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金正恩委員長が久しぶりに「肖像画バッジ」を胸に付けていた!

辺真一ジャーナリスト・コリア・レポート編集長
「金日成・金正日肖像画バッジ」を付けて演説する金正恩委員長(労働新聞から)

 日本の国会にあたる最高人民会議は12日に閉幕したが、開催直前までは金正恩委員長が大統領のような新ポストに就くのか、ベトナムでの米朝首脳会談の失敗で非核化交渉を打ち切り、対米強硬策を打ち出すのか、米朝首脳会談の責任者の金英哲党統一戦線部部長の処遇がどうなるのかに内外メディアの関心が注がれていたが、「大山鳴動して鼠一匹出ず」で、どれもこれも肩透かしに終わった。

 金正恩委員長の肩書はこれまでと同じ国務委員長のままで、崔善姫外務次官が予告していた「新たな道」(核・ミサイル発射再開)を選択することもなく、金英哲部長も更迭、失脚することもなく、健在が確認された。

 今回の最高人民会議で多少なりとも変化があったとすれば、1998年以来最高人民会議常任委員長の座にあった今年91歳の金永南氏が退任し、後任に69歳の崔龍海国務第一副委員長が就任したこと、もう一つは、今年55歳の崔善姫外務次官が党中央委員候補を飛び越え、一気に党中央委員に選出され、さらには13人しかいない国務委員に抜擢されたことだ。今後、73歳の金英哲氏は対韓関係に専念し、対米関係は崔次官が前面に出て仕切ることになるのではないだろうか。

 気になる変化と言えば、金正恩委員長が実に久しぶりに「金日成・金正日肖像画バッジ」を左胸に付け、最高人民会議の場に現われ、演説を行ったことだ。

 金委員長は2017年以降、バッジを一度も着用してない。国民向けの新年の挨拶の時も、祖父と父の誕生日、建国記念日、党創建日に欠かすことのない錦繍山太陽宮殿参拝でも、国家行事への出席や地方視察でもバッジを付けずに現れていた。

 金委員長は少なくとも2016年5月の第7回党大会まではバッジを着用していた。当時党第一書記だった金委員長は36年ぶりに開かれたこの大会で祖父・金日成主席以来実に50年ぶりに党委員長に推戴されたが、背広姿で登壇した金委員長の胸にはバッジが付いていた。

 どの時点、どの段階で、何が契機になってバッジが外されたのかは定かではないが、党大会後の5月21日に行われた完成目前の自然博物館の視察ではバッジを付けてなかった。また、その6日後の柳京眼科総合病院建設現場視察(27日)でも、さらに5月30日の中朝バスケットボール親善試合観戦時も、翌6月4日の万景台少年団野営所の視察の際でもバッジは着けてなかった。どちらにしても、党大会後の5月の段階でバッジが外されたのは間違いない。

 父親の金正日総書記も金日成主席の3年の喪が明けるまでは金日成バッジを付けていたが、1997年10月に党総書記を継承してからはバッジを外すようになった。従って、最高指導者になった以上、金委員長がバッジを常用しないのは不自然なことではないが、李雪主夫人までも外しているのは意外である。

 李夫人は「ファーストレディー」としてデビューして以来、過去7年間でバッジを着用したのはたった二回しかない。

 一度目は初めて公の場に出てきた2012年7月6日。牡丹峰楽団のテスト公演の観覧に民族衣装ではなく、西洋のスーツ姿で現れたが、左胸にはバッジが輝いていた。この時点では金正恩委員長の夫人であることはまだ公にされてなかった。この日の公演はディズニーのキャラクターそっくりの着ぐるみが登場し、話題を呼んだことで記憶に新しい。

 

 二度目は義父の金正日総書記の一周忌の2012年12月17日。夫と共に宮殿参拝した李夫人は喪服のような黒いチマチョゴリを着ていたが、左胸にバッジを付けていた。これ以外はノーバッジである。夫と腕を組んで2012年7月25日に陵羅人民遊園地竣工式に現われ、初めて金委員長の夫人であることが公式に紹介されたが、この時もバッジを付けてなかった。

 北朝鮮の国民に義務付けられている「金日成・金正日肖像画バッチ」を公の場での付け忘れは北朝鮮では絶対にあってはならないことだ。

 「ファッションを優先させているから」との珍説も囁かれるが、火災や火事になっても人命の救出よりも、真っ先に金日成主席、金正日総書記の「肖像画」を持ち出すことを奨励するお国柄にあって肖像画バッジよりもファッションを優先させるなどあり得ない話だ。

 「李雪主夫人は例外、特別扱いだから」との見方もあるが、夫人だからと言って「例外」「特例」は許されないはず。現に叔父の張成沢処刑の罪状の一つに「元帥様の常なるお側役であることをいいことにして自身が革命の首脳部と肩を並べる特別な存在という事を内外に見せびらかせ、幻想をでっち上げた」というのがあった。

 誰も注意しないところをみると、夫が「付けなくても良い」と容認しているからであろう。模範であるべき立場の者がいつまでも「不敬」のままでは国民に示しが付かないのではと思っていたが、今後、金委員長夫妻はバッジを身に付けるのだろうか?

ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

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