木造船漂着シーズン到来で北朝鮮は「漁船衝突事故」を終息!?

水産庁取締船が北朝鮮漁船と衝突(提供:第九管区海上保安本部/ロイター/アフロ)

 日本の排他的経済水域(大和堆)で10月8日に発生した日本水産庁の取締船と北朝鮮漁船の衝突事故は昨日の北朝鮮の通信社「朝鮮中央通信」の型通りの「批判」でもってこれ以上尾を引くこともなく収まりそうだ。

 「朝鮮中央通信」は28日、「日本政府が我々の漁船を沈没させるため故意に取締船を衝突させた」と対日非難の論評を出した。これは、日本が10日前に衝突映像を公開したことへの形式的な「批判」に過ぎず、北朝鮮としても事態をこれ以上、悪化させる気はなさそうだ。

 何よりも、第一に、事故発生時には外務省が前面に出て日本を批判していたが、今回は格下げし、「朝鮮中央通信」の論評に留めていたことだ。幼児教育・保育無償化制度からの在日朝鮮人幼稚園児の除外措置に対しては連日、朝鮮海外同胞委員会、朝日友好親善協会、朝鮮民主法律家協会、さらには外務省の名で日本政府を批判する声明を出しているのとは大違いだ。

 第二に、映像が公開されてから10日も経っているのに救助され、帰還した沈没漁船の船長や乗組員らの「反論」を載せるのでもなく、全く「反証」になってないことだ。

 安倍首相が参議院本会議(8日)で「北朝鮮漁船による不法操業は確認できなかった」と発言したことが「我々の漁船が朝鮮東海(日本海)を正常に航行していた」ことの裏付けになっているとか、「公開された映像だけでは北朝鮮の漁船が舵を切ったことが衝突の直接的な原因になったとは断言できない」との一部日本のメディアの報道を引用するだけで独自調査結果なるものが何一つなかった。

 一応、今回も前回同様に建前上、沈没した漁船の損害賠償と再発防止を求めていたが、本音ではこの問題でこれ以上、日本と争う気はなさそうだ。その最大の理由は、日本政府が日朝首脳会談実現に向け、北朝鮮批判を抑制していることにもあるが、何よりも北朝鮮漁船の日本漂流、漂着シーズン到来との関係である。一昨年(2017年)のデーターをみると、11月から12月までの2か月間だけで北朝鮮の木造船漂流件数は16件に上っていた。

 北朝鮮の水産関係者が金正恩委員長の「年間の水産量を飛躍的に増やすよう大胆かつ大きな目標を掲げ、戦え」との号令の下、決死の覚悟で漁獲に取り組んでいるのは周知の事実である。北朝鮮ではまさに漁は戦闘、漁師は戦士で、犠牲者は殉職扱いとなっている。

 衝突事故が起きた能登半島沖の大和堆はスルメイカなどの漁業資源の宝庫で、北朝鮮の漁船は労働党から課せられたノルマ達成のため4~5年前から大挙して押し寄せているが、その結果、新潟、石川、秋田、青森、島根など日本沿岸部への漂流・漂着件数だけでも2013年度からの5年間で372件に達する。この間、乗組員とみられる遺体77体を確認。生存者は19人に留まった。

 北朝鮮は今年2月、日本が青森と島根で遭難していた6人の乗組員を保護、治療し、中国経由で北朝鮮に送還した際、珍しく「近年、遭難したわが船員たちが無事に帰国できるように数回にわたって人道的援助を提供してくれた」として赤十字社を通じて日本政府に謝意を表していた。

 従って、昨日の「朝鮮中央通信」の「論評」は、今回の衝突事故で日本と正面から事を構え、こじらせれば、今後、生存者の処遇など日本からの人道援助が期待できなくなると憂慮しての事実上の「終息宣言」と言えなくもない。

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て、フリー。1982年 朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動開始。98年 ラジオ「アジアニュース」パーソナリティー 。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。著書に「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人、残念な日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙 間違いだらけの日韓関係」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など25冊

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