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内閣情報官がベトナムで接触した人物は金正恩実妹の最側近!

辺真一ジャーナリスト・コリア・レポート編集長
朴槿恵前大統領が野党時代に訪朝した時に接待した金聖恵室長(労働新聞から)

 北朝鮮で身柄を拘束されていた日本人観光客の帰国にタイミングを合わせるかのように米紙ワシントン・ポストは昨日、「日朝情報当局高官が先月、ベトナムで極秘に接触していた」と報じた。

 同紙によると、北朝鮮側と接触したのは北村滋内閣情報官で、北朝鮮側は「キム・ソンヘ」という名の人物。「キム・ソンヘ」なる人物の肩書が伝えられるように「統一戦線部統一戦線策略室長」ならば、金正恩委員長の実妹、金与正党第一副部長の最側近である金聖恵党中央員会室長のことである。

 金聖恵氏の対外的肩書は党中央員会室長だが、裏の肩書が統一戦線部策略室長。役職が示しているように金聖恵室長は長年、主に対韓、統一部門を担当してきた。

 金聖恵室長はポンペオ国務長官との最終談判のため5月30日にニューヨーク入りした金英哲(キム・ヨンチョル)党国務副委員長(統一戦線部部長)率いる北朝鮮代表団の中に紅一点、含まれていたことはあまり注目されなかった。

 会談後、ホワイトハウスのガーデンでトランプ大統領が金英哲副委員長と記念写真を撮る際に手招きして呼び寄せたことから西側のメディアからは金英哲氏の夫人と勘違いされていた。

 今年51歳の彼女は6月12日の米朝首脳会談の際に儀典を仕切った金昌宣国務委員会部長(金正恩秘書室長)と同様に一昨年亡命した太永浩元駐英公使が先頃出版した著書(「3階書記室の暗号」)で取り上げた金正恩秘書室のメンバーでもある。金与正党第一副部長の後ろ盾もあってそれなりの権限も実力もある。

 朴槿恵前大統領が野党時代に訪朝(2002年5月)した際にも、また現代グループの女性オーナー、玄貞恩会長の訪朝(2009年8月)でも、さらに故・金大中大統領の夫人(李姫鎬女史)が金正日総書記の葬儀(2012年12月)に出席した時も、必ず接待役として登場し、金正日総書記との会談をセッティングしていた。また、2013年6月には南北高位級会談実現に向けた実務、交渉では祖国平和統一委員会部長という肩書で北朝鮮側の団長として参加していた。

 金聖恵室長は今年2月に平昌五輪開会式に金正恩委員長の特使として訪韓した金委員長の実妹、金与正第一副部長に密着随行し、また、3月に北京で行われた中朝首脳会談、4月の板門店での南北首脳会談にも随行メンバーとして加わっていた。これらの首脳会談には李雪主夫人と与正氏が同行していた。

 金英哲副委員長が出席した平昌五輪閉会式にも金聖恵室長は随行していたが、閉会式に米国からトランプ大統領の娘であるイバンカ補佐官がアリソン・フッカー国家安全保障会議(NSC)朝鮮担当部長を伴って出席したからに他ならなかった。換言するならば、この二人の女性と金英哲部長との接触、あるいは会談を想定して派遣されたと言っても過言ではなかった。

 金聖恵室長は4月27日の南北首脳会談には随行したものの南北首脳会談を前に4月5日に行われた儀典、警護、報道に関する実務交渉には金昌宣部長が率いた代表団メンバー(6人)には加わらなかった。また、金昌宣部長は米朝会談場所や宿泊施設の選定や儀典、警護関連で事前にシンガポールを訪れたが、金聖恵室長はシンガポールに行かず、金英哲副委員長と行動を共にし、米国を訪れていた。

 仮に、ワシントン・ポストの報道のとおりならば、金聖恵室長は対韓、対米だけでなく、対日も担当していることになるが、裏を返せば、彼女の上司でもある金与正党第一副部長が対米、対日など外交にも関与していることを意味している。

 北村滋内閣情報官と金聖恵室長との秘密接触の日時は不明だが、北村情報官はほぼ毎日、官邸を訪れているが、7月は7日~8日の3日間、13日~16日の4日間は官邸に現れてない。

 安倍総理は米朝首脳会談開催決定後から「拉致問題は最終的には私と金正恩委員長の間、日朝間で解決しなければならない。北朝鮮が正しい道を歩むなら、日朝平壌宣言に基づいて国交を正常化し、経済協力をする用意がある」(6月9日)「金正恩委員長が大きな決断をすることが求められる。相互不信という殻を破って一歩踏み出し、解決したい。信頼関係を醸成していきたい」(6月16日)と発言し、再三にわたって北朝鮮にラブコールを送っていたのは周知の事実である。

 日朝情報当局者の秘密接触の結果かどうか定かではないが、韓国の拉致被害者家族でつくる「拉北者家族会」の崔成竜代表は7月12日、金正恩朝鮮労働党委員長が日本人拉致問題について「(2014年のストックホルム合意に基づく)調査結果を改めて日本側に説明するよう指示した」という情報を平壌の消息筋から得たことを明らかにしていた。

 また、北朝鮮が日本人拉致問題を巡り、4年前に入国を認めた神戸市の元ラーメン店員田中実さんと同じ店の元店員金田龍光さん以外に「新たな入国者はいない」と伝えていたとの情報が伝わってきたのもこの日朝極秘接触の直後のことである。

 安倍総理は今月6日の記者会見で「最後は私自身が金正恩委員長と対話し、核・ミサイル、何よりも重要な拉致問題を解決し、新しい日朝関係を築かなければならない」と述べ、日朝首脳会談の実現に意欲を示したが、北朝鮮による日本人観光客の釈放はもしかすると、日朝首脳会談に向けての環境つくりの一環かもしれない。

ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

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