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南北首脳会談は公表、米朝首脳会談は未公表―金正恩委員長の思惑

辺真一ジャーナリスト・コリア・レポート編集長
初の米朝首脳会談に臨むトランプ大統領と金正恩委員長

 昨日(9日)、北朝鮮は労働党中央委員会政治局会議を開いた。最高人民会議開催開催(11日)を前に予想されていた政治スケジュールの一環である。

 政治局会議では最高人民会議に提出する来年度国家予算について協議されたほか、金正恩委員長から最近の朝鮮半島情勢に関する報告があったようだ。

 北朝鮮は金委員長の報告の中で南北首脳会談が4月27日に板門店の韓国側地域にある平和の家で行われることを初めて国民に知らせていた。

 南北双方は3月29日の高位級会談で首脳会談を「平和の家で4月27日に行う」との共同報道文を発表していたにもかかわらず北朝鮮メディアは「共同報道文には南北首脳会談の時期と場所が明らかにされている」とだけ報道し、会談の日や場所については国民に一切伝えてなかった。

 南北首脳会談の開催は政治局会議で了承を得たことになるのでこれにより、三度目の南北首脳(文在寅大統領―金正恩委員長)会談は4月27日に行われることが確定したが、歴史を振り返ると、過去2度の南北首脳会談は合意どおり当日に行われたことは一度もなかった。

 一回目の2000年6月の南北首脳(金大中大統領―金正日総書記)会談は合意では金大中大統領が6月12日に訪朝して行われることになっていたが、北朝鮮側の事情で1日延び、13日に金大統領は平壌入りせざるを得なかった。

 (参考資料:18年前の第一回南北首脳(金大中―金正日)会談の議題と攻防

 二回目の2007年10月の南北首脳(盧武鉉大統領と金正日総書記)会談もまた、韓国の国家情報院院長(金万福)と北朝鮮の統一戦線部部長(金養建)が8月5日に協議し、3日後の8日に「8月28-30日に平壌で行う」と同時発表したが、これまた北朝鮮側が延期を要求し、10月2-4日に変更されてしまっている。

 「二度あることは三度ある」か、それとも「三度目の正直」で合意どおり今月27日に行われるかは、これまた当日になってみなければわからない。

 世界の関心は前座の南北首脳会談よりも、本番の米朝首脳会談に向けられているが、金委員長の昨日の報告では「米朝対話展望について深度深く分析評価した」とだけしか触れておらず、トランプ大統領との首脳会談の開催についてはまだ国民に伏せたままである。

 史上初の米朝首脳会談については金委員長自らが平昌五輪後の5月3日に訪朝した韓国特使を通じてトランプ大統領に「早い時期にお会いしたい」と要請し、それを受けトランプ大統領が「5月までに会談を行う」意向を示したことから今では既成事実化している。

 実際にトランプ大統領は以後、金委員長との首脳会談について「何が起こるかなんて誰も分からない。私はすぐに立ち去るかもしれないし、そのまま席に座って世界にとって最高のディール(取引)を成し遂げるかもしれない」(3月10日)「私は我々の会談に期待している。昨夜、習近平主席から金委員長が私との会談を期待しているというメッセージを伝えてきた」(3月28日)等など米朝首脳会談について再三言及しており、昨日(9日)もホワイトハウスで開かれた閣議の冒頭、首脳会談の開催時期について触れ、「5月か6月初旬になる」と述べたばかりだ。

 しかし、北朝鮮は依然として公式的には米朝首脳会談に関して一言も言及してない。金委員長は訪中(3月25-28日)した際、習主席との会談で米朝首脳会談への意気込みや米国が求める非核化の条件などを提示していたが、北朝鮮の国営放送は「朝鮮半島情勢管理問題を含む主要事案については深みのある意見交換を行った。会談は虚心坦懐で、建設的で、真摯な雰囲気の中で行われた」との表現に留めていた。

(参考資料:米朝首脳会談は実現するか?北朝鮮の「本気度」を占う4つのチェックポイント

 米朝会談の日時や場所、議題が何一つ決まってないことから公表は時期尚早と判断しているのかもしれないが、昨年の国連総会でのトランプ大統領の「北朝鮮を破壊する」演説に金委員長自らが激怒し、トランプ大統領を「火遊び好きな放火魔」「チンビラ」呼ばりし、「老いぼれた狂人を必ず、火でしずめる」と啖呵を切った相手との直接会談だけに南北首脳会談とは違い、対内的な説明に相当腐心しているようだ。

 何よりも「米国が推進する我が国の核問題の外交的解決には一かけらの期待も持たない」(労働新聞)と言っていただけに手のひらを返して米朝首脳会談を求めたとなると、それなりの国民向け言い訳が必要で、そのためにも北朝鮮は会談場所をできることならば平壌、悪くても板門店にしたいところだろう。「トランプが白旗を掲げてやってきた」と「外交勝利」を謳うことができるからだ。

 (参考資料:北朝鮮が前代未聞の声明を発表! 究極の「トランプVS金正恩バトル」

ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

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