にある。そのため一昨日、党中央委員会政務局会議が開かれ、完全封鎖した開城市に食糧を特別に支援することを決めたばかりである。

 金委員長自らが国家非常防疫体制を最大非常体制に格上げし、特別警報まで発令した開城市はまさに黄海北道の中心地である。世界保健機構(WHO)の平壌事務所によれば、開城では約4千人近くが隔離されている。感染リスクを顧みず、「危険な地域」に足を踏み入れたならば、人民から大いに称賛されることになるだろう。

 それには何よりも写真と映像が最も宣伝効果抜群である。そのことは他の誰よりも宣伝に長けている実妹の与正党第一副部長が熟知しているはずである。もしかして、黄海北道でも被災地の銀波郡大青里ではなく、隣接の発展した沙里院市に留まって報告を受けた可能性も考えられなくもないが、それもこれも写真さえ公開されれば、疑念は払拭されるというもの。写真があれば、是非配信してもらいたい。

(参考資料:1カ月ぶりに登場した金正恩委員長の異例の農場視察の裏に何が?

ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

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