イランの次は北朝鮮? 「米国vsイラン」と「米国vs北朝鮮」の決定的な違い!

イランのソレイマニ軍司令官の殺害が引き金となった米国とイランの軍事対立は、イランによる抑制した「ミサイル報復」と、米国が軍事手段による反撃を自制したことで全面戦争という最悪の状況は回避されそうだ。両国とも戦争への拡大を望んでいないわけで当然の帰結と言える。

今回の事態を受けて日本や韓国では「イランの次は北朝鮮」と囁かれているが、イランに対してできなかったこと、やれなかったことを米国は北朝鮮に対してできるだろうか?との疑問が湧いてもおかしくはない。

何よりも、北朝鮮とイランとでは軍事力が格段に違う。相撲の番付に例えるならば、関脇と平幕ぐらいの差がある。決定的な違いは、北朝鮮はイランとは異なり大量殺傷兵器の核爆弾とその運搬手段である様々な弾道ミサイルを保有していることだ。

イランは核保有を目指し、ナタンズとエスファハーンに濃縮ウランの核施設を建設し、遠心分離機1万9千基を使って濃縮ウランを製造する一方で、アラクに重水炉を建設し、核起爆装置の開発関連活動を継続していたが、2013年に国連常任安保理事国の米国、ロシア、英国、フランス、中国の5か国プラスドイツの6か国合意により中断状態にある。従って、核兵器の製造、保有にはまだ至っていない。

一方、1990年から核開発に取り組んでいた北朝鮮は2006年に初の核実験を断行し、2017年9月までにすでに計6回も核実験を行っている。その結果、プルトニウム型とウラン型の核爆弾のほか、水爆まで手にしている。ミサイルに搭載するための小型化、軽量化にも成功している。

核爆弾の保有数は不明だが、スウェーデンのストックホルム国際平和研究所(SIPRI)が2017年7月3日発表した世界の核軍備に関する報告書では「10-20発の核弾頭を保有している」と推定されている。翌年(2018年)ワシントンポスト紙(6月30日付)が伝えた国防情報局(DIA)の報告書には「65個」と記されていた。

弾道ミサイルについてもイランは米本土に到達可能な大陸間弾道ミサイル(ICBM)をまだ手にしていないが、北朝鮮はすでにグアムを標準に定めた「火星12号」のほかに米西海岸に届くICBM級の「火星14号」、さらには米本土を射程内に定めたICBM「火星15号」まで保有している。

「火星15号」の保有数は定かではないが、2018年2月の軍事パレードに登場した3基を含めおよそ5基はある。イランとは異なり、少なくとも最小限度の「報復手段」は手にしている。

金正恩委員長が一昨年の新年辞で「我が国の核武力はいかなる核脅威も粉砕し、対応できるし、米国が冒険的な火遊びができないよう制圧する強力な核抑止力となった。米国は決して私と我が国を相手に戦争を起こせない。米本土全域が我々の核打撃射程圏内にあり、核ボダンが私の事務室のテーブルの上に常にあるということは決して脅しでもなく現実であることをはっきりと知るべきだ」と豪語したのも「報復手段」を手にしたからであろう。

昨年1月に解任されたジェームズ・マティス前国防長官は2017年5月19日、「(北朝鮮に対して)仮に軍事オプションの行使となれば、信じがたい規模の悲劇を招くことになる」と述べ、朝鮮半島での武力衝突は大規模戦争に拡大する恐れがあると予測していた。マティス前国防長官だけでなく、歴代の在韓米軍司令官を含め米国の制服組に至っては早くからこうした認識を共有していた。

例えば、2008年から2011年まで在韓米軍司令官だったウォルター・シャープ在韓米軍戦友会初代会長は現職時の2011年に韓国の与野党国防委員らとの懇談会で北朝鮮の軍事力を世界4位(韓国は8位、イラン15位)と評価していた。世界1位の米国と4位が全面戦争となれば、誰が考えても、その被害は甚大となるのは自明である。

また、カーティス・スカパロッティ元在韓米軍司令官(2013年10月―2016年4月)も現職時の2016年2月24日、米下院聴聞会で「朝鮮半島での北朝鮮との衝突は第2次世界大戦規模に匹敵することになるかもしれない」と証言していた。ちなみに第2次大戦での米軍の死者だけで約40万5千人、朝鮮戦争での米軍の戦死者は約3万6千人に及んだ。

ジョゼフ・ダンフォード前統合参謀本部議長(海兵隊大将)も翌3月17日に米上院軍事委員会の聴聞会で「好戦的な北朝鮮指導部と世界第4位規模の在来式軍事力、さらには年々強化されている核・ミサイル能力は同盟国の脅威になっているばかりか、米本土への脅威も増している」と述べ、北朝鮮の能力に警鐘を鳴らしていた。この日、同じく証言に立ったマーク・ミリー陸軍参謀総長に至っては「我が軍隊は満足できるような、戦争を実行する水準でない。犠牲者、死傷者が相当出てくる」と驚くべき証言を行っていた。

ちなみに、北朝鮮がまだ核もICBMも保有していないクリントン政権下の1994年5月19日、クリントン大統領は対北空爆を決断する前にジョン・シャリカシュビリ統合参謀本部議長(当時)やゲイリー・ラック司令官(1993年3月―1996年7月)から戦争シミュレーションに関するブリーフィングを受けたが、その時の予想された米韓連合軍側の被害は以下のようなものだった。

「戦争が勃発すれば、開戦90日間で▲5万2千人の米軍が被害を受ける▲韓国軍は49万人の死者を出す▲南北間の隣接性と大都市戦争の特殊性からして米国人8万~10万人を含む100万人の死者が出る▲戦争費用は610億ドルを超す」

スカパロッティ元在韓米軍司令官は金委員長について「自身の政権が挑戦を受けると考えれば、大量殺傷兵器を使うだろう」と言明し、最悪の場合、即ち、北朝鮮が敗戦寸前に陥った場合「北朝鮮が大量殺傷兵器を使うこともありうる」と示唆していた。

米国防総省が作成した報告書によれば、ソウルに広島級(15キロトン)の核爆弾が投下されれば、62万人が死亡するとされている。また、米国防省傘下の国防脅威削減局(DTRA)は米軍基地のあるソウル竜山に20キロトンの核爆弾が投下されれば、死傷者は約275万人に及ぶとのシミュレーション結果を発表している。北朝鮮が2017年9月3日に実験した「水爆」の爆発規模は150~160キロトンだった。 

トランプ大統領は一昨年6月12日にシンガポールで金委員長との首脳会談を行ったことについてホワイトハウスで開いた安全保障会議(6月21日)の場で「北朝鮮と戦争になれば、3千万から5千万人の死者が出る大型の大惨事になりかねない」と、若干膨らませたところはあるにせよ北朝鮮との「戦争リスク」について語っていた。

トランプ政権が仮に全面戦争を恐れ、イランへの軍事的対応を自制したならば、「我々に対してもできないだろう」と金正恩政権が受け止めているならば、米国の反撃を危惧することもなく、予告した「新たな戦略兵器」の実験を近々、強行するのではないだろうか。

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(近著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

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