GSOMIAを破棄した韓国を後方支援せず、ミサイルをお見舞いする北朝鮮の3つの狙い

北朝鮮の短距離ミサイル(労働新聞から)

 北朝鮮が今朝(24日)もまたミサイルを発射した。今月に入って、5回目(2日、6日、10日、16日、24日)だ。いずれも短距離で2発ずつ発射している。

 今年は、5月の2回(4日と9日)と7月の2回(25日と31日)を加えると、これまでに述べ9回、計18発発射したことになる。すべて金正恩委員長が立ち会っている。

 今朝の発射は、文在寅政権が日本とのGSOMIA(軍事情報包括保護協定)の破棄を決定し、日本に通告した直後だけに韓国国内だけでなく、日本でも意外な感を持って受け止められている。

 韓国では野党を中心にGSOMIAの破棄で「金正恩政権は大いに喜び、万歳を叫んでいるはずだ」との見方が一般的で、日本でも「得するのは北朝鮮」という声が多く聞かれていた。北朝鮮が文政権にGSOMIAの破棄を迫っていたわけだから誰もがそう思うのは当然のことだ。

 本来ならば、文大統領が米国の反対を押し切り、北朝鮮の望み通り、破棄したわけだから、対話再開を呼び掛けている文大統領のラブコールに応えてもいい筈だ。ところが、北朝鮮は対話の手を差し伸べるどころか、意外にもミサイルで「返礼」した。

 韓国にとっては理解不能の北朝鮮の行動はこれが初めてではない。文大統領が8月15日に「南と北の力を合わせるならば」とか「南と北が手を結べば」等の北朝鮮お気に入りの言葉を駆使し、朝鮮半島の平和と共栄、そして統一に向けての呼びかけを行った時も北朝鮮は翌日(16日)ミサイルをお見舞いしていた。

 文政権の韓国は今、戦後最悪の関係にある日本との「経済戦争」の真っただ中にある。事の発端は慰安婦問題や元徴用工問題など歴史認識の摩擦に起因していることは北朝鮮もわかっているはずだ。まして、「歴史問題」では北朝鮮への償いが終わってないこともあって北朝鮮の対日姿勢は韓国以上に厳しい。

 韓国に口癖のように「我が民族」とか、「同じ民族」とか「民族第一主義」を強調してきたことを考えるならば、韓国に連帯し、後方支援をするのが同じ民族、同胞としてあるべき姿だが、北朝鮮は逆に足を引っ張ることばかりやっている。文政権を取り込むならば、米国の言うことを聞かず、GSOMIAを破棄してまで日本に対抗している今がその絶好の機会のはずだが、北朝鮮はまだその気が熟したとはみていないようだ。

 北朝鮮が「反北」を掲げる韓国の最大野党(自由韓国党)と日本の板挟みにあい窮地に陥っている文在寅政権に救いの手を差し伸べない理由の一つは、何よりも文政権が米国と一緒になって合同演習を続けていること、北朝鮮にとって脅威のF-35Aステルス戦闘機40機を導入していること、新型イージス艦の建造や中距離弾道ミサイルの配備など更なる軍備増強を図ろうとしていること、今後5年間国防予算を増額(年間約5兆円)することからくる不信にあるようだ。

 北朝鮮からすれば、どれもこれも昨年3度の南北首脳会談で交わされた「板門店宣言」や「平壌宣言」「南北軍事協定」に反する「裏切り行為」に映っている。「板門店宣言」では「軍事的緊張状態を緩和し、戦争の危険を実質的に解消するために共同で努力していく」ことを約束しており、「平壌宣言」では「軍事対決を終息させ、朝鮮半島全域で実質的な戦争脅威の除去と根本的な敵対関係の解消に向かう」ことを謳っていた。

 特に軍事境界線を挟んで対峙している南北の軍当局は「相手方を狙った大規模な軍事訓練および武力増強問題や相手方に対する偵察行為の中止問題などに対し『南北軍事共同委員会』を稼働させる」ことに合意していた。文政権としては北朝鮮の核・ミサイル問題が解決されておらず、「北の脅威」が現存している状況下にあってはやむを得ない措置であるが、北朝鮮には通じないようだ。

 二つ目の理由は、経済協力に応じなかったことへの不満が背景にある。

 文大統領を相手に3回も首脳会談を行い、そのうちの1回は平壌に招請し、マスゲーム会場で韓国の大統領としては史上初めて北朝鮮の人民大衆を前に演説をさせたにもかかわらず、制裁を緩和せず、金剛山観光の再開や開城工業団地の再開に応じなかったことを「背信行為」とみている。

 金委員長は昨年、「先軍政治」の看板を下ろし、核と経済開発を同時並行させる「並進路線」から「経済路線」へのシフトを宣言し、軍人に労働者や農民らと一緒に経済に専念するよう呼び掛けていただけに当てが外れたことは自らの見通しの甘さを露呈したことになり、それ即ち、威信の低下に繋がりかねないとの危惧を抱いていたものとみられる。従って、軍の引き締め、国内の結束を図るためにもミサイルの開発、発射に踏み切ったと言えなくもない。

 そして三つ目の理由は、文大統領が光復節の演説で「日本には二度と負けない」と「抗日」を宣言し、北朝鮮との経済協力がその秘策であることを明らかにしたことで、下手に出ざるを得ない文政権をコントロールできると思っていることだ。

 過去に金大中政権や盧武鉉政権の時もそうであったように北朝鮮に融和的な政権が窮地に立たされている時ほど更なる譲歩を引き出すために突き放し、見放してきた。突き放せば突き放すほど、見放せば、見放すほど寄って来たからだ。

 今月11日に北朝鮮の外務省局長は談話を発表し、現状では「南北の接触自体が難しい」とした上で、文政権が態度を改めない限り「今後、対話に向かう良い気流が生じて我々が対話に出るとしても、そのような対話は米朝間で開かれることであって南北対話ではないということを(文政権は)はっきり知るべきだ」と牽制していたが、裏を返せば、「会って欲しければ、GSOMIA破棄以外の土産を用意しろ」と言っているようにしか聞こえてならない。

 冷たい仕打ちの金正恩政権に文在寅政権はどこまで辛抱するのだろうか?

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て、フリー。1982年 朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動開始。98年 ラジオ「アジアニュース」パーソナリティー 。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。著書に「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人、残念な日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙 間違いだらけの日韓関係」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など25冊

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